第3話

昼休みが終わり、授業が始まる少し前に戻ってきた椎菜はあからさまに動揺していた。時折、顔を赤くしては、何かを思い出したかのように首を振っていた。


明らかにおかしい椎菜の様子を見たのもあり、奏太は椎菜の話を聞く前から嫌な予感があった。



授業もSHRも終わった帰り道。3人は、有名なアイスクリームのチェーン店に寄っていた。


カップに入ったチョコミントのアイスをスプーンですくいながら加奈が切り出す。


「椎菜、昼休みなんかあった?」


「えっ、なんで!?」


椎菜はアイスのコーンをかじりつつ、目を大きく広げた。口にバニラアイスがついている。


「いや、さっきから様子おかしいし。」


椎菜が動揺し、加奈がニヤニヤしている間、奏太は静かに抹茶アイスを口に運んでいた。



「…花火大会誘われちゃった。」


ほんのり顔を赤くさせ、椎菜が答えた。


「やっぱり! 誰!?」


「相手見つかったのか。よかったな。」


奏太のことを忘れ、加奈は親友の恋話に本人以上に楽しんでいた。そして一気に不安になった本心を隠し、奏太も加奈の話にのる。


「1組の原くん。もともと図書委員会で一緒で、少し喋ったことある人……。」


「あー! あの可愛いって言われてる人でしょ! で、告白は? されなかったの?」


加奈は親友の恋バナに興奮したらしく、食い気味に椎菜に詰め寄った。

反対に奏太は椎菜と目を合わせられず黙ったまま、アイスを食べ続けた。


「そんなんじゃないって! 原くんも、花火大会行ける人探してたんだって。」


否定しながらも照れながら話す椎菜は、奏太に違和感を覚えた。


いつもならここで、「どうせ椎菜の妄想だろ?」だの「お前騙されてるんじゃね?」などと笑いながら水を差してくるはずなのだ。


「奏太どーしたの?具合悪い?」


「え?あ、いや大丈夫。」


「あ、やば…」


やっと奏太の気持ちを思い出した加奈はやってしまったと顔をしかめた。


奏太は慌てて返事をするが、昼休みよりも沈んでいるのは明らかだった。


「じゃあ塾行くから、2人ともまた明日な。」


アイスを食べ終えた奏太はさっさと席を立ち、加奈たちが声をかける間も無く店から出ていった。



「大丈夫かなぁ? てか奏太って塾通ってるんだっけ? 加奈知ってた?」



「……さあね。」


不思議そうな椎菜をよそに、加奈はまたため息をつく。


「あの馬鹿は何がしたいのよ……。」


「加奈、幸せ逃げるよー?」


「逃げてるのは私の幸せじゃないよ。」


「どーゆーこと?」



何も知らずに呑気にアイスを食べる椎菜を見て、加奈はまたため息が出そうになった。

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