1.1.6 放たれた悪鬼
聖堂シンは舞台袖にいた研究員たちに合図をだすと、研究員たちは一辺が約二メートルほどの透明なガラスでできた檻をスクリーンの前へと運びだした。その檻の中には元気な大人の猿が三匹いる。
「もうまもなく用意が整いますので、しばらくお待ちください。ところで例の器官は私の研究チームでは涯臓(がいぞう)と呼んでいます。さらに涯臓から作られるエキスの名を、『涯液(がいえき)』といいます。」
聖堂が器官とエキスの呼称を紹介している間、研究員たちによって猿の片腕は檻に開けられた小さな穴から出され、しっかりと固定された。猿たちは「キィーキィー」と甲高い声を上げ鳴いている。
聖堂はスーツの胸ポケットから三本の注射器を取り出した。その中には透明な深緑色の液体が入っている。聖堂は、その注射器を傍観者に見えるように持ち、掲げた。生徒は皆席から身を乗り出し、その注射器に注目したした。
「これは先ほど申し上げました『涯液』を注射器に入れたものになります。この涯液は、先日の獰猛なハツカネズミから抽出したものになります。彼らハツカネズミの涯臓はとても小さく、傷つきやすかったため、涯液へ多くの血の成分が入り込んでしまいました。しかし、我々はそれらの血の成分、つまりは不純物を取り除き、純粋な涯液を獲得したのです。」
聖堂は猿たちの片手が出ている穴の前へ立った。
「準備が完了しました。これから皆さんにご覧いただくのは、私たち研究チームの開発の成果です。」
聖堂はその注射器を一本一本猿の腕に刺し、液を注入していく。猿たちの目は赤く腫れあがり、目くじらもたっている。
『ギャアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!ギャアアアアアアアア!!!!!!』
猿たちの鳴き声は、先ほどまでが発していた黄色い声とは違い、なんとも悍ましい悲鳴のようにも聞こえる奇声であった。生徒たちの背筋は凍った。
「…少々手荒になってしまいますが、これも研究結果証明の一環です。酒々井くん!催眠ガスを頼む!」
聖堂は冷や汗を流しながら、研究員の酒々井にサインをだした。すると、ガラスの檻の天井からモクモクと白い煙が出てきた。それとともに、猿たちは段々大人しくなり、生徒たちも安堵した。
「え~このように、獰猛なハツカネズミの涯液を注射すると、他の生物も獰猛にすることが可能です。今回はこの猿たちのような哺乳類へ試しましたが、今後魚類や、昆虫などにも試していく所存です。また新しい発見があり次第、皆様へこのような講義の場を再び設けていただきます。本日はご清聴ありがとうございました。」
聖堂はそう言って講義を閉めた。研究員たちはまだ中で煙の立ち込めた檻を舞台からおろしている。生徒たちは講義室の扉を開け、ぞろぞろと退出する。
その時
『グルルルルル…ルルルル…ギィィィイイイイ…!!!』
「バリン」という破砕音とともに、一匹の鬼の形相をしている猿が檻から飛び出てきた。
『グルルル…ギャアアアアア!!!!!!!!!』
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