最強守護士(ガーディアン)の英雄伝説

かしわで

序章 勇者の嘆きと転生

英雄達と魔王の最終決戦

僕は今、旧魔王城の入り口に立っている。僕の側には幻獣であるユニコーンのパトリシアがいる。


ここはちょうど一年前、魔王と、魔王討伐隊5人が最終決戦を行った場所だ。僕はその討伐隊のリーダーである勇者として戦った。最後にとどめを刺したのも僕だ。廃墟となった入口に立つと、あの時のことを昨日のように鮮明に思い出す。


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「くらえぇ!」


魔王グリムは、最強のブレス攻撃であるダイヤモンドブレスを、勇者である僕アーノルドに吹きかけてきた。 この息に触れると、たちまち凍ってしまう。


僕は先ほど受けた攻撃の後、体勢を立て直すのに精いっぱいで、湖のブレス攻撃を避ける動作に移れていない。


「まずい!」


そう思った瞬間、守護士であるギルベルトが僕の前に立ち、


「オーロラカーテン!」


そういってブレス防御のスキルを使い、防御壁を作った。そのおかげでダメージは全く受けない。


「すまない。」

「気にするな、俺の仕事だ!」


そう言ってギルベルトは僕を守る。


「死ね!」


魔王は、魔法士であるジルと、治療士であるステラに対して、最強魔法クリムゾンファイアを使った。


ジルは魔王の周りにいる魔獣達へ攻撃魔法を使い、魔獣達の動きを押さえいた。

また、ステラはダメージを負っている剣士クリストフに対して回復魔法をかけていた。3人とも、魔法を避ける動きを全く取れていない。


「ここで俺たちは終わりか。」


そうクリストフが思った直後、守護士ギルベルトが彼らの前に一瞬で移動し


「リフレクションウォール!」


と言って、魔法反射壁を作り出した。魔法を完全に跳ね返し、魔獣達へ飛ばした。魔獣たちはその威力に耐えられず、燃えてしまった。


「助かった。」

「お前たちがいないと負けだからな。」


ギルベルトは頼りになるセリフを吐く。


回復が完了した剣士クリストフは魔王グリムに切りかかる。

魔王は彼の連続剣技に身を守りながら、尻尾で攻撃してきた。攻撃に集中しているクリストフに突き刺そうとする。


「シフトボディ!」


ギルベルトは移動スキル使った。クリストフの身体が瞬間で1m程後ろに下がり、魔王グリムの尻尾を避けた。


「終わりだ!」


そのスキを見て、僕は勇者の剣を魔王グリムの腕に振り下ろした。魔王の腕はバッサリと切り落とされた。


「ぐぁー」


そう叫ぶ魔王に対して、僕は最後の一撃に移る。

魔王グリムはそれを防ごうと、切り落とされていない側の腕を身体の前に出し、腕の外側にある、あらゆる攻撃から身を守る鋼鉄のうろこで防御の構えを作る。


「エクスライジング!!」


ギルベルトは能力向上のスキルを使った。僕のすべてのステータスが少しの間だが10倍に跳ね上がる。

振り下ろされた勇者の剣は、鋼鉄のうろこを切り裂き、魔王グリムの身体に突き刺ささった。

「突き抜けろ!」

僕は全身の力を剣に込めた。剣は魔王の心臓を貫いた。勇者の剣は、魔王に唯一とどめを刺すことが出来る武器なのだ。


「そんな・・・私が人間どもに負けるなんて」


そう言って、魔王は倒れた。そのまま魔王は絶命し、身体からマナが抜けていくのが分かった。


「やったぞ!魔王を倒した!」

「さすがだアーノルド。お前のおかげでついに魔王を倒せたぞ!」

「いやいや、ギルベルトの守護のおかげだよ。」


そう言ってお互いをたたえあった。ついに、世界を恐怖に陥れた、魔王グリムを倒すごとが出来たのだ。

魔王たちと戦った5人は、王都であるマルチス王国に帰国した。僕達は称えられ、国の英雄と呼ばれた。


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そして、月日は流れ、1年後・・


勇者である(だった)僕アーノルドは、田舎の森にある山小屋で、パトリシアと一緒に独りで生活していた。

僕は木を切って薪を売る木こりになっていた。


僕は生活が出来るギリギリのお金しか持ち合わせていないため、かつて魔王にとどめを刺した勇者の剣で木を切り倒していた。さすがに勇者の剣であるため、刃こぼれは全くないのだが、木を切る道具としては適切ではない。



剣士クリストフは、剣だけでなくいろんな武器を使用した戦い方や体術を教えられるため、マルチス王国の王国騎士団長となった。


魔法士ジルは、生活の便利な魔法を生み出し、国中に無料で提供した。さらにマルチス国王に王国騎士団の魔法部門を設立し、初代の魔法士長となった。そして剣士クリストフと結婚し幸せな生活を過ごしている。


治療士ステラは、国中のけがや病気を治療術で治せるよう大病院を設立。マルチス聖教会を設立し、初代教皇となる。世界中を回り、治療と不況活動を行っているため、各地で聖女と呼ばれているらしい。


そして、魔王との戦いで我々を幾度の危機から守ってくれた守護士ギルベルトは、世界一美しいと言われたマルチス国王の娘エリカと結婚した。


エリカと僕は仲が良く、よく魔王のいない世界のことについて語り合った。しかし、エリカはギルベルトを選んだ。


「私を一生守ってください。」


そう言って、エリカからギルベルトに求婚をした。守護士は人を守るのに長けている。そこに惚れたのだ。


ギルベルトとエリカは夫婦になった。国中で祝福した。そして、自分たちで新たな国を作るために遠くに旅立った。噂では、すでに小さいながらも領地が出来たそうだ。


幼いころに勇者のアビリティ=才能があると旅の占い師に言われ、勇者になることのみに専念していた僕は、魔王討伐の後、指導者として職を転々としたが、どれも自分に合わなかった。


剣術は出来るけれどもクリストフの二番手、魔法もそれなりに使えるがジルの2番手、回復魔法もそれなりに使えるがステファノの2番手、守護士の能力はまったく無く、ギルベルトの足元にも及ばない。


そう、勇者は、なんでも出来るが、結局2番手以下なのだ。それに気が付いた僕はやるべきことを見失い、山に独り閉じこもって生きていくことを決めた。魔王討伐の前に、ケガから救ってあげて後、主従契約をした幻獣ユニコーンのパトリシアだげが、僕について来てくれていた。



そして今、僕は旧魔王城にいる。魔王討伐後ちょうど一周期ということで、マルチス王国では盛大な祭りごとが開かれているようだが、僕はそこに行く気にならず、旧魔王城にいた。


城全体は立ち入り禁止となっており、魔王討伐直後から特殊な封印がはりめぐらされているため、魔獣もいない。

封印の縄をくぐって中に入ると、戦いの時に破壊された跡があちこちにあり、当時のままだった。僕は魔王にとどめを刺した場所にたどり着いた。僕は一年前の記憶を思い出していた。


「何だろうこれは?」

ふと地面をよく見ると、足元に黒い玉が浮かんでいた。僕はそれを覗き込んだ。すると、当時の情景が頭に入ってきた。

そこには魔王グリムが僕の剣で心臓を貫かれて、床に倒れた瞬間の映像が見えた。そして、魔王はつぶやいた。


「間に合った。数百年後に転生する魔術が。」


そして、魔王の身体からマナが抜けて行っていた。


「なんてことだ・・・」


僕は理解した。魔王のマナは抜けていったのではない、数百年後に転生していったのだと。


「魔王を追わねば!」


しかし、その玉は光を弱めて、今にも消えそうだ。


僕は、その黒い玉に勇者の剣を振り下ろした。しかし、剣は玉に吸い込まれ、自分自身も吸い込まれていくのを感じた。そうか、僕も数百年後に転生するのだな。そして、復活する魔王をもう一度倒すのだ!


薄れゆく意識の中、ただ、一つ、イヤらしいことを考えてしまった。


「もし転生できたなら、守護士がいい。」

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