第20話 耳付きのカチューシャを着けて可愛いのは女の子だけだと思います ~タマ いん わんだーらんど4~

「お待たせしました」


 しばらくして注文の品がテーブルに運ばれてきた。


「お前らは何頼んだんだよ?」


 興味深そうに女子のテーブルに運ばれた料理を覗き込む健一。


「『ミルク大好きミーちゃんのクリームシチュー』のお客様」


 静かに順子が手を挙げた。


「こりゃまたかわいらしいモノを」


 建一が冷やかすと


「い、良いじゃないか……私だって女の子なんだからな……」


「順子にもかわいいところがあるモンだな」


 顔を赤らめる順子を建一は更に冷やかすと透が口を挟んだ。


「いや、良い事じゃない。クールな順子ちゃんも格好良いけど、かわいい順子ちゃんも素敵だと思うよ」


 注文時の暗黒面が幻だったかの様にニコニコしながら言う透に順子が更に顔を赤くして言った。


「バ……バカ、何を言ってるんだ」


 

 

「でもよー、このネーミングってどうよ?」


「ん?何がだ?」


「ミーちゃんも大好き!ごきげんカレーライス」


 運ばれてきたカレーライスを見ながら恥ずかしいメニュー名を声に出して読む健一。注文する時に言うのは恥ずかしいが、普通に読む分には平気らしい。


「それがどうした?」


「『ミーちゃん』って、ネコだろ? ネコがカレー食うかっての」


「何をつまらん事を」


 あっさり切り捨てる淳二。


「あ~コレ、美味しいにゃ!」


 カレーを食べてご機嫌なタマの姿が健一の目に入る。


「……そうだな。つまらん事だな」


 建一は自虐的な笑いを浮かべてカレーに手を付けた。


「あ、コレ、本当に美味いな」



 食事が終わって売店へと足を運ぶ。売れ筋はお土産のチョコクランチやクッキー。缶にはもちろんGLJのロゴと猫のミーちゃんのイラスト。この缶を集めているマニアもいるらしい。だが、晴人たちのお目当ては、ぬいぐるみの横に置かれているネコ耳と尻尾だ。


「タマ、コレ買ってやるよ」


「えっ本当? 晴人君、ありがとにゃ!」


 素直に喜ぶタマ。それを見ていた由紀は


「良いな~タマちゃん。晴人君……」


「断る。自分で買いなさい」


 おねだりするまでも無く、断られる。すると既にネコ耳を装着した順子の声がした。


「晴人君、私には買ってくれるんだろうな?」


「順子ちゃん、意外とノリノリね……」


 その姿に驚く由紀。すると順子はとんでもない事を晴人に要求した。


「この際だからみんなの分出してあげたらどうだ?」


「冗談じゃ無ぇ。明日からきつねうどんどころか素うどんも食えなくなるわ!」


「では、健一君も巻き込むとするか」


「勘弁してくれよ」


 とんでもない事を言い出した順子に健一が言うと、順子は意外にもあっさり折れた。


「じゃあ、私と綾の二人分で手を打とう」


「どうしてそうなる?」


「どうしてもだ」


 順子の目力が強くなり、今度は晴人が折れた。


「う……わかったよ」


「綾~、晴人君が買ってくれるそうだ」


「えっ、良いの? 晴人くん」


『良いの?』と聞きながらも嬉しそうな綾。


「ああ。まかせとけ」


 顔は笑っているが、心で泣いている晴人。


「良いな~私にも~」


 まだ食い下がろうとする由紀を結衣が引っ張る。


「あのね由紀ちゃん、綾ちゃんはね……」


「綾ちゃんは?」


「晴人君の事が好きなんだよ」


「ええっ!?」


 由紀は驚きの声を上げた。


「やっぱり解ってなかったのね。まったく由紀ちゃんはもうちょっと女子力を磨かないと」


 やれやれ……といった顔の結衣。


「晴人君は気付いてないのか、気付いてるけど態度を変えないのか……それで順子ちゃんが色々してあげてるんだよ。だから邪魔しちゃダメ」


「りょーかい!」


 敬礼して返事する由紀。


「由紀ちゃんは変な事したらダメだよ」


 結衣は由紀にしっかり釘を刺すのを忘れなかった。


 会計を済ませた晴人に


「晴人君、ありがとう」


「ありがとにゃ!」


「ありがたく着けさせてもらうとしようか」


 綾・タマ・順子がネコ耳と尻尾を装着して礼を言う。綾だけはとても恥ずかしそうだ。


「私も買おうっと!」


「あ、私も~」


 由紀と結衣もそれぞれネコ耳と尻尾を持ってレジへと向かった。



 日はすっかり落ちるとパーク内はライトアップされ、雰囲気ががらっと変わる。


「もうすぐパレードの時間だね」


「俺達も良い場所で見ようぜ」


 なんとか通路際に陣取る事に成功。しばらくすると音楽が聞こえてくる。


「あっ来たよ!」


「おおっすげえな」


「綺麗だにゃ」


 華麗に踊るダンサーを先頭に、軽快な音楽を奏でながらゆっくり走る電飾でピカピカのフロート、猫のミーちゃんを始めとする様々なキャラクターが行進する。その幻想的な景色に目を奪われる晴人達。フロートが通り過ぎた時、ふと時計を見ると時計の針は午後九時を回ろうとしている。


「名残惜しいが、そろそろ帰らないとな」


「残念だけどしょうがないわね」


「またみんなで来たいね」


「次はいつ来れるかな~?」


「楽しかったにゃ~」


 駅まで急ぐが、パークは広い。駅に着いた時には切符売場には列が出来ていた。


「アトラクションで並んで、切符買うのにも並ばにゃならんのか……」


「次は帰りの切符も先に買っとかないとね」


 電車を乗り継いでやっと豊臣学園の最寄駅に到着した頃にはもうクタクタ。


「あ、腹減ったと思ったら晩メシ食ってねぇや」


 歩きながら健一が思い出した様に言った。


「何か食って帰る時間は……無いな」


「明日の朝まで我慢すっか」


「まあ、ダイエットには良いかもね」


 寮に着くと


「んじゃまた明日な」


「疲れたからって遅刻しない様にね」


「その言葉、そっくり返してやんぜ」


「おやすみ~」


 女子寮と男子寮、そして寮母室へと別れ、楽しい一日は終わった。



「ただいま~」


「タマちゃん、遅いわよ」


 豊臣学園の寮には門限は無いのだが、学園生としての良識として午後十時には寮に戻る事が暗黙の了解となっている。


「ごめんにゃさい」


「まあ、初めてのGLJだもんね。夜のパレードも見てきたんでしょ。でも、今度からは気を付けないとダメよ」


「はぁい」


「で、楽しかった?」


「もちろんにゃ! 晴人君にコレ、買ってもらったにゃ」


 タマは嬉しそうにバッグからネコ耳と尻尾を取り出した。


「へえ、良かったわね。晴人君も太っ腹ね」


「………………」


「タマちゃん?」


 智香はタマに呼びかけるが、やはり反応は無い。疲れきったタマは座ったまま眠ってしまっていた。手には大事そうにネコ耳と尻尾を握ったままで。











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