お清と亀公丸
武州人也
邂逅
多摩川を望むとある町に、お清という娘がいた。
この娘、齢十六にして容貌
けれども、
何年か前、この町に、一人の
お清が十六になる頃、この亀公丸は十二となった。彼は切れ長の目によく通った鼻筋、血管の透けるような白い肌をした中性的な容貌の美少年に育ち、女ばかりでなく男の目線をも引きつけるようになった。今時珍しい古風な総髪をしていたが、結い上げた髪の下からのぞく
加えて、その容姿もさることながら、彼は非の打ち所のない
いつ頃、お清が亀公丸のことを一目見たのかは誰も分からない。何分、この二人は共々、あまり頻繁に外に姿を見せる方では無かったのだから。けれども、お清はいつしか、しきりに亀公丸のいる
お清は言い寄られることには慣れていても、その逆は全くの不慣れであった。そも、座して男の寄って来る身にあっては、どうして男を篭絡する手練手管など磨けようか。花は蜜蜂を寄せることは出来ても、自ら蜜蜂の方へ出向くことは望むべくもないことなのである。自分に言い寄る者には傲慢不遜に振舞った彼女も、惚れた相手に対しては、思いの他小胆であった。
ある時、亀公丸は、家族と共に居を移すことになった。その話は程なくしてお清の耳にも入ったが、そのことで、お清はあからさまに焦燥の色を浮かべるようになった。
それを見た一人の節介な町娘が、お清を唆すように言った。
「河に臨みて魚を羨むは、家に帰りて網を織るに如かずと言います。今行動を起こさずして何としますか。」
それを聞いたお清は出立の前夜、ついに決心したのである。
その出立の前日、その日はしとしとと雨が降っていたが、それとは対照的に、お清の胸の内に燻る恋情の猛火は、愈々抑え難いものとなった。今日を逃せば、もう二度と、
その日の夜になっても、雨は止まなかった。夜空を覆い尽くす雨雲の下のむせ返るような湿気の中、お清は傘で雨を避けながら、身一つで足早に三枝の家へ乗り込んだ。女だてらに、意中の少年に夜這いを仕掛けたのである。
お清は亀公丸の寝床に忍び寄ると、少年の細首にぎこちなく手を回し、体の震えを必死に抑えながら、その唇に迫ろうとした。
その時、外で眩しい稲光がぴかっと光り、少し間をおいて凄まじい雷鳴が轟いた。お清は驚いて腰を抜かし、床に尻餅をついてしまった。そして間が悪いことに、雷鳴によって亀公丸の目も醒めてしまったのである。
「……誰だ其方は。」
亀公丸は、見慣れぬ女——それもとびきりの美人である——の姿を自室の中に認めた。それが異様な事態であることに彼が気づくまで、然程の時間もかからなかった。亀公丸は危険な状況にあると直ぐさま思い、助けを呼ぼうと大声を出そうとした。
「——」
お清は素早く手ぬぐいを亀公丸の口に突っ込み、叫ぼうとするのを封じた。お清自身も信じられないぐらい、敏捷にして冷静な挙動であった。そのまま、持ってきた縄で亀公丸を縛り付けて一切の抵抗を封じた上で、想いを遂げるに至ったのであった。
明くる日、三枝家は出立した。お清に対して、亀公丸は何の挨拶も無しに、黙って町を出て行った。亀公丸は元より学問に身を捧げていたから、
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