プローグ 街中で喧嘩に『なりかけたこと』に関する反省文
この度、関係者の皆様には多大なるご迷惑をお掛けしましたことを深くお詫び申し上げます。発端は俺が街中をプラプラしている際、突然見知らぬ方に「おいゴラァ! なに見とんじゃ! おい!」などとお声掛け頂いたことが原因であります。
ですがこの場をお借りして弁明させて頂きたい。俺は悪くない。
と、言うよりも。教師の皆々様は警察の方のお話をキチンとお聞きになったのでしょうか。そのうえで俺を生徒指導室に送り込んだとすれば、はなはだ疑問を抱かずにはいられません。
いいですか? 俺は確かに絡まれました、怖い人に。で、絡まれた際の状況。俺が横断歩道に向かって歩いていると、中学生くらいの女の子が怖い人に絡まれている光景が目にしました。
怖い人は金色のラインが入ったジャージ姿、連れの女はキャディちゃんのサンダルとスエット。つまり深夜帯に子連れでコンビニに行くような輩です。ドゥンドゥン音を漏らすワンボックスカーを乗り回し、ガラスにスモークを入れ、気持ち良くなれる葉っぱのデザインをした芳香剤を車内に吊るし、国道沿いによくいらっしゃる輩です。俺はそういった方々、いえ、そう言った連中が大嫌い。くたばれ。
失礼、話を戻しましょう。
怖い人に絡まれていたその女の子は、目に涙を溜めプルプルと震えておりました。しかし横断歩道で信号待ちをしている人々は助けようともしません。みんな怖いのです怖い人が。ですがそれが人間というもの。一匹をエサにして群れは助かる。まさに弱肉強食の掟。つまるところ人間は動物ですからね。
しかしそんな人々を見て俺は思いました。あんな光景を見て助けようとしないヤツは人間じゃねえ。そして同時に俺は絡まれていた女の子に酷く同情していました。なぜなら俺には中学生の妹がいて、ついその姿を重ね合わせてしまったのです。やれやれ、と。
そこからの俺は早かった。痛めてもいない首に手をあてがい、視線を明後日の方向に向け、怖い人と女の子を視界から消し去りました。いやだって見えないなら助けることなんできませんよね?そもそもの話。俺が助けに入ったところで何もできませんし、むしろ「助けてくれるの?」と余計な期待をその女の子に抱かせるほうが悪と言えるでしょう。逆に僕は悪と真逆の行動をしているあたり正義ですね。そしてこのまま話が終わればハッピーエンドでした。いやホントに。
で、その後なにがあったのかと言えば、その怖い人が突然「おいゴラァ! なに見とんじゃ! おい!」と俺に因縁を吹っ掛けてきたわけです。完全に視界から消しているのに、いったい俺は何を見ていたことになっていたでしょうか。眼の前のお姉さんのうなじを凝視していただけなのに。
そこからは至って簡単な道筋を辿ります。しばらくの間、身体に穴が開くかのようなガンを浴び続けていると、どこからか警察の方がやってきて事なきを得たというわけです。つまり俺は完全なる被害者。
さらにここで一つ。俺の絡まれ体質について知って頂きたい。登下校休日平日を問わず、俺はあらゆる場所で俺は怖い人に絡まれるのです。つまりこの度の一件も、結局は俺の体質が原因であるのです。本当に困っているのです。
にも関わらず、クラスの担任などは「んなわけあるか」などと言いやがるのです。付け加えて「お前にも責任がある」などと抜かしやがるのです。んなわけあるか。
もし仮に、この件で俺を裁くことができるのだとすれば、それは俺と同じような境遇を体験した人間でなくてはならない。つまりは同じ視点に立って物事を考えて頂きたい、そう言っているのです。ですがわかっています。人間というのは他人と同じ視点・立場に立つことはなど不可能。他人の苦しみや悲しみを他人が理解するなど絶対的に不可能なのです。だから説教も不要。
さて、余白も少なくなってきましたね。そろそろ結論を出しましょう。
俺はマジで悪くねぇ。
1年E組
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