第6話 後悔

「勝手に決めて本当にごめん!! 」

さくらは、リビングで佐藤くんに頭を下げる。

「付き合ってるって言った方が、これからなにかと便利かなって思ったんだけど……。あ! 好きな人とかいない!? 大丈夫!? 」

佐藤くんに好きな人もしくは既に彼女がいるなら話は別だ。

「……おう、大丈夫」

そう言って佐藤くんは再び小説を書き始めた。


よ、良かった……。まぁ、学校では佐藤くんは寝てるし、付き合ってるフリなんてする機会もないはず。とりあえず、愛梨の前でも明日からはいつも通りしれっとしていよう。


そう思っていたさくらだったが、そんな簡単にことは運ばなかった。


◾︎ ◽︎ ◾︎ ◽︎


ガラガラガラ


さくらが、教室のドアを開けると一部の女子たちが一瞬、沈黙になった。そして、その後、ヒソヒソとさくらを見ながら話し始める。

な、何これ?

そう思いながらも席に着くと、愛梨が走ってきた。

「おっはよー、さくら! 」

「おはよー。ねぇ、みんながこっち見てる気がするんだけど、これって気のせい……」

「な訳ないじゃん! そりゃ、佐藤くんと付き合ってるってなればみんな気になるでしょー♡」

愛梨はニコニコしながら言った。あーー。なるほど、そういうことか……。

「っていうか! 愛梨が私と佐藤くんが付き合ってるってみんなに言ったの!? 」

「え、もしかして言っちゃダメだった……? 」

愛梨はきょとんとした顔で私を見つめる。確かに口止めしなかったけど……、そこは暗黙の了解でしょ! そう思ったが言ってしまったものはもう、どうしようもない。

「別に大丈夫だけど……」

「そっかよかったあ」

安心する愛梨とは裏腹に、さくらはため息をつく。


これ以上佐藤くんに迷惑かけたくない。早く前みたいな平凡な日々に戻れますように!


◾︎ ◽︎ ◾︎ ◽︎


しかし、何日たっても、いつも通りにならなかった。むしろ、悪化した。佐藤くんのことを好きな子たちが、堰を切ったように佐藤くんに話しかけ始めたのだ。


「佐藤くーん、なんで寒川さんと付き合ってんのぉー? 」

そんな声が聞こえてきて、思わず教室に入ろうとしていた足を止める。

「今まで仲良いそぶりとかなかったじゃーん」「そーだよぉ! そーだよぉー! 」

そんなことを言いながら目立つ感じの女の子たちが佐藤くんを取り囲む。佐藤くんは別に大丈夫って言ってたけど、なんか嫌だ。それに私のせいで佐藤くん貴重な睡眠時間にまで影響がでるのは……よくない。

そう思って、とりあえず教室に入ろうとした時、佐藤くんが口を開いた。



「好きだから。

好きだから付き合ってんの」



……え

思わず、歩き出そうとした足が止まる。体温は一気に上がって、自分の顔が真っ赤になってるのが分かる。


って、ち、ちがうちがう!

あれは彼氏役としてだ!

役で言ってるだけ!!

何でこんなにドキドキしてんの!?

か、勘違いしちゃダメ!


そう、分かっているのに口角は上がってしまう。そして佐藤くんも、そんな風になってる私を見つけて、一気に顔が赤くなった。


あれ、何これ?

これって……、





この時、1人は恋心を、もう1人は恋心と小さな××を自覚した。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る