第5話
「あ、たこ焼き! あっちにりんご飴もあるー!」
「椎菜さん! ちょっと待って…!」
2人の歩く道の両側に、屋台がたくさん出ている。
お腹が空いたのか、食べ物にばかり目が移る椎菜は一人でスタスタと進んでしまい、原は椎菜を追いかけるのに必死だった。
「もう! 遅いよ、そう…、あっ。」
「ごめんね! ってどうかしたの?」
「いや、なんでもない!早く行こっ!」
2人はまた歩き出す。
椎菜は原に聞こえない小さな声で独り言を漏らす。
「……原くんは、奏太とは全然違うのになんで間違えそうになったんだろ…」
「んっしょっと! ってあー! また外れた……。」
「あー、僕のも外れた…。」
「うまくいかないなぁ…。」
焼きそばとたこ焼きでお腹を満たした2人は、椎菜の希望で射的をしていた。
「あの〈まゆペン〉のハチマキ&
まゆペンとは、立派な眉毛とやる気のある顔が特徴的なペンギンのキャラクターのことである。普段のまゆペンは何も着ていないことが多い。だが、射的の景品となり1番遠く、狙いづらいところに陣取っているまゆペンは、何故かお祭り仕様なのだ。まゆペンコレクターの椎菜ですら見たことのないレア物であった。
去年の誕生日プレゼントに、奏太が適当に選んで買ったまゆペンのキーホルダーを貰ったとき、あまりの可愛さに椎菜はまゆペンに一目惚れをしたのだ。これがきっかけで、椎菜はかなりのまゆペンコレクターへと成長したのだ。
「次こそ絶対当てる!」
弾は全部で5発。
残りは、2人とも1発ずつ。
外すわけにはいかない椎菜は、慎重にまゆペンに狙いを定めて弾を打った。
だが、気合いで実力が変わるはずもなく、弾はまゆペンの右上の壁に当たった。同時に発射した原も、弾をぬいぐるみに当てることは出来なかった。
「…ごめんね、椎菜さん。」
「いやぁ、残念だけど仕方ないよ! 花火まであと少しだから、もうばしょとりにいこっ! ねっ!」
「うん、そうだね…。」
椎菜の前でいいところを見せられず、落ち込む原を、椎菜は彼も自分の仲間なのだと勘違いした。
「それより、椎菜くんもまゆペン好きなんだね! 仲間発見!」
「ええ、いやまあね。まゆペンは可愛いよね。」
「だよね!周りにわかってくれる人いなかったから嬉しいな!奏太なんていつも馬鹿にしてくるんだよ、ひどいよね!」
「そ、そうだね。」
二人は会話をしながら、花火のよく見える河原へ移動した。
「人多いなぁ。」
河原に着くと、辺り一面人だらけであった。中にはお互いのことしか見えていないようなカップル達も多くいた。
気まずくなった原はおもむろに話を変えた。
「花火の写真綺麗に撮れるといいね。」
「そ、そうだね! 動画でもいいかも! スマホ、スマホ……。 あれ、ない…!なんで!?」
必死にカバンの中を探すが椎菜は自分のスマホを見つけられない。
「あ、もしかしたら射的のとこじゃない? 椎菜さん、まゆペンの写真撮ってたよね?」
「それだ! ちょっと行ってくるー!」
原の話を聞いた途端、椎菜は射的の出店に向かって走り始めた。
「僕も行くから、ちょっと待ってー!」
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