第15話 森のはずれで芋煮会
貴史たちがエレファントキングの城にたどり着くと、そこにはタリーが待ち受けていた。
「タリーさん、どうしてここにいるのですか」
貴史が驚いて尋ねると、タリーは平然と答える。
「商人たちの情報は早いからな。戦乱が始まれば商売どころではないから、店をオラフ達に頼んで様子を見に来たんだ」
タリーの後ろではゴブリンの集団が森から植物の球根のようなものや草の束を運んできては降ろしていくのが見える。
「あのゴブリンたちは何をしているのですか」
ヤースミーンが尋ねた。彼女は働くゴブリンを不思議なものを見るように眺めている。
「宿から持ってきた火酒一樽と物々交換で、森に生えている植物を持ってきてもらったんだ。私が見た限りでは里芋の一種と、エシャロットの仲間が自生していてかなりの量が集められると見たのだ。レイナ姫たちのコミューンから避難民がこちらに向かっていると話していたから、その人たちの食料にしようと思ってな。」
「どうやって食べるのですか」
「この城の調理場にまだ使える大なべがあるから、それを使って芋煮をしようと思ったんだ。貴史が倒したドラゴンの肉と一緒に煮れば程よい芋煮鍋が作れるはずだ」
貴史も自分がいた世界の東北地方でやっていた芋煮会のことは知っているが、タリーがどうやってその味を再現するのか見当もつかない。
しかし、貴史は背後に続く避難民の列を振り返って人数をおおざっぱに数えて、タリーが気を利かしてくれたことを感謝する気になった。
「ただし、芋煮鍋にするには材料がちょっと足りないんだ。豆腐とかコンニャクはあきらめるとして、ゴボウの代わりになる根菜がないのが致命的だ」
ゴボウ自体はこの世界にも存在しているが、メジャーな食べ物ではなく、タリーが商人に頼んで取り寄せてヤースミーンたちに味見させたことがあるくらいだ。
「あの木の根っこみたいなやつですか? この辺に生えている植物で似たようなものと言えば、人型ニンジンが近いかもしれませんね」
ヤースミーンが記憶を探るように遠い目をしてつぶやいた。貴史の記憶では彼女はゴボウの味をあまり美味しいとは思っていなかったような気がする。
タリーはそんなことには頓着しない雰囲気で貴史たちに言った。
「シマダタカシとヤースミーンが中心になって人型ニンジンを50キログラムぐらいとってきてくれないか。避難民に美味しい料理を食べてもらうための味の決め手になるんだ」
「もちろんいいですよ」
貴史はあっさりと承諾したが、ヤースミーンは貴史のわき腹をつついた。
「シマダタカシ、人型ニンジンの根は人そっくりな形をしていて、引っこ抜くと顔の部分が絶叫を上げます。その声を聴くと死ぬんですよ」
「え、そんな厄介な代物なの?」
貴史は、思いのほか大変な話だったことにやっと気が付く。
「採取するには絶対に人型ニンジンの声が聞こえないように耳栓をしたうえで、周囲にいる人が絶叫を聞いて死なないように、抜いた瞬間に人型ニンジンの頭を切り落とさなければなりません。できますか?」
「何とかするよ。とりあえず現物を探してみよう」
貴史は引き受けたことを内心後悔しながら、森に向かうしかなかった。
危険な仕事になりそうなので、貴史はヤースミーンと二人だけで出かけるつもりだったが、ララアがスラチンを率いて鼻歌を歌いながらついてくる。
「どうしようララアを返した方がいいかな」
「言っても聞きそうにないから仕方ありませんね。マンイーターの件で機嫌が悪かったから気分転換も必要かもしれません。人型ニンジンを引っこ抜くときにはちゃんと耳栓をさせましょう」
ヤースミーンはララアには寛容だ。
3人とスラチンが森の中を歩くと木々の緑の葉の間から、木漏れ日が揺れる。
森の下生えも、花が咲いたり葉を茂らせたりと様々な形態を見せていた。
「ヤースミーン、人型ニンジンを見たことあるか?」
貴史が尋ねると、ヤースミーンも自信がない様子で周囲を見回す。
「魔法学校の実習では取りに行ったことがあるのですよ。こんな感じの森の中にぽつんと一本生えていたりするのです」
「ちなみに、地面から生えている時はどんな姿なのかな?」
「付け根の部分から放射状に発破が出ているはずです。葉の中心部の下に大きな根があってそれが人の形をしているのです」
ヤースミーンが説明する人型ニンジンの話だけを聞くと、大根の根の部分が人の形をしていると考えたらよさそうだ。
「その大きさって、人の腕ぐらいだよね」
「普通はそうですが、生育が良いと葉の長さが人の身長ほどになり、根の部分も本当の人間くらいになると言われています」
ヤースミーンは周囲をきょろきょろと見まわしながら説明している。
貴史はさっきから自分の目の前で道をふさいでいる植物に目を戻した
大根のように地面から葉を茂らせた植物が道の真ん中に生えているが、その葉の長さは貴史の身長ほどもあり、根元にある大根のような根は直径が40センチメートルはありそうだ。
「これは、人型ニンジンじゃないよな?」
貴史がその植物を示すと、ヤースミーンはギョッとして立ち止まった。
「わあ、人型ニンジンそれも超大型じゃないですか。それ一つでタリーさんが欲しがっていた量が賄えますよ」
大根のような根の部分をよく見ると地面際に目の一部分がのぞいている。
「私が引き抜くから、頭がのぞいた瞬間に首を切り落としてください」
「待ってくれヤースミーン。その位置関係で剣を振るったら、ヤースミーンまで真っ二つにしてしまいそうだ。何か方法を考えないと」
気の早いヤースミーンは周囲に広がっていた葉っぱを中央で束ねて、それを抱えて引き抜こうと準備をしていたが、貴史の言葉を聞いて手を止めた。
どうすればいいんだろうと貴史は考え込んだ。
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