第13話 風子の建設会社設立

やれそうな気がした。また、ひらめいたのだ!

 

 そう、この自分だったらやれそうな気がした。


 風子には建設会社に働いた頃の業界知識、保険会社で働いた時の人を動かすノウハウを貪欲なばかりに身に着けた自信があった。


 1日24時間眠る時間も惜しんで病気になるほど働いた資金があるではないか?


 目的は夫と離婚するために働いて、無事に別れることができた。初期の目標はほとんど達成できたようなもので、後から始めた「海山」という小料理屋も順調で、あれから

もう一つ増やして、やはり繁華街に元保険会社の後輩に「尼寺」というスナックをやらせて、それも順調であった。


 風子は債権者会議に出席して提案した。


 自分が中心になって新しい会社を作って、出来るのであればやった方が良いのではないの?との考えをみんなに提案した。

 みんなはほとんど待っていたように賛成した。


 「はい、決まりネ、倒産したのではありません。全く新しい会社にします。遠慮しないで思う存分協力して働いてみてください。資金は全部私が出します。その代り私が代表になります。それでいいですか?」


 この時、喜びの拍手がなりやまなかった。


 昭和57年頃、バブル前だったから景気もまあまあの所、このまま、仕事が無くなるより少しでもあった方が良いに決まっていると考えた。


県下に女社長なんていなかったから、中には女の代表社長ではたして出来るものだろうかと、考える者もいただろうが、今までの風子の事を知っている業者は大いに賛成したようだ。


 会社の名前は会社の住所地を取って本郷住宅建設会社とした。


 手続が終わったら、各関係者、以前世話した、取引業者、職人さんに挨拶声をかけた。

特に、保険をかけて貰っていた人たちが、個人住宅を作るのが多くなった。


 同業者はほとんど風子の存在を知っていたので話は速かった。職人さんは仁義の世界なので大切に思って良く付き合いをしてくれた。


 前夫の内川は一級建築士だから技術屋になってくれるように相談したら、快く会社を辞めて協力してくれるようになったので、専務取締役として働いてもらうことになった。

 この時は風子と内川とは、完全に離婚の形態で別々に暮らしていたので、2人の子どもも良く理解していた。

 子ども達の戸籍は父親の内川で実生活は母親と共にする奇妙な関係である。それが上手くいっている。


 また、前夫の内川には一人生活は大変だろうと結婚をしきりに勧める風子であった。

しかし、風子の気に入らないと駄目らしく、

 一人目は内川のお気に入りの美人のスナックの女性だからダメ

 二人目は実家が金持ち過ぎるからダメ

 三人目は勤めているからダメ

 四人目は目つきが冷たいからダメ

 五人目がやっと元妻風子の御めがねにかなった女性であった。

何故、五人目の奥さんが良いかと云うと、美人過ぎないで、心が優しくて、家が金持ちでない普通の人であることである。

 それが、前夫内川を大切に扱ってくれるという風子の考えであった。


今の風子との間の子どもの母親になるのだから、内川との間に子供が生まれたら腹違いの兄弟になる。素直に付き合える女性を願っての事でもあった。どこまでも計算のもと現実的な風子であった。

 

内川も応用で人の好過ぎる今の奥さんに満足して、すぐ男の子が生まれているから、社長の風子は何かと構っているようで、世間の人様からは奇妙な関係に見えることは確かである。

 

しかし、会社では私情をはさまない一線が弾かれているように感じる。


社長は風子、専務は前夫でありあくまでも使用されている立場である。

 

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