第3話 俺の仲間は美少女しかいませんでした
「…………」
豪邸に戻ってきた俺とサラは随分と長いテーブルが用意された部屋へと案内され、朝食の時間となった。
白いテーブルクロス、既に用意されているナイフとフォーク、グラス。
朝食……だよな、これ。
俺たち以外の席にも同じような準備がされているが、これは他にも人が来るということなのだろうか。
「お嬢様、既に料理の準備は出来ております。お持ちいたしましょうか?」
「ええ、お願いするわ」
「……」
「シン様もお持ちしてよろしいですね?」
「あ、はい。お願いします……」
「承知いたしました」
白くて長いコック帽を被ったコックが俺たちにもう食事を運んでいいかの確認を取る。
あのコックはサラのことをお嬢様と呼んでいたが、そうなるとこの豪邸はサラの家ってことでいいんだよな。
使用人がいるのならば専属コックがいてもなんらおかしいことはない。
この家はあらゆる要素のスケールが大きすぎて庶民の俺にはもう付いていけないぞ……。
「う、今日も来たか……」
「え?」
コックが部屋を出た後、サラが何やら嫌そうな顔をして廊下の方へと目線を向けた。
不審に思い俺も耳を澄ましてみると、なにやら音が聞こえてくるのだ。これは……足音?
次第に大きくなっていくその音はこちらへ向かってきているようで、その足音の主は勢いそのままに大きく音を立てながら部屋の扉を開いた。
「シーーーーーンーーーーー!!!!」
「うぇあっ!?」
扉が開いたと思うと次の瞬間には足音の主に飛びかかられ、俺は体重を支えられなくなった椅子と共に後ろに転倒する。
頭打った……いってぇ……。
「んふふ~シン~」
「お、おい!」
俺に飛びかかってきたのは金髪の女の子。頬を俺にスリスリと擦り付け、幸せそうな表情で俺に覆いかぶさっている。
彼女の肩にかかるくらいの長さな髪が俺の顔にかかって……うわ、めっちゃいい匂いする!
「ちょっと! 何やってるのよレティ! シンは私のものって言ってるでしょ!」
「えぇ!?」
「ふーんだ。どうせサラはシンに対しては媚び媚びなだけで裏ではどんなこと考えてるかわからないほど腹黒だし、シンはそのことを見抜いてもうサラのことは見限ってると思うよ~」
「なんですって!? そういうレティこそシンにべったりしすぎなのよ。私のほうがシンと出会ったのは先なのに~!!」
「あ、あの……」
「ねえねえシン、勿論サラなんかよりレティを選ぶよね?」
「え?」
「……どうなのよ」
「え?」
ちょっと待ってくれ。今この状況で俺にどうしろっていうの。
どちらか選べと言われても俺にとっては片方はまだ朝起きてからの付き合い、もう片方は今出会ったばかりなんだぞ。
ここは応えないことが正解のはず。いや、きっとそう。
「…………」
「むっ……」
「どっちなのよ」
「…………っ」
「むむっ」
「どっちなのよ」
うわっ、二人の目が怖い。両サイドからひたすら圧力をかけないでくれ、やめてくれ……。
いや、ここで狼狽えるな倉本真。せっかく今は姿だけはイケメン状態なんだ、この場面もそれっぽくイケメン特有の台詞で乗り切ることができるはず。
「俺にとっては2人共魅力的に見えるさ。どちらかを選ぶかなんてそんな残酷なこと俺にはできないよ」
うん、これただの優柔不断な男ってだけだね。
でもここでどちらか一方を選択してしまうと取り返しのつかないことになる気がするのもまた事実。
下手に一方を選択するのは避けた方がいい。
「まったく、シンはいつもそうやってはぐらかすんだから……」
「でも、レティはそんなシンも好きー!」
よし、どうやらセーフだ。助かった……。
えーと、この金髪の子はレティって呼ばれてたな。ちゃんと覚えておかないと。
「どうせまた昨日も夜這いとか言ってシンが寝ているベッドに侵入してたんでしょ! そんなことしてるからシンに呆れられるんだよ!」
「ちょ、レ……レティー!!」
「痛い痛い痛い痛いほっぺを引っ張るのはやめろぉ~!」
なんだ、あれ後からサラが入ってきただけだったのか。
良かった、俺はまだ間違いを犯してはいないみたいだ。ほっとしたような、悲しいような……。
「お嬢様とレティは相変わらず騒がしいな」
「ん?」
一夜の間違いが無かったことが判明し、胸をなでおろすの俺の隣にいつの間にか一人の少女が着席していた。
綺麗な黒髪でサイドテール。
一目見ればわかるほど服の上からも主張してやまない胸部のお山。
出るとこは出て締まるところは締まっている抜群のプロポーション。勿論顔立ちも凛としていて並のレベルではない。
その落ち着いた雰囲気と外見が完全にベストマッチしており、奇跡の美少女がここに爆誕している。
なんで俺の周りにはこんなに可愛い子ばかりがいるんだ? 謎すぎるでしょ。
「あら、ディアじゃない。あんたいつの間にいたのよ」
「何やらお取込み中だったようなので、いつもの気配を消す力を使いました」
「それいつもビックリするから多用するのやめてって言ってるでしょ……」
「ふふっ、私の遊び心というものです」
気配を消す力、そんなものもあるのか。
忍者?
「それよりシン、今日は英雄の称号を授かる記念すべき日なのだろう。もう心構えのほうは出来ているのか?」
「まあ、それなりにはな」
「そうか。私たちは別に名誉のために旅をしていたわけではないが、いざそれを称えられるとなると人間不思議と嬉しく感じてしまうものだな。色々あったが今思い返してみればそれもみんな良い思い出だ」
なんだか感慨深そうに頷きながらディアと呼ばれる少女は手に持ったカップを口に運ぶ。
今までがあったからこその今。というテイで話を進められているわけだが、勿論俺にはその過去の予備知識はない。というかあるはずがない。なぜなら俺が彼女らの言う「シン」という存在になってしまってからまだ数時間しか経っていないのだから。
まぁ下の名前と一緒ではあるのだけれど。
「その……なんだ、今更にはなるがあの時は本当に申し訳なかったと思っている」
「あの時?」
「とぼけなくてもいいぞ。私が勘違いをしてお前を始末しようとしていた時のことだ。お嬢様を騙し手籠めにしている不届き者としてお前に罵詈雑言をたくさん浴びせてしまっていたな、本当にすまなかった」
俺はその事を知らないけど、今の会話の情報だけでディアはサラお嬢様を護衛する存在と見て違いないだろう。
ということは創作でよくあるお嬢様ヒロインの付き人が主人公に勘違いして襲い掛かるって展開か。また随分とテンプレだなぁ。
そうとわかれば話を合わせることは容易い。
「過ぎたことはもういい、人は誰しも初めから分かり合えるものではない。けれでも、今俺たちはこうして分かり合えている。この過程も俺たちにとっては必要なことだったんだよ、きっと」
「ふっ、シンらしい答えだな。ありがとう」
「うん。だから気にするなよ」
よし、これでどうだ。
調子に乗るわけではないが、なんだか感覚を掴めてきたような気がする。
とりあえずわからないことがあったら話を誘導し、相手から直接聞き出すんだ。そうしなければ最初のサラとのやり取りのようになってしまい、相手に誤解を招きかねない。
人を欺くような行為で少し気が引けるが、今は取り繕うしか方法がないんだ。しょうがないしょうがない。
「…………」
「ん?」
サラとレティはまだ横で取っ組み合いをしている最中だが、その後ろにまた新たな少女がその姿を見せていた。
まずはその姿だ。サラやディアと比べて小柄なので俺よりも年下の子なのかもしれない。
髪の色はこれまで茶、金、黒ときて今度は銀髪ときた。町の住民ではないがこちらもバラエティに富んでいるな。
俺の視線に気付いたのかその少女はこちらに駆け寄り、そのまま俺の膝の上と座った。
座られたんだけど。
「あの」
「やっぱり、シンの膝の上……落ち着く……」
「君は一体……?」
「む、今日は一人で起きれたのだなリープ」
「うん、今日はちょっと緊張して……早く起きちゃった……」
この部屋に来たということはこの子も俺と一緒に魔王を倒したという仲間というわけか。
リープと呼ばれる銀髪少女は俺の胸に頭を預け、早起きした反動なのかうとうとと眠りに落ちようとしている。
なんだか妹みたいで可愛いな。
「ふわ……。リープ、シンに撫でられるの好き……」
驚くことに俺の右手は自然とリープの頭をなでていた。
身に覚えのない好意なので困惑してしまうが、俺は好意を向けられること事態は嫌だとは思わない。
リープの場合は懐かれている、と表現したほうがいいのかもしれないけど。
サラとレティにその落ち着きのなさっぷりを見せつけられた後だと、ディアやリープとのやり取りはすごく落ち着くことができる空間だ。天国と地獄だよまったく。
最初に辛い物を食べさせられて驚くなという方が無理な話なのだ。
「なぁ、サラ」
「あーもう、離しなさいよ!! ……あ、何?」
「いぎぎぎぎ……そっちこそ~~!」
サラはレティのほっぺをむにーっと両サイドに引っ張り、レティはサラのポニーテールを鷲掴み。
この2人はまだじゃれ合っているのか。このままだと聞き出せる話も聞き出せないままだし、そろそろ俺が止めに入ったほうがいいかな。
「とりあえず二人とも喧嘩はやめてくれ。その上でサラに聞きたいことがある」
「えっ!? 何々!? やめるやめる、今すぐやめる。まさか婚約の申し出とか?」
「そんなわけないでしょ……これだからサラは」
「なによレティ……って、だからポニテはやめてポニテはぁぁぁぁ!!」
「おい、だからやめろって!」
放っておいたらすぐ喧嘩するんだなーこいつら……。
ディアは護衛するお嬢様が取っ組み合いをなされているのに止めに入らないということは、もうそういう関係だと諦めているのだろうな。
まぁいいや、とりあえず質問だけしておこう。
「その式典っていうのに出るのはこの五人だけなのか?」
「痛ったいなーもう! いや、違くて……まだ三人いるじゃない。外周りに出ているルーナとソーラ、それにリシュが帰ってくるから」
「シン」は計八人で旅して魔王を倒していたのか。
その残りの仲間とやらは名前からして想像はついてるけど一応聞いておくか。もうわかりきってるけど一応ね。
「全員女……だよな?」
「何言ってるの、当たり前でしょ」
勇者シンさんハーレム状態でした。男の仲間、0!
ラノベやアニメではよくある話だとは思うけど、現実に自分がそんな相関図のど真ん中にぶち込まれることになろうとは想像もしていなかった。
大抵そんな状態の主人公は最後に女関係で碌なことにならないのを俺は知っている。
こういうのは出来れば妄想の中で留めておいて欲しかった。
「皆式の前には着くと言ってたから心配しなくても大丈夫だと思うぞ。まだ時間もあるし、予定された時間には到着することだろう」
「そうか、それは良かった」
「あっ、リープズルイ! 私もシンの膝の上に座りたい!」
「私だって座りたいに決まってるでしょっ!!」
「リープ、眠い……むにゃ」
俺の膝の上に座っているリープはもう眠りの世界に落ちる寸前。こんなに周りが騒ぎ立てているのに驚くほどの落ち着きだ。
これも慣れなのだろうか……。
「あれ、そういえば中々料理が運ばれてこないな。あのコックさんはまだ来てないのか?」
「それならあそこに」
ディアが指差した先はこの部屋の入口である大きなドア。
そのドアのところには申し訳なさそうに顔を出す先ほどのコックさんがいた。
おそらくサラとレティが取っ組み合いを始めたので部屋に入っていいのかわからずにいたのだろう。
「前にお嬢様とレティが料理をひっくり返してしまったことがあったからな、警戒して出て来れないだけだと思うぞ」
「なんか、ごめんなさい……」
流石にマズイと思って俺は寝てしまったリープを椅子に座らせ、物理的に二人を止めた。
俺も昨日の夜から何も食べていないので腹は減っている。とにかく今は早く何か食べたい心境だ。
その後なんとか仲裁することはできたのだが、例の二人は食事中もいがみ合ったままだった。
――食事の際に味をちゃんと感じるので本当にこれは夢じゃないのかもしれなくなってきました。
でも美味しかったです。コックさんありがとう。
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