T.乗り換え(15分)
Tさんは電車通学をしている。
その高校は県内でも学業優秀として知られており、遠方から通ってくる子女も多く、Tさんもその一人だった。
「私の場合、大体一時間くらいは余裕で掛かりますね」
それでもまだマシな方で、一番遠い人は片道二時間掛けてでも通ってくるらしい。
「でもやっぱりバラけますから」
Tさんが最寄り駅から乗る路線には、彼女と同じ学校の制服を着た人は珍しいのだという。
「一回目の乗り換えで、ようやく一人女の子を見つけるくらいなんですね」
毎日の通学のことで、そんなに混む路線でもない。必然顔を合わせれば会釈くらいするようになる。
どこか影のある、恐らくは先輩だったのではないかとのこと。
「でも、ある日いつもと同じように乗り換え路線のホームに降りたら」
何だか騒がしかったという。
Tさんが顔見知りの彼女を見つけて会釈すると、「人身事故があったみたいです」、と初めて言葉を交わした。
Tさんはドギマギしながら、「この駅でですか?」、と。
見れば少し行き過ぎる形で電車が停止しており、恐らくは轢かれたのだろう遺体を載せるための担架が慌ただしく運ばれてくるところだった。
「可哀想に。強く電車に当たられて、駅に跳ね戻されてしまったみたいなの」、と。
怒号が人混みを掻き分け、担架が出てきて階段へと向かう。
額や口の端から血を垂れ流した遺体。その担架に載せられていたのは、たった今の今までTさんと言葉を交わしていた先輩その人だった。
「え」
振り返るとそこには誰もいなかった。
「不気味だけど……それでもやっぱり、可哀想ですよね」
Tさんはほぉと長いため息を吐いた。
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