第5話 式典に出席したら英雄に認定された
サラの家の使用人たちは規則正しく整列し、俺たちが通るべき道を示している。
その道はそのまま式場の入場口へと繋がっており、先頭を歩く俺は道に迷うことなく式場に辿り着くことができた。
『第四英雄 認定式』
式場入口の上部にはそう書かれたプレートが飾られている。
当然ではあるのだが、既に入場口が開放されているせいか俺が式場の入口に立っただけで場内にいるありとあらゆる種族の人々が一斉にこちらへと目線を向けた。
今まで感じたことのない圧に俺は委縮してしまう。
「やっべ……緊張してきた……」
なにせ大人数の前で表彰されることなんて小学校3年生の時に作文コンクールで賞を貰った時以来だ。 得体の知れないプレッシャーで手が震え心臓の鼓動が早まる。
マズイなぁ、こういうのあがっちゃうタイプなんだよね俺。
そんな時、緊張する俺の肩に何者かが手を置いた。後ろにいるサラだ。
「大丈夫だって、そんな緊張することないと思うわ」
「……サラ」
「いつものシンでいればいいんだよ、堂々と勇ましくいればね」
「レティ。堂々と勇ましく……か」
「リープも、そう思う……」
「ああ、私もお嬢様たちと同意見だ」
「みんな……」
俺の後ろに並んでいるサラとレティ、それにリープとディアの言葉で安心感を得たのか気付くと俺の手の震えは止まっていた。
堂々と勇ましく……。プレッシャーを感じるのは仕方がないことだが、今はそれを意識して乗り越えるしかないよってことか。
流石は魔王を倒し世界を救うほどのパーティ、仲間内での絆はお墨付きのようだ。
俺自身ではない「シン」という存在に便乗するようで少し負い目を感じるが、今彼女たちが俺に与えてくれた安心感は何物にも代え難い大切なもの。
ありとあらゆる修羅場を掻い潜ってきただろう者たちの言葉、ありがたく心に刻ませてもらおうか。
「英雄認定予定者、入場」
壇上の脇にいる司会者が入場開始のアナウンスをした。
俺は意を決して式場に足を踏み入れると、場内の来賓や一般見物客が一斉に拍手をし始める。
思えばこれは身に覚えのない表彰なのだが、これだけ人が集まっている手前この雰囲気をぶち壊してしまわないように細心の注意を払いながら一歩一歩堂々と勇ましく壇上の前まで歩みを進まなければならない。
今の俺は魔王を倒した勇者っぽく振舞えているだろうか、不安だ。
「英雄認定証及びサーガリング、授与」
「……サーガリング?」
俺たちが壇上の前に横一列で並び終えると、すぐに物の授与が行われるようだ。
さーがりんぐ? なんだそれ?
「知らないの? 『サーガリング』っていうのはこの国の紋章が描かれた英雄として認定された証となる指輪よ。英雄とそのパーティメンバー全員に配られ、受け取った英雄たちは普段からなるべく身に付けておかなければならない物なの」
「へぇ、そんなものがあるのか」
「英雄殿及びそのパーティメンバー一同、壇上へ」
「あ、俺か」
「私たちもよ、さあ行きましょ」
その認定証とサーガリングを受け取るべく俺たちは壇上へと上がった。
一歩前に出る俺とサラの前に現れたのはこの国の国王。
そこまで歳を取っていない若い国王なようで、威厳というよりはまだまだフレッシュさを感じられるような人物だ。
「勇者シンよ、そなたは魔王による世界征服の魔の手からこの世界を救い出し、見事魔王を討ち取ってみせるというまさに英雄と呼ぶに相応しい活躍を見せてくれた。よって、そなたを我がリーベディヒ王国第四英雄として認定、ここに表彰する」
俺は渡された認定証を賞状授与でお馴染みの作法で受け取った。このへんは現実と同じで大丈夫なのね。
「それと、これがそなたたちの『第四代サーガリング』だ。受け取りなさい」
「ハッ、ありがとうございます」
ケースに入れられているサーガリングはサラが受け取った。
紋章が描かれた金色の指輪が俺たち全員の八人分。その中の一つは他の物とデザインが少し違うようだが、一つしかないということは英雄専用ということだろか?
左手の中指にすぐつけろとのことなので素早く全員に配り、サーガリングを指にはめたことを壇上の上から来賓、見物人に示す。
やはり一つだけあったデザインの違う金色のリングは俺用のものだったらしく、一番人々の視線を集めているのは俺のサーガリング。
このリングをはめることが認定式一番の盛り上がりどころなのだろう、入場時以上の拍手喝采が起こった。
俺自身何かしたわけでもないのに英雄になんて認定されてはしまったが、人々に称えられて悪い気はしない。
未だ現実には戻れていないが、できればこのまま認定式が終わるくらいまで目が覚めてほしくないかも。もう少し英雄気取りも悪くないな。
「それでは第四英雄殿、認定を受けたことについて一言お願いします」
「うぇっ!? 一言!?」
「英雄としてサーガリングを授かった者はその際に演説をしなくてはいけない決まりなのよ」
「マジかよ……え、えー……?」
仲間たちは司会者と共に壇上脇に離れていってしまったので俺は壇上の中心で一人にされてしまい、逃げるに逃げれない状況になってしまった。
英雄としてのスピーチ? しまった、そこまでは考えていなかった。何を話せばいいんだこれ……。
こんな時はいつもの妄想力を活かす時だ。英雄……英雄…………!
――――いや、ここに入る際に感じたことがあったじゃないか。
それをそのままぶつけてみよう。変に取り繕うよりは本心をさらけ出してみる方がいい結果を生み出せるかもしれない。
ざっと式場内を見渡し、俺は言葉を紡ぎ出していく。
「俺がここまで来れたのは俺一人の力ではなく、今サーガリングを付けた仲間たちがいたからこそだ。人間は一人で生きていくことはできない、だから互いに協力し、時にはぶつかり合い、そうやって人は繋がりの証である絆を生み出していく。その絆はどんな強大な困難が立ちはだかろうと打ち倒すことのできる力となるはず。俺はこれからも英雄として誰かの力になりたい、仲間たちだけでなくこの世界の誰とでも絆を紡ぐことで。……以上だ」
……どうだ、少しかっこつけすぎたか?
適当にそれっぽい言葉を並べるより、入場する際にサラやレティに声をかけられて緊張が解れた時に感じたことを応用してみたのだが、ダメだったかな。
「流石だ英雄!」
「世界を救うような男は言うことが違うなー!」
「我らの英雄ー!」
あれ……?
「シン……」
「ふっ、あいつらしいな」
「流石シンだね。 いい演説だったと思うよ!」
巻き起こる拍手喝采と賞賛の嵐。それも先ほど以上の大きさだ。
どうやら俺の不安は杞憂に終わったようで、こんな俺でも英雄らしく振舞うことができたらしい。
この拍手は全部俺に向いているのか……すごい、すごすぎる。こんな体験初めてだ。
「皆さん静粛に願います。では、これにて第四英雄認定式は閉会と……きゃっ!」
「えっ!?」
俺のスピーチが終わり、残すは閉会のみとなった認定式だったが、ここに来て予想もできない事態が起こってしまう。
壇上脇にて進行を務めていた女性司会者のいる背後の壁が突如音を立てて砕け散ったのだ。
その衝撃に巻き込まれた司会者は見物席の方へと吹き飛ばされてしまうが、その場にいた何人かがうまく受け止めてくれたようで怪我は無さそう。
何かが起きた、それは間違いない。来賓や見物客は急いで式場の外に出ようと逃げ出すように入口へ駆け込んでいる。
「おいお前ら、早く入口から逃げるんだ、早くしろ! ……ったく、なんなんだよ一体」
「認定式を妨害したい何者かの陰謀とか? 魔王族の生き残りとかかなー?」
「どちらにせよ曲者だ、姿を現せ!」
マジか、魔王を倒したって聞いたから戦闘をすることはないと思い込んでいたけどそうはいかないのか。
俺は戦い方どころか力の使い方すらわからないぞ。たった今英雄として認定され偉そうに演説なんかしちゃった男が情けない。
くっそ、どうすれば……。
「あん? なんだ人じゃねーのか?」
「あれって……」
砕け散り穴の開いた壁から煙が晴れると、煙の中で揺らめいていた大きな影がその正体を表した。
肌がゴツゴツとした大きな生物が式場に足を踏み入れていく。
その一歩一歩で壇上は大きく揺れ、音を立てて式場が次々に破壊されていた。
俺はこいつを見たことがある。それも現実ではなく、この異世界で。
こいつは、
「朝豪邸を出た時に見た空を飛んでいたドラゴン……!?」
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