サッカー異世界杯‼︎

吉田 ヒロフミ

前日談 トラックから始まる異世界転移

 とある木の枝に、セキレイが止まった。

 そのセキレイの目の前には、色鮮やかな芝生が広がる。ここは日本一強いサッカーの某ユースクラブの練習グラウンド。小鳥のさえずりをかき消すような、力強いサッカー選手の声がグラウンド中に響いていた。


「こっちだ!こっちにボールをくれ!」

 彼は八神 勇輝(ヤガミ ユウキ)。このユースクラブのエースストライカー。


「勇輝!いつものアレ、頼む!」

 味方チームのFW選手からおねだりされると、

「おっしゃ!お望みのボレーシュートォ!」

「バカな!ゴールエリアまで、50mだぞ!?」

 敵チームは圧巻する。


 そう、勇輝は放ったのはロングボレーシュート。こんなに長く、そして速く、弧を描くように打てるのは、勇輝だけである。


 GKは高速セーブを仕掛ける。が、時既に遅し。勇輝のボレーシュートは、既にゴールの中に突き抜けていた。ゴールネットに包まれたボールがコロコロと転がる様子を、GKはただ傍然と見ていた。


「どうよぉ俺の十八番!ねぇみたみたみた!?」

「凄い自慢の圧だな。しかし、あの体勢でよく、ボレーいけるなぁ。どう練習すればあぁなる?」

「企業秘密」

「企業、関係ないだろ」


 そこで試合終了のホイッスルが鳴り響く。結果は10対0。よって、勇輝達のチームの圧勝勝ちに終わった。シュートや他選手のアシストは殆ど勇輝である。

練習を終えると、味方チームの選手は勇輝に歩みかけてきた。


「勇輝練習試合ありがとな。そろそろ昼だし、よかったら一緒にラーメン屋どう?」

「もう昼か…ラーメンも良いが、俺ぁこれから用事があるんだ!申し訳ない!また今度で頼むわ!」

 そう言い、全速力でどこかへ向かった。


「やっぱ勇輝は足速いなぁ。にしても、勇輝のオフの時間って何やってるんだろ

「エースってのもあるし、ジムで腹筋作ってるかもね」

「まさか、彼女作ってデートかもよ?」


 その他様々な憶測が飛んでいるが、誰も知る由はない。





 一方勇輝は目的地まで25mに迫っていた。

「あともうちょっとだ・・・俺の楽園《《》》[アニっとショップ]!」

 ア二っとショップとは、アニメのBlu-rayBoxやグッズ、同人誌まで揃っている。アニメをこよなく愛するオタクが集まる店のことである。


 単刀直入に言うと、

八神 勇輝は、重度のアニオタであった。


「[魔法少女ホイップリン]Blu-rayBoxの販売日と練習試合日が重なったから、在庫無くならないが心配してたんだよなぁ。あぁ残ってますように…ってうん?」


 青信号が点灯している横断歩道を通り抜けようとすると、ボールが転がってきた。

前を向くと、7歳くらいの少年3人組が手を振っていた。どうやら、このボールの持ち主のようだ。


「ボール遊びには気をつけろよー」


 勇輝は得意のシュートでボールを返すと、3人組は礼をした。


(にしても、子供ってのは、ほんと元気だなぁ)


 そう思っていると、3人組の内の1人が何か大声を叫んでいた。焦っているようだが、車 の音で何も聞こえなかった。


「ん?ごめーん!車の音が次第に大きくなってるから聞こえないよー!今からそっちいくからまー」


 右横から、何か硬い物が勇輝の肌に触れた。 (...はい?)


 勇輝の体は空中を舞った。その時見えたのは、トラック。歩行者信号は青。

つまり、勇輝は、信号無視のトラックに衝突してしまったのだ。

(...え、ちょっと待って?これはあまりにも、唐突過ぎない、この展開?何、俺、死ぬの?お い、おーい...)


 勇輝の心の叫びも虚しく、彼の意識は途絶えた。





交通事故が起きた歩道の近くに、ローブで覆っている、2人組がいた。


「...少々適当だったが、ひとまずあの小僧の転移条件は揃ったで」 「流石にあれは可哀想過ぎじゃないですかぁ?強引な感じがするし」 「いいんだよ。アイツが、無事に転移さえすれば、丸くおさまる話だから。せやからさっさと、転移魔法頼むわ」

「はいはぁい.........

transitus regardless(転移せよ)」

 勇輝の遺体に白い光が放った。だが誰も気づかずに、その光は直ぐに消えた...

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