1-4 幻獣ケットシー
1日日の野宿である。従者のダイアンとは取り留めのない話を長々としていたが、話が住んだと思いきや、あっさりと眠りに入った。
「さて、はじめるか。」
僕は計画を実行する。
実は出発前、冒険者の間で、物がよく盗まれるという話が盛り上がっていた。
聞くと、魔獣狩りやダンジョン探索中に鞄が無くなっているらしい。そして、その泥棒を見た人たちの共通の情報として、
①被害は今野宿をしている、このあたりで集中して発生している。
②獣の姿を見た。猫のように見えた。
この2つの情報からパトリシアは思い当たることらしく、そいつを捕まえようと僕は事前準備をしていた。
僕はその獣が好物であると本に書いてあった、あるものをカバンの中に入れた。そして、鞄を自分のすぐ隣に置き、眠るふりをした。
しばらくすると、何かが近づいてくる気配を察した。【アラートエリア】のスキルを持っているので、どんな変化も検知できる。
そして
「うぎゃ~」
僕はその獣が鞄を盗もうとした瞬間、首根っこをつかんだ。
「なんでわかったにゃ~」
想定していたとおり、人間の言葉を発した。その姿は猫の姿をしていた。
「やめるにゃー。」
「お前は何者だ。」
「何で分かったにゃか?。」
「もう一度言う、お前、名前は?」
首をもう一回締め付けた。
「うぎゃ~ケットシーにゃ。」
「今日の昼頃からずっとついてきていたな。目的はなんだ?」
「知っていたにゃか??」
ケットシーはとても驚いた。普通の人にはバレないように隠れて移動していたからだ。だが、僕は【アラートエリア】のスキルで気配を感じていたので知っていた。
「目的はなんだ。」
「そのかばんの中にある、乾燥マタタビにゃ」
マタタビは猫の鉱物である。しかし、人間にとっては、乾燥したマタタビは、薬の調合原料となるため重要なものだ。ケットシーはこの乾燥したマタタビの匂いを嗅ぎつけたのだ。
「その乾燥マタタビを渡せば、危害は加えないにゃ。」
「これは大事なものだ。渡すわけにはいかない。」
「ほー、私と戦う気にゃのか?」
「なに、僕に喧嘩を売る気なのか?」
「懲らしめてやるにゃ」
そういって、ケットシーは身体をばたばたと大きく暴れ、僕の手から離れた。そして、いったん下がり僕にとびかかってきた。
僕はさっと攻撃をかわした。
「ほう、私の攻撃をかわすにゃんて、なかなかいい動きをするにゃ。」
「そりゃどうも。」
「じゃあ、これならどうにゃ!」
そう言って、ケットシーは左右に素早く飛び跳ね続け、いつどこから飛んでくる変わらないような動きを始めた。
「しゃ~」
ケットシーはとびかかってきた。しかし僕はあっさりとかわし、彼の額に向かって
「デコピンだ」
そう言って、ケットシーの頭をツンとはじいた。
「うぎゃーー」
そういって、ケットシーは地面を転げまわった。筋力は鍛えまくっているので、デコピンがとてつもなく痛いのだ。
「続けるか?」
「すみませんにゃ。僕の負けにゃ」
ケットシーはあっさりと負けを認めた。
「う~、こんなに強い人間は初めてにゃ~」
「いつもはどうしているんだ?」
「いつもは、戦うふりをして物を盗んで逃げていたにゃぁ。失敗はなかったにゃ。でもあんたには勝てそうにないにゃ。」
「じゃあ、僕と主従契約を結んでくれるかい?魔名はそうだね、タマだ。」
「タマですにゃか?まあ気にしないにゃ」
そう言って、猫の頭を手で撫でた。主従契約が結ばれた。魔名とは、主従契約時につける名前だ。
「せっかくなので、【タマ】にいいことを教えてやるよ。ここから向こうに見える岩があるだろ、あそこの裏にマタタビがたくさん生えているぞ」
「本当にゃ?兄き!ありがとにゃ!!」
そう言って、タマは走っていった。なぜ兄きと呼ばれたのかは不明だが、まあいいか。
ケットシーは、【スティールハンド】のスキルを持っていた。これは、物を盗むスキルだ。ケットシーらしい。
次の日の朝、何事もなかったかのように僕は起きて、ダイアンと共に出発した。ケットシーもついてくる。しかし、パトリシアと違って、隠れず馬車の幌の上に載っている。人の前では見た目が普通の猫に姿に見えるので問題無い。
「兄き、私は世界中にいる、普通の猫を従わせる能力を持っているにゃ」
「へ~それはすごいな。」
「そして、その猫たちが入手した情報を、私が兄きに教えるにゃ。」
「おお、それはすごい。とても頼もしい。」
「ただし、その猫たちには、マタタビを報酬にしてあげる必要があるにゃ。」
「分かった。準備するにゃ。」
あれ?僕の言い方がつられてタマになった。
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