休み明けは新たな問題の発生でした
社交界シーズンの休みがあけると、学校再開である。
決して短くは無かった休み明けは学校全体が何処と無く浮き足立っているのは、世界が違えど同じらしい。
あちらこちらから聞こえてくるのは自慢話やマウントの取り合いだ。
やれ、公爵家のパーティーに出席した。
やれ、伯爵家の長男と仲良くなった。
やれ、婚約者が居るのにパーティーでモテて仕方がなかった。
よくもまあそんなにネタがあるね。と思うくらいには、学校の廊下で繰り広げられてるやり取りにげんなりする。
「あんなに自慢話ばっかりで何が楽しいのだろう」
ぼそりと呟いた独り言は、誰に聞かれるでもなく空気に溶けた。
* * *
そして、久しぶりの教室に足を踏み入れた瞬間、教室の空気が変わった。
私を見ながらコソコソと話すクラスメイトたちに不愉快さを感じながら、私は自分の席に着く。隣にはエリーナとオリヴィアが居り、オリヴィアは私を見ると気まずそうに視線を反らし、エリーナは何故か私にキツい視線を送ってきた。
はて、オリヴィアの反応は分からないでもないが、エリーナの反応は理解が出来ない。何かしただろうか?
そんな事を考えていると、反対隣のジャレットに「おはようございます。この間はパーティーに来てくださり有難うございました」と挨拶をされた。
「おはようございます。私の方こそ、素敵なパーティーにお呼び頂き有難うございます」
「クロエ様は他にはパーティーに行かれたのですか?」
「ええ。幾つか招待して頂いたので」
「……それは、」
ジャレットが何か確認をしようと口を開いた時、反対隣からバンっと大きな音がした。
音の正体は誰かが机を思いっきり叩いた音。
ではそれをしたのは誰か。
そんなの、私の隣で先ほどキツい視線で私を見てきたエリーナしか居ない。
驚いてエリーナの方に向き直ると、エリーナはキっと私を睨み付けながら
「クロエ様はジャレット様だけでなく、セシル様やシリル様のお屋敷のパーティーにも参加し、あろうことかモーガン先生をご自宅に招く色情魔です!」
と叫んだ。
「……え?」
「公爵家や侯爵家、伯爵家と次々にパーティーに出席されてただけでは飽きたらず! モーガン先生をご自宅に招くなんて! 貴方は本当に貴族の娘ですか!」
綺麗なブロンドの髪を振り乱しながら的外れな怒りをぶつけられ、私は首を傾げた。
「貴族の娘だからこそジャレット様のお屋敷のパーティーにも、もちろんセシル様やシリル様のお屋敷のパーティーにも参加したのです。正式にご招待され、爵位が低いとはいえ貴族の家の者としてパーティーに参加する事の何が行けないのでしょうか?」
いやまじ本当に。何がいけないのか教えて欲しい。
貴族なんて繋がりが大事な面倒なコミュニティだ。
爵位の高いお家とツテを作っておくのは娘の重要な役割だろう。
「でも! でも! ではなぜモーガン先生をご自宅に招いたのですか!」
「モーガン先生を自宅に招いたのは父です。私の知るところではありません」
いや実際はダンスの臨時講師だったわけだが、何故か憤っているエリーナにこの事実を伝えたところで火に油を注ぐだけだろう。
ちなみに、この騒動にクラスメイトたちは困惑の表情を隠せないでいた。そりゃあそうだ。クラスメイトの中には私同様、3家のパーティーに行った者も居るだろうし、もっと多くの貴族のパーティーに参加し、参加して貰った者も居るだろう。
それが当たり前の社会で、エリーナの怒りは理解不能なのだ。
「……エリーナ嬢。失礼ですが、貴族とはそう言うものかと思います。私も今回の休みはパーティー三昧でしたし」
ジャレットが助け船を出してくれたが、エリーナはでもでもだって! と最早冷静に話せる状態では無かった。
知っているゲームに出てこない、私にとってはバグであるこのエリーナと言う少女。もちろん対処法を知るわけがない。
ただ、1つ。たぶんこれかな。と言うのがある。
確証は無いけど、とりあえず言うだけ言ってみようかな。
私はゆっくりとエリーナに近付くと、エリーナにのみ聞こえる大きさで
「モーガン先生とは何でもありません。……私のタイプでも無いですし」
と言ったら、思いっきり頬を叩かれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます