第21話 神々のパズル

 それは、空気を吐き出すように、自然とクロトの口から漏れ出た。


「…………天使だ」


「平たく言えば、主はそのドミネーターの生まれ変わりだ。万物を創造する彼女の名は"ノーナ"」


「ノーナ? また新キャラが出てきた」


「元々、ワシとディキマ、そして主の中に眠るノーナは三位一体だった」


「三位一体? 3人で合体でもするの?」


「その通りじゃ」


 クロトは理解に追いつけず、口をへの字に歪め、眉を潜めるが、構うことなく青髪のモルタは続ける。


「ノーナは、ワシやディキマには無い、超越した力がある。あらゆる命を作り、育むことが出来る生命の母そのものだ」


「待ってよ! さらっと言ったけど、凄い重要な話したよ? 僕の中にいるノーナは、そんなこと出来るの?」


「そうじゃ」


「だったら、死んだ人間も…………生き返らせることも出来るの?」


「造作も無い。ノーナの手にかかれば、死を恐れぬ、無限の軍団を作れる」


 クロトは息を飲むと、ふと、この会話に通ずる話を思い出す。


「む、無限の軍団…………ディキマが言ってた、大きな戦争が起きるって。ディキマが僕を狙う理由は、ノーナの力で無限の軍団を作って戦争するのが目的?」


「さよう」


 2人を取り囲む浮遊島に変化が起きる。

 島の間を無数の光線が飛び交い、閃光花火のように炸裂した。


 モルタの口調が重くなる。


「じきに異次元間で、大きないくさが起き、戦に勝った軍勢は、この宇宙の隅々まで支配出来る」


「宇宙を支配すると、何が起きるの?」


「"セカイ"そのものになれる」


 その解答に、クロトはどんな顔をすればいいか困惑した。

 モルタは話を推し進める。


「この時代の言葉で何と言ったかの? 1人の強者のみが、腰を据える遊戯…………」


「椅子取りゲーム?」


「あぁ、そうじゃったな。セカイの座を得る溜めの、椅子取りゲームじゃ」


「そのゲームに、僕達の世界が巻き込まれるの? さっき駅で起きた、戦いみたいに?」


「然り」


「いっぱい、人が死ぬじゃないか!?」


 語気を荒げる少年に、青髪の乙女は平然と言ってのけた。


「セカイの座を手に入れる為なら、億千万の命など、ちり同然」


 モルタが指で浮島を支える線を掴み、強く引っ張る。

 2人か挟む、現実世界を縮尺した浮島は、180度回転し逆さになった。


 島の隅から流れ出ていた滝は逆さになったことで、島全体から流れ落ちて行き、島に建てられたビルやマンションは歯が抜け落ちるように、次々と落下して行く。


 それに混じり、微かに叫び声のようなものが聞こえた。

 風にかき消されそうな小さな叫び声は逆さになった浮島から発せられている。


 目を凝らして見ると、指と同じサイズの人影が、落下するビル群に紛れ、逆さの浮遊島から、雨あられと降っていた。

 

 地に落ちた小さな人影は、アイスクリームのようにゆっくりと溶けていった。 


 クロトは、その光景が武蔵境駅の大参事と重なり、胃の中から、どす黒いもののがせり上がりそうになり、空嘔吐からえずきをする。


 依然として、脈絡のない出で立ちのモルタは付け足す。

 

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