なつのにおい

少年がカブトムシを捕まえる

むさぼるようにスイカにかぶりついて

食べ終わったそれを、木くずの上に置く

なつのにおいがした


少女が本のページをめくる

読み終えたそれを机のすみに置いて

原稿用紙でえんぴつの芯を削る

なつのにおいがした


からん、と氷が声を上げる

コップの表面の水滴がたれて

木の板の上に黒いしみを作る

なつのにおいがした


スイッチを押して、風が吹く

プリント集のページがめくれる様子を

むぎ茶を飲みながら見つめている

なつのにおいがした


ふらふらとかげろうがおどる

彼女のかげも、ゆらゆらとおどる

陽に照らされる無人駅に、ゆうれい

なつのにおいがした


雨上がりの道、しんでしまったセミ

わたしたちの心みたいな羽根が

うつくしいなみだを流していた


なつのにおいが、した

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