M.入院(8分)

登校路で交通事故にあったMさんは病院に運び込まれた。

幸いにして怪我は骨盤に小さなヒビが入ったのみで、2週間ほどの入院で済みそうだった。

絶対安静を言い渡されて、痛み止めで朦朧とした意識に微睡む夕暮れ。Mさんの病室は彼女一人きりだった。

ふと目の前のパイプ椅子に誰かが座っていて、Mさんの髪を撫でていることに気が付く。

母は入院に必要なものを取りについさっき帰ったはずなのに、と。

見上げれば知らない女がニタニタと笑っていた。

目が合って、その女は立ち上がり病室を出て行った。

看護師や母親に尋ねても、誰もその女のことなんか見てないと言った。

痛み止めはまれに幻覚を見せるからとも言われたという。

「でも入院中、人のいなくなる隙を見つけてはこっちが麻酔の効いてる時なんかに何度かやってきて、髪だけを撫でて帰っていきました」

彼女に触れられた髪からは、魚の腐ったような匂いがしたという。

「何だったんですかね、あれ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る