2 文化祭でガール(?)・ミーツ・ボーイ!
ボクたちの中学校の文化祭は、地元の人たちも見学することができる。だから、文化祭の当日は生徒だけでなく学校外の人たちで大にぎわいになると先輩たちから聞いていた。その話はどうやら本当だったみたいだ。
「うひゃぁ~! すごい
ボクは、お客さんが注文したジュースやお
せっかくかわいいメイド
「すごい人だねぇ、
ボクは、ジュース
「一年C組にものすごい美少女がいるっていうウワサが流れているらしいからな……」
俊介はボクをじっと見つめて、そう言った。
「え?」
ボクは
男の人たちは、ボクのほうを見てニヤニヤしている。女の人たちも、うっとりとした表情でボクを見ていた。
「も……もしかして、みんな、ボクが目当て?」
「どう考えても、そうだろう」
「……男だということがばれたら、みんながっかりするだろうなぁ……」
「がっかりするどころか、リンチにあう危険があるから気をつけろ」
こ、こわいことを言わないでよ、俊介……。
でも、みんなの夢をこわすのも悪いし、気をつけよう。
というわけで、もっと女の子らしく
「お待たせしましたぁ~! オレンジジュースでぇ~す!」
ボクは、とびきりの笑顔で、高校生ぐらいの男の人が
「ノゾミちゃーん! お、オレもオレンジジュースひとつ~!」
近くのテーブルのお客さんに声をかけられ、ボクはニコリと笑いながら「はーい♪」と返事をする。その笑顔が男たちの心にグッとくるものがあったのか、ボクを見ていた男性客のほとんどがデレデレと鼻の下をのばした。
「くっくっくっ。ノゾミちゃん
織目さんがすれちがいざまにボクにそう耳打ちする。まんざらではないボクは、
最初は女装なんて
「み、みんな! 大変、大変! 一大事だよ~!」
お昼の
「落ち着きなよ、ヒメヒメ。看板を振りまわしたら危ないって。
「これが落ち着いていられるかってんだぁ~! …………こ、こほん」
え? いま、姫路さんがものすごく
というか、あんなでかい看板をブンブン振りまわして重たくないの? 姫路さんって、かわいい顔に
「お、落ち着いてなんかいられないよ、
「へぇ~、それはすごいね。でも、イケメンの外国人が文化祭に来たからって、なにか
「その子、すっごくわがままで、クレープ屋をやっている一年A組のクレープを『ブタのエサよりもまずい!』ってさんざんにこきおろしたり、二年B組の焼きそばを『なんだ、このゴムみたいな
「あ、あばばばば……。そんな
水野さんが顔を真っ青にして、そうつぶやいた。
ケチをつけられるのも嫌だけど、その外国人の男の子のせいでボクたちのメイド喫茶の
「おい、そこの女。入口の前で
ウワサをすれば
ボクたちが姫路さんの話を聞いていると、背が高い
「わ、わ、すみません……」
姫路さんはあたふたと道をあける。
「おい、そこのメガネ。ここはどういう店だ」
「メイド喫茶ですけど……」
織目さんが、やたらと
「メイド喫茶だと? ハン、
金髪のイケメンはそんな
うっわー、感じわるぅ~い!
「この店で一番
金髪のイケメンは、
こいつ……。姫路さんによくもそんな態度を……。
「おい。あいつ……もしかして姫路がさっき言っていたクレーマーじゃないのか?」
俊介がボクに小声で言った。
「もしかしなくても、そうだろうね。早く帰ってくれないかなぁ……」
だいたい、中学校の文化祭でやっている喫茶店で豪華なデザートとかあるわけがない。せいぜい、アイスクリームにイチゴとクッキーを
「姫路さん。ボクが持って行くよ」
姫路さんがクレーマーにグチグチと嫌味を言われるのは嫌だと思ったボクは、パフェとリンゴジュースをのせたお
「だ、だだだだいじょうぶ……。わたし、ちゃんと運べるから。い、いくら
「あ、あの、姫路さん……?」
「チッ……。
「え? いま、舌打ちした? も、もしもーし? お盆を持っている手がプルプルふるえているけれど、どこか
「し……集中しているから、話しかけ……」
そこまで言いかけた時、姫路さんは
「ど、どわぁぁぁーーー‼ やっちまったぁぁぁーーー‼」
姫路さんは、パフェとジュースがのったお盆を
べしゃ‼
パフェのアイスは金髪イケメンの
びしょびしょの美少年。なんちって。
いや、そんなダジャレを言っている場合じゃない。大変だ。姫路さんがあんなにも
「な、なにをする!
姫路さんはペコペコと頭を下げながら「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさーい!」と必死にあやまっているけれど、金髪イケメンの怒りはおさまりそうにない。
「ウラメシヤ王国の王子? たしか、そういう名前の国の王様とその家族が、日本との
織目さんがブツブツとひとりごとを言っているのが聞こえた。
王子ぃ~? あの性格の悪そうなのが、本当に王子様なのか?
たとえ本当の王子だったとしても、なんでこんなどこにでもあるような中学校の文化祭の見物に来ているんだ?
それに、「ウラメシヤ王国」ってなんだか不吉な名前だなぁ……。
「ふざけたメイドだ。そこに
「う、ううう……」
姫路さんは、王子(?)に怒鳴られて、右手をプルプルふるわせながらうつむいた。ふるえる右手を左手でギュッとおさえている。まるで、なぐりたいのを必死にがまんしているように見える
姫路さんはちゃんとあやまったのに、あそこまで言うことはないじゃないか! 土下座なんてさせないぞ!
ボクは女装していることも忘れて、ズカズカと
「なんだ、おまえは。オレはこいつを
王子はそう言いながら、ボクの顔を見る。すると、王子はおどろいたような表情で固まった。
え? なに? ボクの顔になにかついているの? 姫路さんならうれしいけれど、男にじろじろ見つめられても、ぜんぜんうれしくないよ。
「な、なんだよ、急にだまっちゃって。王子だかなんだか知らないけど、女の子に怒鳴るなんて、男として
女装しているボクが言うのもなんだけどさ。でも、やっぱり、女の子がいじめられているのを
「…………」
イケメン王子はだまりこんだまま、一歩、二歩とボクに歩み
な、なんだよ? やる気か⁉
いいよ。受けて立ってやるよ。二歳年上の姉に
ほ、本当に、これっぽっちも、び……ビビってなんかないぞ!
ボクはスカートのすそをギュッとつかみ、ちょっと
クラスの男子の中で一番身長が低いボクに対して、王子は高校生ぐらいの身長だから、
「……おい。オレの親友に手を出すな」
俊介が
「外国の王子をなぐったら、まずいって!」
まわりのみんながあわてて俊介を止めた。そうこうしている間に、王子はボクのあごを指でクイッと持ち上げ、ニヤリと笑った。
な、なんだ、なんだ? なにをする気だ⁉
「……気に入ったぞ、おまえ」
王子はボクの耳元にそうささやいた直後――ボクのほっぺたにキスしたのだった。
「の……のえええぇぇぇぇぇ⁉」
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