B.殺人マンション(20分)
「そう呼んでるんですよ。まぁそう呼ぶのはほとんど俺だけですけど」
と、Bくんは語り始めた。
彼の地元にあるマンションの話である。
「俺がまだガキの頃、その辺りは全然開発が入ってなかったから、一面田んぼでね」
しかし十数年前、ショッピングモールが誘致され、モデルハウスが展示されるようになってからはあっという間だったという。
「殺人マンションもその頃にできました。でも作られた場所が最悪で」
古い祠を潰して建ててしまったというのである。
「こう、小さい丘があったんですけど、そこを一緒に切り崩しちゃって。超ボロくて何をまつってた祠かもわからないし、もう誰もお参りする人なんていなかったけど、村の年寄り連中は罰当たりだとえらく怒っててね」
とんでもないことになるぞと息巻いていたらしい。
「まぁ、そんなの都会から移り住んでくる連中には知ったこっちゃないわな」
雪崩れ込むように住人がいっぱいになったという。
「でも、そうだね。大体30人くらいかな」
「何が?」
「何って、そのマンションで死んだ人の数。俺が高校卒業するまでの間だけでもそんくらいはいたから」
今はもっと増えてると思う、と。
「悪いことに、全員部屋の外で死ぬんだよ。ゴミ置き場で首吊ったとか屋上から飛び降りたとか廊下で頸動脈切られたとか。そうすると部屋のことじゃないから、次に住む人に大家からの告知義務ってなくなるんだよ」
だから空き部屋になってもすぐに新しい家族連れとかで埋まっちゃう。
「でも、そこまで死ねば流石に噂になるでしょ」
「ならないよ。だって住んでるのは都会の冷たい人たちでしょ。隣近所と目があっても挨拶もしないし、仕事とか買い物とかは車飛ばして都内で済ませちゃうから、俺たちのような地元組とは滅多に会話もしないんだ」
子どもの学校さえも、受験費の高い私立に入れてしまうのだという。
「完全に他人だよ。変なこと言って嫌な顔されれば、俺たちが損でしょ。誰もやらないよ、そこ住んでると死にますよって親切に教えてやるだなんて。入る連中も間抜けなんだよな。ネットで事故物件サイト調べれば、真っ赤に燃えたマーク付けられたそのマンションが出てくるのに」
「はぁ」
「でも一番の悪人はね、あのマンションの管理会社だよ。これだけ人を殺しておいても商売畳もうって気配がないんだから。もうホントに殺人マンション。金のために客をどんどん入れて殺すっての繰り返してんだから」
本当に怖いのは祟りでも人でもなく不景気ってね、と、Bくんはビールを美味そうに飲んだ。
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