花が散る前に対策します


 兄から忠告を受けた翌日、私は図書室に来ていた。


 ウッドマン家のセシルとは貴族マナーの授業でしか一緒にならないのだが、創立記念パーティーを終えた今、貴族マナーの授業は少しお休みだ。


 そして私はセシルの寮の部屋番号なんて当然知らない。


 タイミング良くセシルとのイベントがあるはずもなく、仕方がなしに図書室にやって来たのはテーブルマナーの本でも漁っていればセシルが来てくれるのでは。と言う浅はかな考えのもとである。


(なんて、どんな主人公補正……)


 いくらなんでもそんな都合良く会えるとは思っていない。

 これで会えたら正ヒロイン凄いよ!主人公補正怖いよ!

 などと思いながら、テーブルマナーなどのマナー本が置いてある区画であてもなく棚を眺めていると、本と棚の隙間からセシルの銀色の髪が見えた。


 こちらに背を向けているから顔は分からないが、きっと本人!


(主人公補正すごいわ。さて、どうしようかしら)


 会えたは良いものの、ここからどうするか全く考えて無かった私は手を頬に添えて悩む。


 と、


「お嬢様?」


 本棚の向こう、セシルを見つけた方向から自身を呼ぶ声が聞こえた。


 うん。このパターンばっかりな気がする!


「……セシル様」


 棚の向こうに視線をやると、思わぬ近さにセシルの顔があった。


「ああ。やはりお嬢様だ。そっちに行ってもいいかな?」


「はい。もちろんです」



* * *



 ゲーム内では兄の忠告後すぐに1度対策を取れば、その後時折気にかける程度で花が枯れることは無かった。

 もちろんパロメーターで確認出来るから凄い確認もした。


 が、現在、ゲーム内が現実世界である私にパロメーターなんてものは確認出来ないし、1度対策を取っただけで安心できるかも不明だ。


「さて、どうしよう」


 クロエはセシルと別れた後、寮の自室で1人唸っていた。



 あいにく社交界シーズンは終わってしまい、お茶会に呼ぶことは出来ない。そして貴族は街に買い物に行くことは殆どしない。授業以外で会える場所なんて限られている。

 しかし、これでセシルの花が散ってシリルの好感度に響いたら大変だ。


 いや、響くのかすらあやし…………


 ちょっと待って。別にリアルゲームじゃないんだから別に好感度には響かないんじゃないの? 


 爵位の関係と、セシルとシリルがお家同士仲がいい事を考えると、もちろん全く気にしないのは駄目だけど、別に好感度が激落ちすることは無いのでは??


 あれ、それを考えると意外に難しい問題じゃないのでは??


 私は創立記念パーティーでのドレスの1件も忘れ、その日は自身の考えに安心してぐっすりと眠った。

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