第94話 女性陣の意見
カイトは街の酒場に戻ってくると、「受けたい依頼がある」とアリサとプラリムを徴集した。テーブルを囲んで座り、適当に飲み物を注文する。
「それで、依頼は何よ?」
「聞いて驚くな? クリスティーナの捜索だ」
カイトの言葉に、アリサは顔をしかめた。
「はぁ? アンタ、本気で言ってるの? 今、どれだけの冒険者が一攫千金目当てでクリスティーナを探してると思ってんのよ?」
現在、王国が提示している懸賞金は徐々に大きくなり、十数年は遊んで暮らせる額に達していた。多くの冒険者が元王女を追い、情報を求めて遠方から賞金稼ぎも頻繁に来る。
クリスティーナ捜索に参加するとなると、彼ら全員がライバルだ。競争率が非常に高く、逸早く彼女を発見するための能力が必要になる。
今、この酒場を見渡すと、彼女目当ての冒険者らしき連中がチラホラいる。地図を広げ、元王女の痕跡や捜索範囲について書き記していた。
「そもそも、クリスティーナをアタシたちが倒せるの? そこらのモンスターを相手にするのとわけが違うわよ?」
彼らを出し抜いてクリスティーナを発見できたとしても、捕縛できなければ意味がない。
クリスティーナが前線で剣を振るっていた頃の逸話はいくつか耳にしたことがある。魔族の暗殺部隊を剣一本で撃退したとか、輸送部隊を襲撃した大型モンスターを一刀両断したとか。
敵国への抑止力として誇張された話ではないか、と疑う人々もいるが、クリスティーナとギルダの戦いを見ていたカイトとアリサはその噂は事実だろうと確信していた。
「それに、居場所は分かってるの? 冒険者があちこち虱潰しに探してるけど、全然見つからないじゃない」
「まだ本格的に探してない場所が近くにあるだろ?」
「まさか……魔族領のことを言ってるの?」
カイトは笑顔で頷くと、プラリムは目を丸くした。
王国内はほぼ捜索済みだが、魔族領は魔族との交戦を避けるために騎士団も手を出していない。踏み込もうとした冒険者もいたが、ギルダに返り討ちにされている。
「魔族が元王女を受け入れるとは思えないけど」
「それは分からねえよ? シェナミィみたいに魔族に侍らされてる女もいるからなぁ」
「魔族とクリスティーナが協力してる、ってこと?」
「表面上は仲が悪そうだったけど、本当は密約とかあったんじゃないかな」
シェナミィという少女がカジに付き従っているという話は、ロベルトから聞いていた。カジがどんな手段で彼女を抱き込んだのかは不明だが、その方法をクリスティーナにも応用したのではないだろか。
相手は王国最強の騎士で、しかも魔族の後ろ盾があるかもしれない。
そんな状況に、捜索自体がほぼ詰んでいるような感じがして、アリサは深く溜息を吐いた。
「この仕事は危険よ。命がいくつあっても足りない。アタシは復讐を成し遂げるまでは死にたくないわよ?」
「必要戦力なら心配すんな。とっておきのを用意してもらってる」
「どういうこと?」
「詳しいことは言えないけど、ドレイクさんに色々準備してもらったんだ」
「ふぅん……どうもあの人、信用しづらいし、アタシは降りるわ」
アリサもドレイクと会ったことがあったが、その直後に妙な事件に巻き込まれた。ドレイクに自分の精霊紋章を見せたことがきっかけではないかと考えているが、決定的な証拠も無いため、うやむやになっている。
組合や冒険者から信頼されている人物ではあるが、個人的にはあまり近づきたくない。
そのとき、プラリムは小さく手を上げた。
「あの……私も、あんまり自分と同じ人間族を相手に戦いたくないというか」
プラリムが冒険者になってから今まで、人間を相手に戦闘を繰り広げたことはない。相手はいつも魔族やモンスターで、問答無用で人間族を襲ってきた。だから、同族を守るため必死に武器を振れた。
しかし、今回の相手は同族の人間で、しかも多くの王国民に慕われていた元王女だ。いつもの依頼と事情が異なる。それ故に、プラリムの中ではこの件に対するモチベーションが下がっていた。
「お前、金が欲しくないのかよ?」
「欲しいですけど、私はなるべく堅実に稼ぎたいんです」
「逃げ回ってる罪人を捕まえる仕事は堅実じゃないっていうのかよ」
「そんな博打を打たなくても、手ごろな依頼をこなしていけばいいじゃないですか!」
女性陣の反対に、カイトは言葉を詰まらせた。
意外にも彼女たちが乗って来ない。戦力になると思っていたのに誤算だった。現実的で堅実的な彼女たちをカイト一人で押し返すことは難しい。
報酬が高ければ高いほど良いというわけではない。
「じゃあいいよ! 俺とロベルトだけで行って来るから!」
いつも自分に賛同してくれるメンバーに依頼を拒否され、苛々のあまりカイトは彼女たちを置いて酒場を飛び出した。夜道を一人、人混みにぶつかりながら走っていく。
「ったく、どいつもこいつも!」
この頃、どうも女性関係が上手くいかない。
自分の人生を一変させたクリスティーナを屈服させることはできず、アリサとプラリムは自分の依頼に付き合ってくれない。
カイトは自分の宿屋に向かって突っ走り、近道をするために裏路地に入った。
角を曲がった直後――。
「ぐぁ!」
「痛えな、おい!」
カイトは冒険者らしき集団にぶつかってしまった。屈強な格闘家に、華奢な剣士、それから女魔導士。彼らが首にかけているタグからして、組合内での階級はカイトよりも上だ。
「暗いし狭いんだから、もっと気を付けて歩け!」
「うるせえ! テメェらがこんなとこに突っ立ってるからぶつかるんだろ!」
尤もなことを注意する上級冒険者に対し、カイトは声を荒らげる。
いつの間にか、無意識のうちにカイトは剣を握っていた。増幅された魔力によって掻き立てられた闘争心が、彼を凶行へ突き進ませる。
「お、おい! こんなことで剣なんか抜くな!」
「俺の言うことが分からねぇヤツは、全員ぶち殺してやる!」
次の瞬間、カイトの剣は屈強な男の胴体を真っ二つに裂いていた。
「こ、こいつ!」
「おらぁ!」
彼の背後に控えていた剣士が咄嗟に武器を構えたものの、カイトの人間離れした動きに対応することは不可能だった。彼の首は高く飛ばされ、プシャリと血の雨が降る。
「た、助け――!」
残った若い女性魔導士は、踵を返して走り出した。しかし、カイトの投げた剣が彼女の脹ら脛を貫通し、彼女は声にならない悲鳴を上げながら倒れ込んだ。
カイトは彼女の頭部を地面へ叩き付け、意識を朦朧とさせると、魔導士用のローブをビリビリと破いた。さらに奥の下着も剥がし、彼女の秘部を露にする。
「や、止め――!」
カイトは硬くなった部位を強引に差し込み、大声で助けを呼ばれぬよう両手で彼女の首を押さえ付けた。
カイトは自分を昂らせる膨大な魔力を制御できずにいた。気に入らないヤツを殺したくて堪らない。適当な雌を孕ませたくて堪らない。
カイトが体内に溜まっていた活力を出し切る頃、女はすでに息をしていなかった。彼女を押さえていた手を離すと、首が不自然な方向に垂れる。
「お前が……お前らが悪いんだ……!」
カイトは急いで自分の性器をしまうと、そそくさと路地裏を駆け抜けて行った。
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