第29話 ウィザードの誕生の秘密?
私達はおじいちゃん達のいる場所から歩いて移動していた。勿論道はないので、膝ぐらいの背丈の深い草の中を歩く。
「凄いですわ。手つかずの自然の様です」
「俺達が歩いた場所に道が出来てるぜ」
「けもの道ならぬ、異世界人道だね!」
私達は通って来た道を振り返る。
きっと移動手段が飛行だから、小さなうちに出来る様になるんだろうね。だから道など必要ないのかも。飛べるって凄い!
「しかし、最初は聞き耳もたなくてどうしようかと思ったけど、優しい人達でよかった」
「この世界は、精霊の方が権力が上のようですわね」
「だな。ティメオさんより精霊王の方が上ぽかったよな」
「無事帰れそうでよかったね……」
私達は会話しながらまた歩き出した。
私だけちょっと、感想が違うけどね。そしれにしてもこの世界は平和そう。
「こっち」
「な、何?」
突然、カナ君がハル君をちょっと離れた場所へ連れて行く。
「お前とルナを二人っきりにして謝るチャンスをやるから二手に分かれるぞ」
「え? 僕なんか怒らせる事したっけ? 何も怒ってなさそうだけど……」
「そうじゃなくて、小学生の時の話だ。部室で怒っていただろう? 言い訳ぐらいしてこいよ」
「うん。わかった。ありがとう?」
二人で何をこそこそと……。丸聞こえなんですけど? って、別に怒ってないんですけど……。
「ハルがルナに話があるんだと。二手に分かれるぞ」
「そうですか。わたくしは構いませんわ」
「うんじゃ、そういう事で。マリアこっち行ってみようぜ」
「宜しくてよ」
「え!?」
マリアさんもさっきの会話を聞いていたせいか、そのまま話を合わせてカナ君と歩き出す。いやマリアさんに聞こえているという事は私にも聞こえていますよね?
「……怒ってないよ」
「うん? 何? 僕達はこっち行こうか」
ボソッと言うも聞こえてなかったのかそう言って、カナ君達が進んだ方向とは違う方を指差す。
別に話を聞くだけだしいいか。
私は頷いた。
横に歩くハル君をチラッと見た。
やばい、緊張して来た。今のハル君、ハル君じゃなかった! 見た目シマールだった! 話しているとハル君なんだけどね……。
「これ以上進むと草がやばいね。ここに座ろうか」
「うん……」
おじいちゃん達がいた場所から離れるにつれ草の丈が高くなっていく。ちょうど太もも当たりの高さの石があり、ハル君はそれを指差した。
私が頷くとハル君は、風呂敷をひいた。
「え? その風呂敷持って来ていたの?」
「うん。ずっと僕達は手に持っていたけど? 気づかなかったの?」
私が驚いて聞くと、ハル君も驚いて聞いて来た。私は頷いた。
存在が目立たなくなるのは、風呂敷自体だったようで、広げられるまで気づかなかった。マジックアイテムって凄い……。
私達は石に座った。
目の前に広がるのは草原や森。自然な景色だった。壮観な眺め。横を見ればファンタ―時に馴染む格好のハル君――いや、シマール。
「小学校の時に突然引っ越ししちゃってごめんね」
「え?」
本当に謝って来た。
「えっと、私こそあの時はあんな事を言ってごめんなさい。ハル君がどうこう出来る事でないし……」
「うん。……当時は仕事の都合って聞かされていたんだけど、お父さんが務めていた会社が倒産して、引っ越さないと行けなくなったみたいなんだ。それでお父さんは、カナのおじさんにお金を貸してくれるように頼んだらしいけど断られたみたい。だけど仕事を紹介してくれて……それが北海道だったんだ」
「うん……」
別にそこまで詳しく話さなくてもいいんだけど。怒ってないし。でもそっか。大変だったんだ。おじいちゃんもそう言えば、自分たちの事で精一杯だったって言っていたっけ。魔法が使えても、こっちの世界では仕事が出来ないと暮らしていけないもんね。
「僕はルナと離れるのが嫌で、大泣きしたのを覚えてる……」
少し照れながらハル君は語った。
「私も泣いた。魔法使いの儀式をして少したった頃だったもんね」
「僕がさ、ずっとしょげていたからなのか、カナのおじさんが、カナと一緒に魔法使いになるかって言って来て、なるー! って。まあそれがウィザードの事だったんだけどね。僕ら儀式したけど魔法使えなかったからさ……」
ジッと遠くを見つめ懐かしむ様にハル君は更に語る。
どうやらウィザードは、カナ君のおじさんの提案だったみたい。そう言えばプロダクションの社長さんだったもんね。
「魔法使いに成る為に、トレーニングでバク転や歌の練習をして、剣道もそのまま続けさせてくれて……。あの時は、それで本当に立派な魔法使いになれると思っていたんだよね」
それ、付け込まれたのではないですか?!
「騙されてウィザードになったんだ……」
私の呟きにハル君は首を横に振る。
「ううん。そんな風には思ってないよ。偽物だとしても魔法使いとして活動できる事を嬉しく思っているんだ。今は……」
そうだったんだ。魔法使いになるのが夢だもんね。本当に魔法使いになったとしても名乗れないし。偽物だとしてもそう名乗れるのは嬉しいんだ。
だから二人はイキイキしていたんだ。あ、でも活動少ないのは北海道だからかな?
「そっか。ウィザードになれて良かったね。でも北海道に住んでいたら活動は大変じゃない?」
ハル君は、うんと頷く。
「カナのおじさんは、最初からカナはデビューさせるつもりだったみたい。親子だという事は伏せておきたかったみたいで、一人単身で東京で働いていたんだ。でもおじいちゃん……あ、学園の理事長の方のおじいちゃんがね、反対していたみたいで、これ幸いと僕に話を持ち掛けたみたい」
大人の事情ってやつですね。それでもちゃんと受け入れて活動しているなんて凄いなぁ……。
「しかもウィザードの話が出た時は、お父さんもおじいちゃんも大反対したんだ」
「え? でもおじさん、マネージャーで、おじいちゃんも協力的に見えるけど? もしかしてそれが紹介された仕事?!」
私が驚いて言うと、ハル君は違うと首を横に振る。
「違うよ。僕達がウィザードになりたいって懇願したからお父さん達折れたんだ。それで、理事長の方のおじいちゃんが条件を出した。学生の内は学業に専念させる事って。それで話がまとまっったんだ」
まあおじさんの作戦勝ちだね。おじさんが本当に魔法使いの事を信じているかは知らないけど、二人が魔法使いに成りたいと思っているのをわかっていてそれを利用したんだろうし……。
でも学生デビューしてない?
「昨年デビューしたよね? 守られなかったんだ?」
「カナが義務教育終わったからいいだろうって強行突破……」
そういう言うとカナ君は俯いた。そっと顔を覗けば悲し気な顔つきだった。
どうしたんだろう?
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