怪物は天を仰ぐ



怪物は天を仰ぐ。






「大丈夫か!?シキくん、かばんさんっ!」


グレープさんの声が地響きの狭間から響いてきた。黒い塔が俺の体の隣で轟々生えて来ているらしい、口に砂と虹色の結晶が入ってくる。


「グレープさんっ!とりあえず4人を安全な場所へお願いします…ここはとりあえず俺がどうにかしますから!」


任せた


地鳴りが響きを溶かしてしまった。

聞こえてきたのだ。任せたと。



地鳴りが収まると同時に、砂埃は晴れて、塔がよく見えるようになった。

その塔は、ただひたすらに黒い。

太陽の光なんて無駄だと。そう言う。

塔が生えているのは火山の火口の真ん中で、俺が立っていたところも塔の壁で見えない。


「コレが…伝説の塔って奴なのか?」


話には聞いていた。

黒い巨塔。

医学的な話かとも想像したりもしたが、どうにもそのまんまのとんでもない物が叫んでるらしい。


塔の頂は見えない。

塔の壁は時たまグルグルと蠢いているように見える。セルリアン関連だと一目でわかる。

塔自体がセルリアンだということらしい。



「おーいっ!リネーン!」


火山の下から勢いよく走ってきたのは、慣れぬ体力勝負でめっきり疲れ切った姉さんだった。運動してくれ。

そんなこと言ってる場合じゃない。


「どうなってるの!…ケガは?というか、フィルターを張らなきゃいけないのはわかってたし、黒い巨塔ってコレって事だよね?」



色々言っているが、姉さんが焦っているのが目に入ってしまい集中できない。

肩にかかる力と感じる体温が…

クソ、そんな場合じゃあない。



「とにかく、こいつはセルリアン関連だと思う、中に入れそうだし、ちょっと様子を見てきてみるよ。そんなに焦らないで?」



手を少し強めに握って離す。

眉毛が下がったのがわかった。

背を向けた。





「ただいま、言ってくれるの待ってるから」







_________________















「なんで止めなかったんですかっ!博士!答えてください!」


「…ごめん。でも、リネンはちゃんと帰ってくる。ソレに、あそこで止めても多分意味なかった思うよ。」


ジェンツーペンギンのジェーンは机を叩いた。置いてあった暖かいお茶がちゃぽんと音を立てて湯気を吐いた。



黒い巨塔の出現は既にパーク全体に知れ渡っていた。それもそうだろう。大きな地鳴りと共に生えて来た塔は、キョウシュウエリアは勿論、他エリアからでも見える程であるからだ。文字通りの摩天楼という所か。


「こっ…こんなことになるなんて、知らなかったし…というか、僕ら命令通りに動いていただけですし!?」


一般人達はなにがどうなったのかわかっていないようだ。無理も無いだろう。



ただ、ただ、ここに居ない一つのパーツ。


シキ。


彼の居場所はわかっている。

が、わかっていない。


「連絡も付かない、GPSも息してない。LBは電源の入力がされているのがわかるだけで、それ以外は全部エラー…と。」





わかるハズ無いからだ。






___________________














「参った、出られないじゃあ無いか。」


『外部と通信が付かないようです、お手上げですね。』


本当に参ってしまった。

塔の中に入ったはいいが…


出られない。



扉らしきものも無い、何度か攻撃を加えたが全く歯が立たない。空を飛んでいたあの妙なセルリアンのようなあいつの色が妙にカラフルだった辺り、四神が復活の拍子にセルリウムでも吸い込んでしまったという所だろう。

…サンドスターロウって言うのか?よく分からんぞ。


『とりあえず、オレが居てよかったな?しばらく飯いらず水いらずだぜ?』


こいつがいて良かったと初めて思った。

壁がセルリウムだからこいつに喰わせればエネルギーに変換して俺にも回ってくる。水分は…よく分からないけれど、取らずとも良さそうだ。助かった。


『…?生体反応です、何かしらの生き物が近くに居ます、塔の中でしょう…しかも、こっちに勢いよく、縦方向に近付いて来ています!上です!気を付けて下さい!』




報告の5秒後の事だ、塔の形が変わるような、ガグガグと表現出来そうな音と…


声が聞こえてきた。



「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」




ズドンっ。重い音だが、セルリウム製のいやーな触り心地のクッションのような足場によって当の本人(?)は無事らしい。



「イデデデデ…まったく!引率を頼んだラッキーに従って降りてきたのに、階段がいきなり外れて足を滑らせて落下って!?なんなんですかほんとにもうっ!僕の身にもなって…欲しいけどそれどころじゃない!下まで降りてきたし…ラッキーは故障してるし…父さんなら直せるかもだけど…」




そこにぺたーんと座り込んでいる人影は…



紺色の短い髪の毛に、大きな瞳。

一瞬、あの子かと思ってしまったが…。

よくよく見るとブーツは黄色いし、瞳は緑色っぽい。俺に近い色…かな。



「…大丈夫かい?」


ええ、とその子は答える。


「大丈夫ならいいんだけど。どこから入ったんだい?」


「…あー、その、上から…」


「上?上には出入り口があるの?」


「え?…上にしか出入り口ってないんじゃ…海底からなら入れるんですか?」



両者、顔に?が描かれている。





      君

「「そもそも  は誰?」」

      貴方

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