公爵家のパーティーに伯爵家がいるのは当然でした
ジャレットと踊り終わった瞬間、彼はお嬢様方に囲まれた。
私は「とても楽しかったです」と告げ、早々にその場を後にし、私はいそいそとホールの隣の部屋へと移動した。
そこにはいくつかの丸テーブルが配置され、そのテーブルの上にはサンドイッチやケーキ、クッキーにスコーンなどが置かれている。
雑談スペースといったところである。
舞踏会に来て食事を楽しむなんて少し寂しい気もするし、「私」としてはパーティーを楽しみたい気持ちもあるが、無駄に好感度上げたくないし、逃げるが勝ちである。
(とりあえずサンドイッチ……コルセットきついけどイケるかな)
「……貴方はクロエ・アッカーソン嬢でしょうか?」
サンドイッチに手を伸ばそうとしたその時、背中から聞き慣れない男性の声が私の名前を呼んだ。
「……っ。シリル・シーグローヴ様」
振り返った先に居たのは、綺麗な金糸のような髪と、吸い込まれるような金の瞳が特徴の、伯爵家三男、シリル・シーグローヴだった。
思わず叫びそうになった。
彼はゲームの中では経済学が始まらなければ出てこないキャラだ。
まさかこんなに早く出会えるとは思っていなかった。
「私のことをご存知でしたか」
「……はい。あ、お初にお目に掛かります。アッカーソン子爵家の、クロエ・アッカーソンと申します」
スカートを少し持ち上げ、定型通りの挨拶をする。
まて。彼がここに居ると言うことは、まさか最推しも居るのではないか?
そこまで考えて、しかし爵位が上でまして今日、今まさに初めましての彼に「お兄さんはいらっしゃらないのですか」なんて聞けるわけがない。
未来の義姉として彼に嫌われることは絶対に許されない。
「初めまして。シリル・シーグローヴと申します」
「シリル様もお呼ばれされていたのですね」
「ええ。ジャレットとは昔からお互いの家を行き来しているので」
濃紺の燕尾服を着たシリルはその視線をツイとダンスホールへと向けた。
視線の先には色々な女性と踊るジャレッドの姿。
「シリル様は宜しいのですか?」
「……私は三男なので割りと気楽にさせて貰っていて。まあでも、兄さんたちは大変だろうなとは思います」
ダンスホールに目を向けたままそう言うシリルは、しかし視線に兄たちを捉えているわけでは無さそうだ。
「お兄様、ですか」
シリルの視線を追って、兄たち……というか最推しのクリフォードを探すが特徴的な青髪の男性の姿は見当たらない。
「今日は来ていないんですが、居ると女性が集まって来てしまって」
「そうなのですね。大変ですね」
嫡男ともなればお家を継ぐ立場。それだけで女性は群がる。
その上、イケメンともなればその数は倍以上だろう。
まあ、私もその中の1人になりそうですが。
「クロエ嬢、この場で会ったのも縁です。1曲ご一緒して頂けないでしょうか」
「……ええ。喜んで」
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