第10話

 利佳に告白されてから、二週間がたった。そして、今日は利佳のコンクールの日当日。僕は利佳と一緒にコンクール会場にきていた。利佳曰くあの日からピアノの調子が良いらしい。結果オーライだ。


「今日の調子はどうなんだい?」


「う~ん 最高かな?」


「それは良かった。そろそろ控室に行く時間だろ。行ってらっしゃい」


「頑張ってくるね。だからしっかり見ててね」


 笑顔を僕に見せた後、利佳は控室のほうに歩いて行った。なんだか、もうこの笑顔が見れなくなってしまう。そんな、考えが頭の中をよぎった。しかし、僕は頭の中の考えを振り払い、客席の方へ向かう。


 コンクールが始まった。利佳は10人目なのでまだ結構ある。やはり、ほかの人の演奏を聞いていて思ったがとてもレベルが高いと思う。僕は素人でピアノに関しては全くだが、ピアノを弾いている人それぞれの情熱や努力などが伝わってくる。


 「続きまして、エントリーナンバー10番 音吹 利佳さん。曲はショパンの『ノクターン第2番変ホ長調op9-2』です」


 アナウンスとともに利佳がステージへ歩いてくる。ステージの中央に立つと奇麗に一礼し椅子に座って指を構える。そして、音を奏で始めた。僕は一つ目の音を聞いた瞬間利佳のピアノに心を奪われた。

 なぜなら、利佳の音楽から僕への強い感情が流れてきた。それと、ともに前回利佳のピアノを聞いた時とは違い一瞬だけ頭の中に映像が流れてきた。

 その内容はいたってシンプルだった。真っ白なのだ。何もかもすべてが・・・


 

 私はたっちゃんに告白されてからとてもピアノの調子がいい。理由は単純明快だった。今の私は、たっちゃんへの思いをすべてこの演奏に乗せている。あの日、私はたっちゃんに告白されてとても嬉しかった。だから、私は私の演奏で私からたっちゃんに告白をするんだ。



 利佳の演奏は圧巻だった。利佳が最後の音を鳴らし、椅子から立ち上がり始める時と同じように礼をする。その直後、ホール全体に拍手の音が響き渡った。




「利佳、コンクール金賞おめでとう。ほんとにすごい演奏だったよ」


「ありがとう。今日の演奏はたっちゃんへの思いを乗せて弾いたんだよ。私の告白きちんと受け取ってくれた?」

 

 「もちろんだよ」と、答えようとした。が、それは叶わなかった。言葉を発しよとしたその時、僕は意識を失った。


「うそ、でしょ。いやぁぁぁぁぁぁぁ」


 利佳の悲鳴だけが会場に響いていた。

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