第42話 復讐の刃
貴史は 突然、沢山の武装した戦士が出現したのを見て言葉を失った。
意識を失っていたララアが、起き上がって何か叫んだ瞬間にその 戦士たちは出現したのだ。
しかもその戦士たちは剣を抜いてヒマリア軍の兵士達に戦いを挑んでいる。
出現した兵士の顔をよく見た貴史は、その兵士の眼窩が落ちくぼみミイラのような顔とな っていることに気づいた。
年を経て干からびた死体が剣を抜いて戦っているように見えるが、落ちくぼんだ眼窩の奥 には怪しい青い光が宿っている。
「アンデッドウオーリアーです。急所を突いたぐらいでは 戦い続けるから気を付けて」
貴史 は自分の剣が先ほどの戦いで折れたことを思い出して慌てて予備の剣を探す。旅の荷 物の中に細身の刀タイプの剣があるはずだったからだ。
いち早く状況を把握したレイナ姫はゲルハルト王子の親衛隊を呼び集めてアンデッドウォーリアーに対抗している。
城 の大広間は出現したアンデッドウオーリアーとヒマリア軍兵士が乱戦を繰り広げていた が、不意を突かれたヒマリア軍兵士は押されている。
そ れでもプレートアーマーを身に着けた重装備の親衛隊の兵士たちは、アンデッドウオー リアーを振り払うようにしてゲルハルト王子の周囲に集結し始めた。
貴史 が荷物をひっかきまわしている間に、ララアは近くにいたホルストの剣を奪い取った。
「 ララアちゃん何をする気だ」
ホルスト は子供のいたずらを咎めるように、駆け出そうとするララアの前に立ちふさがっ たが、ララアの刺突はホルストの胸当てを貫いていた。
ホルスト は何か言おうとするが、血の泡が口から噴き出て話すことが出来ない。
ララア はホルストが身にまとった焼きガニの胸当てに突き刺さった刀を伝って自分の手元 に血が流れ落ちるのを見ていたが、刀を引き抜くとホルストの横を走り抜けた。
ララア が剣を構えてゲルハルト王子に突進しているのを認めたレイナ姫は自分の剣を抜い てララアに立ちふさがる。
ララア は一瞬足を止たが、レイナ姫との間合いを図ると剣を振りかざして切りかかってい た。
レイナ姫 も達人の域に達したセイバーだ。二人は眼にも止まらぬ速さで剣を交えると間合 いを取って対峙する。
そ の時、貴史はやっとのことで取り出した刀を使って、ホルストにとどめを刺そうとする_ アンデッドウオーリアーを追い払おうとしていた。
アンデッド ウオーリアーは生前と変わらぬ能力を発揮できるようだが、裏を返せば凡庸な 剣士ならアンデッド化してもそれなりの腕でしかない。
貴史 は一瞬でアンデッドウオーリアーの右腕を切断し、アンデッドウオーリアーの腕は剣 を持ったままで地面に転がった。
し かし、貴史がホルストを助け起こそうとしている間にアンデッドウオーリアーは左手で 剣を拾って再び貴史とホルストに襲い掛かる。
ヤースミーン が火炎の魔法を使いアンデッドウオーリアーは炎に包まれたがそれでも動き を止めなかった
貴史 は燃えながら剣を振るって挑んでくるアンデッドウオーリアーに血が凍るような思い をしながら、懸命に防戦するしかなかった。
「 ララア。正気に戻ってどうしてレイナ姫様と戦おうとするの」
ヤースミーン はララアが全力でレイナ姫を倒そうとしていることに気づいて必死に止めよ うとするが、ララアは耳を貸す様子を見せない。
ヤースミーン はララアの様子がいつもと違うことに気が付いて、古代ヒマリア語で叫んだ。
『 やめて、その人を殺さないで』
ララア がはっとした表情でヤースミーンを振り返った。
し かし、剣を構えて対峙していたレイナ姫はララアが見せたすきを見逃さない。
鋭 く踏み込んだレイナ姫はララアの胴体を両断しそうな勢いで剣を横ざまに薙ぎ祓う。
ララア は上体をそらしてレイナ姫の剣をかわすと、間合いを詰めてレイナ姫の頭上から剣 を振り下ろした。
レイナ姫 はかろうじてララアの斬撃を受け止めたが、ララアは体勢を崩したレイナ姫に続 けざまに斬撃を繰り出した。
レイナ姫 はかろうじてララアの攻撃を受け止めていたが、ララアの渾身の一撃に剣を折ら れ大広間の床にたたきつけられた。
ヒマリア軍 の親衛隊の兵士も近くにいるが、アンデッドウオーリアーの対処に追われてい る上に、二人の動きが速すぎてついていけない。
『 とどめだ』
ララア が吊り上がった目でレイナ姫を見下ろし、 剣を振り下ろそうとした時、 カノ ジョの前に立ちふさがった者がいた。
そ れは、ゲルハルト王子だった。
『 お前は、 私たちの父祖が滅ぼしたクリシュナ国の王族の娘だな。 我が先祖の仕打ちに対す る恨みを晴らしたいのなら私を殺すがいい。その代わり他の者たちは命を助けてくれ』
ララア は宿恨の敵がその首を差し出してきたことを意外に思って、動きを止めた。
『 虫のいいことを言うな。お前たちの祖先は慈悲の心で講和を結ぼうとする私の父を裏切 り、 城にいたすべての人々を毒殺した卑怯者だ。 クリシュナの神が私に機会をくださった今、 私の家族や友の仇としてお前たちすべての命を奪うのが私の務めだ』
ララア の怒りは自分の種族を滅ぼされた者の怒りだった。
目の前 にいる人の好さそうな小太りの王子が自分の身を引き換えに家臣の命乞いをするの を見ると、 このまま居合わせた人々を屠るのは心が痛い気がするが、 不意打ちで毒殺された 自分の一族を思うと手を止めるわけにはいかない。
ララア は自分はこのまま鬼と化せばよいと思って剣を振り上げたが、自分の足に何かがま とわりついていることに気が付いた。
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