償いは契約の後で 8/10

 二の句を告げないでいる私に、真波は淡々と説明してくれた。

 私の家を出た後、生まれ故郷であるこの地に戻ってきたこと、そこで例の男(磯田鳴海いそだなるみという漁師らしい)と出会ったこと、数ヵ月後妊娠が発覚したものの、私か鳴海かどちらの子か分からず、生まれてすぐ誰にも知られないように密かにDNA鑑定をしたところ、私の子である可能性が非常に高いという結果が出たこと。


「鳴海……さんは、知ってるのか?」

「言えるわけない。気づかないままでいてくれたらって思ってたけど……」

「どうした?」

「薄々変だと思い始めてるみたい。最近俺に似てないって言われるようになって、酔った時はあの子に暴力まで……」


 そう言いながら真波は肩を震わせて泣き始めた。

 が、すぐに涙を拭いて


「ごめんなさい、こんな事あなたに言う資格も無いのにね。今言ったことは忘れて……」


 私は無言で病室を後にした。

 諸々の料金は真波が払ってくれるらしく、私自身は精密検査を勧める病院関係者を振り解くだけで済んだ。


 自分の体の中心部が異常に熱くなっているのを感じる。

 今まで体験したことが無い筈なのに、それが何なのか本能で理解していた。


 それは『覚悟』だ。


 何もできなかった自分が、

 幸せにできなかった人の為、

 残された時間を、

 話したことも無い娘に費やす……

 償いとしては悪くない、

 決して悪くない。


 ひとまず昨日泊まったホテルへ行き、諸々の準備を終えてベットに横たわった。

 緊張で眠れないかと思ったが、不思議と落ち着いていて、朝の件もあってすぐに眠りに落ちた。


 後一日

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