第4話 初めてのデート

デッ、デート!?


「佐藤くんと私がですか!? 」

私は、突拍子も無い篠原さんの提案に思わず大声を上げてしまった。

「そうだよ! うまく描写ができないのは経験がないからだ! どうせ二郎先生、ちゃんとしたデートなんてしたことないんでしょう? 」

そう言われて佐藤くんは顔をしかめる。どうやら図星らしい。

「だったら、よりリアルなデートを体験してそれを小説に書けばいいんだよ! 」

「それとこれとはまた話が別だろ」

そう言って佐藤くんはご飯のおかわりをしに行った。

「さくらちゃんも考えてみてよー! 今のままじゃ本なんて出せない。このままウダウダして、いい案が出なかったら、二郎先生の恋愛小説が読めなくなっちゃうんだよ? 」

え! そっ、それは困る……。二郎先生の書く恋愛小説は絶対に読みたい!!

「じゃあデートしよ! 佐藤くん! 」

「え!? 」

佐藤くんが慌てて振り向く。

「ここでグダグダするよりはお祭り行ってみた方がいいアイデアとか降ってくるかもしれないし! ちょうどいい気分転換にもなるんじゃないかな? 」

「そうだよ! めちゃくちゃいい気分転換じゃないか! 」

一気に形成逆転して、2対1で詰め寄る。どうだ……これだけ2人で押せば!さすがの佐藤くんも……!!

「……。」

「「お願い!! 」」

篠原さんと私で両手をあわせる。

「……分かったよ。行けばいいんだろ、行けば」


◾︎ ◽︎ ◾︎ ◽︎


そして、“どうせなら小説に忠実にやろう! ”という篠原さんの提案で私と佐藤くんと篠原さんは、浴衣を借りて、お祭り会場に向かった。

「いやぁさくらちゃん可愛いね! 」

さっきから篠原さんはずっとハイテンションだ。きっと夕食の時に飲んでたお酒がまわってきたんだろう。

「そんなことないですよー! 篠原さん酔ってます? 」

「酔ってなーい! 」

そんな風に陽気にしゃべる篠原さんを見て、佐藤くんと私は笑いながら夜道を歩く。今日は気温もそんなに高くなくて祭り日和だ。

「ねぇ、佐藤くん! 」

「ん? 」

「今回の小説はどんな話なの? 」

「……」

あ、そこまで聞いちゃ……ダメ? なのかな。

「ほ、ほら! 篠原さんが言ってたみたいに出来るだけその設定に近づけた方がいいと思って! 話しちゃだめなら話さなくていいんだけど……」

「いや、別に話しても大丈夫。どこから説明しようかなと思って。

えっとー、


主人公は、普通の男子高校生“かい”。海は、幼馴染“あかね”のことが小さい頃からずっと好きで告白のチャンスを伺っていた。そんなある日、あかねは職業体験先で自閉症の大学生“光輝こうき”に出会う。そして、不器用だけど、優しい光輝にあかねは惹かれていく。その変化に気づいた海は、こうきに優しくなれなくて…


みたいなストーリーかな」

「へー! 今回もやっぱり、どんでん返しの衝撃ラストが待ってるの? 」

「まぁ、そのつもり」

そう得意げに答えた佐藤くんの横顔は月明かりに照らされて、とても綺麗だ。私の人生では1度もそんな顔を出来そうにない。


「お! 見えてきたぞー!! 」

篠原さんの声で顔を前に向けると。屋台が立ち並ぶ、祭り会場が見えてきた。祭り最終日という事もあってか、人がたくさんいる。

「じゃあ、二郎先生が“海”役、さくらちゃんが“あかね”役、オレが“光輝”役ねー」

「了解です! 」

「んで最初は二郎先生とさくらちゃんでまわってー! じゃまた後でー! 」

そう言い残して篠原さんはイカ焼きの屋台へ走っていってしまった。

「行っ……ちゃったねー」

「ほんと、あの人酔ったら止められないんだよなぁ」

そういう佐藤くんは、軽く思い出し笑いしている。


っていうか、当初の目的を達成しなきや!

「揉めてたお祭りのシーンってどんなシーンなの? 」

「あぁ、お祭りのシーンは、


海があかねに告白しようと思って夏祭りに誘う。当日、2人は夏祭りを楽しむが、海は光輝も夏祭りに来ていることに気づく。1度は、2人の時間を邪魔されたくなくて、光輝に気づかれないように人気のない方に行こうとするが、不良たちに絡まれている光輝をほっておけず、声をかけてしまう。そして、結局は3人で祭りをまわることになり、それに耐えきれなくなった海は1人で先に帰ってしまう。海はその時初めて、光輝のことが嫌いという黒い感情を認める。


っていう感じ」

「大事なシーンじゃん! 」

「そう、だから出来るだけ丁寧な描写にしたいんだ」

「なるほど……。じゃあ、まずは形から入ろうよ! 」

「え? 」

「海とあかねは何て呼びあってるの? 」

「お互い、呼び捨てだけど……? 」

「じゃあ私たちも今夜限定で呼び捨てで呼び合おうよ!

repeat after me,さくら」

「……さくら」

「よし、そんじゃ行こ! じろー! 」

「わ、ちょっと待ってって! 」


そして、射的やヨーヨー釣り、かき氷など、“海とあかね”が、やりそうなものや、食べそうなものを片っ端からやっていった。


◾︎ ◽︎ ◾︎ ◽︎


時間はあっという間に経った。

「はぁー疲れた!! 結構いっぱいやったんじゃない? 」

「うん。なんとなくお祭りの雰囲気はつかめた。おかげさまでうまく書けそう」

そう言って佐藤くんは口角を上げた。

時計は10時をさしている。

「それは良かった! 」

「おう、今日は本当にありがと……」


そう言いかけて佐藤くんが止まった。前を見ている。

どうしたの……? そう声をかける前に佐藤くんは、私の腕を掴んで私を引き寄せた。


!?!?


わけがわからず佐藤くんの顔を見る。

掴まれた腕があつい。


佐藤くんはこっちを向いて、“静かに”と人差し指を唇に当てる。


そして、いきなり進行方向とは逆に走り出した。


な、何が起こってるの!?!?!?


わけがわからないまま、私も手を引かれて走り出す。





走る佐藤くんの横顔は、緊張と焦りが混ざっているように見えた。






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