レプリカノ杖
「ということだ、白狐」
「天音様の人気取りにですか……それはそれで面白いかもしれませんね、主様は動きやすくなりますし、私は賛成ですよ」
「食っちゃうぞー、食べちゃうぞー」と言って、
「なんか赤狐が、ああいうことを言うと、
「そうですか? 赤狐も食用とそうでないものとの区別は、きちんと出来ていますよ、主様」
「食用……まあいいか……でも昨日運び込まれてきたのに、元気だな、あの子達、なにかしたか?」
「ええ、あそこでの体験は忘れて貰いました、生きていく上での記憶としては不要でしょうし、それ以外は、体は
「そうか、そうか……」
「その表情、元居た世界では、もっと
「あれはゲームの中の話で……」
「
「そうだな、全力で守れ」
「かしこまりました、主様」白狐が、赤狐と少女達の元へと歩いて行った。その背中に千景は「その子達を医務室に預けたら、ハクルとシャザをこっちに持ってきてくれ、天音も向かわせる」と言って、エルタと天音が食事をしている部屋まで戻った。
部屋に入ると、少しだけ変であった。部屋の中にいる者の視線が、一点に集中して、その先にはいつもの調子で食事をしている天音の姿があった。そういうことか、料理を運ぶ初老の執事を呼び止め、今どれくらい天音は食べたのかと聞くと、十人分は食べていると言うことだった。その執事から、皿を受け取り、天音の前にそっと差し出すと、皿を出したのが千景だと気付かずに、綺麗に平らげて、すかさず横にいたメイドがその皿を片付けた。その様子を見ていた、エルタが、クスクスと笑い出したので、天音が異変に気付き、顔を赤くした。
「ど、どうでしたか御館様、みんなの様子は……」
「特に変わりなかったよ」と言って、千景は天音の耳元に口を寄せ「白狐と合流して、天音が『トライセラトリス』を潰してきたと警備隊に報告してくれ」と
「天音がですか、かしこまりました、御館様」部屋を出て行く、天音を見送りながらエルタが「天音様はどこに行かれるのですか?」と聞いてきたので答え「街のゴミ掃除の報告だ」と千景は答えた。
「天音様がいると、天使に守れている感じがします」
「実際それだけのことをしているよ天音は、そうだエルタ、ゴルビスの屋敷を貸してはくれないか、そうしなければ昨日みたいにみんなで
「そうですね、城に部屋を用意しようと思ってはいましたが、その方が千景様達にとって都合が良さそうですし、そうしましょうか、ヒリングを呼んできて」
少しすると、ヒリングがやってきて、千景の
「千景様も料理を食べたらどうです?」
「そうだな」
二人は、今日の
「正直言うと俺も天音が居てくれて助かったよ、天音があそこまでこういうことに関して、力を発揮するとは思っていなかったな」
「そうですね、的確な助言や、発言で貴族や官僚の方達を唸らせてました。ゴルビスの権限が、私にそのままきたので、みなさん不安なところもあったでしょうが、表面的にでも納得して協力的でしたね、腹の底では何を考えているのかは、今はまだわかりませんが」
「そうだな、言ってもまだ女王陛下様、初日だからな」
「茶化さないでください、千景様」
「しかし『
「そうですね、そういうのに詳しいのは、やはり教会でしょうか、ちょっと待ってください千景様、はい、はい……わかりました……少しの間、私と千景様だけにして下さい」と言って、エルタは部屋から人を外に出させた。人が出て行ったのを見計らって、エルタの半身からルルカが出てきた。
「一人の体に二人居るっていうのは大変そうだな……」
「そうでもないぞ、わらわは大体いつも寝ているからな」
「ルルカ様の心配をしているわけじゃない、エルタの心配をしているんだ俺は」
「ふんっ! つれないやつじゃのう、まあいいわ」
「出て来たってことは、何か話があるんじゃないのか?」
「とりあえずは、まあ、エルタとミレアを救ってくれてありがとうじゃな、疲れているようじゃが大分落ち着いたのはエルタを通してわかる、今後も力になってくれや」
「ルルカ様に、お礼を言われるなんて思わなかったよ」
「ふんっ、わらわだって礼くらい言うは、それよりも『黒渦の杖』が共振しておる、気を付けろよ、レプリカの杖は邪渇宮にあった物だけではないからの」
「そうなのか」
「千景、おぬしが来たから焦ってるやもしれんのう杖は」
「と言われても、まだどんな物かもさっぱりわからないし、気を付けろと言われてもなあ」
「そのうち向こうの方から命を取りに来るじゃろう」
「ぶ、
「そうじゃのう、まあわらわもわらわで、遠くを見て、それらしいものを探しておこうかの」
「遠くを見る?」
「おぬし達だけが、
「俺の事は見えるのかそれで?」
「ん? む……見えんな、何かしておるじゃろ、
「そうか、よかった、俺達の世界の
「むー、そうか、まあよいは、とりあえず、言いたいことは言えたからわらわは、また元に戻る」そう言って、エルタの中に引っ込んでいった。
「いつも急だな」
「そうですね、でも普段は静かなものですよ、ルルカ様に話かけられるまで忘れてしまうくらいには」
少しすると、どんドンどんドンと、扉からノックの音の域を超えた、もう少し力を込めたら壊れるんじゃないかという音がして「おやかたあ、入ってもいいですかあ」とその音に続いて
「丁度よかった虎徹、俺は一回ここから出る、お前一人で、
「まあかしといて下さい」
「宙音と水音もここにくるように言っておくは……」
「不安ですかい?」
「念のためだよ」そう言って千景は部屋を出て行った。
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