神能件3

(結局……あの肉はパックに入れられた)


(幼馴染はこれを「食べなければならない」、とでも言いたげだったが、俺には無理だった)


(だか一つだけ分かったことがある。あの食肉や、授業の内容から、この世界に根付く宗教は異様に強く信仰されている)


(この学園は寮生活だ。シャワーは暖かく、掃除も行き届いていて、寮内の食事はクラスメイト曰く充実している。)


(ただ、儀式というものは根強い。本来他者からの命を奪う食事にもそれは現れて、食事前には必ず神の祈りを上げている。)


(これはそう異常なものでは無い。いただきます、や、キリストのエイメンだろう。俺は食事が出来そうにない体調から、食事は出されなかったが、その儀式には出席をした。)


(幼馴染み曰く、『私達はどこかで何かを奪って生きている』と言う。それは一理あるが……)


(……気分が悪い)


(この気分の悪さは、天動説と地動説に似ている。そして、自己都合を倫理で正当化する一種の自欲すらある)


(だけど……)


(俺はそれを否定する資格はない。その考えは一理あると同時に、統制と言う意味ではこの国は平和だ。受け入れられないのは、自分の考えに他ならない)


(彼らは肌や髪、種族の違うものを差別はしない。平等に神のもとに生まれたものとして、平等に物を共有しあえる関係だ。)


(それは確かに理想的だが……だが……)


(……駄目だ……人肉食ったことにすげえショック受けてる)


(人肉、ではない可能性があるにせよ、幼馴染みを自分の価値観で咀嚼すれば「悪人を肉にして食う」ことになる。攻めるように言えば、自分はそれを受け入れられない)


(駄目だ……考えるだけでしんどくなる……向精神治療はないのか)


パアアア


「……流石神様の力だな」


(込み上げてきた吐き気が抑えられている)


(……あの神様は、この国を望んでいなかった。と言っている)


(それは見捨てたのか、悲しんでいるかは分からないが……少なくとも、スキルを与えた部外者に対して、そう単純な感情ではないかもしれない)


「……駄目だ」


(今は成り代わり先の部屋で寝ている。彼は整頓しきっているが……必要最低限のものしか置かれていない。)


(今は暗いから分からないが、かろうじて見えるにしても、簡素なベッドと、教科書と筆記用具。衣服をしまえるだけのタンス)


(……ダメだな、色々なことが多すぎて、今整理出来ていない)


「外に出るか」


(かと言って……あまり今のクラスメイトの前を通る気にはなれない、ここから抜け出せる魔法ないか)


「俺君~調子はどう?」コンコン

(幼馴染み……?)

「俺君が体調良ければいいんだけどさ、皆会いたいって言ってて」

(……ああ、この世界の体は相当慕われていたらしい)


(今会うのか……嫌だな、感情的にどうしても受け入れられない……ごめん)


(とりあえず寝たフリはしよう……そうだ、じゃあなんでも出来るなら……俺のコピーを作って、こいつ寝かせて)


「……入るよ~」

(ワープする……)



(……ワープ、森の中が浮かんできたけどここどこだ。マップのスキルとか出せないか)


(おっ出たでた……とりあえず俺は……なんだこれ、学園が全然見当たらない……なんだここ、国境とかなのか)


(……そういえば、幼馴染魔物って言ってたけど、こういうところに生息してたりするのかな)


「……」


(……え?)


(獣の耳が生えてる女の子……がなんでここにいるんだ?森に用があるとしても軽装)


「……オマエ」

「はい?」

「また着いてきたのか。来るな」


(知り合いらしいけど……この子は俺が倒れたことを知らない)


「……俺の事知ってるの?」

「……何を言っているんだ?……とにかく早く帰ってくれ、邪魔になる」


(あまり仲は良くないけど……もしかしたら俺と同じ気持ちかもしれない)


「それなんだけどね……」

「来る」


(めちゃくちゃな女の子がシーっとして当たりを見回す。森の奥から人影が現れたが……様子がおかしい)

(なんだあれ……)


「オマエ、目を伏せて。絶対に開けるな」


(とは言っても行動出来るわけが無い。今それから目を離すことが出来ない)


(ピキピキと音を立てながら、それは頭部がバックリと割られて異形の形になる。巨大な眼球で俺たちを見ている)


「……なんだアレ」

「オマエ、下がって」

「君も人だろう?」

「躻が」


(女の子は目の前でボタンを外す。その行動も驚くべきことだが、腕からどんどん獣のような毛並みが生えている)

(服が全部取り払われると、体が膨張する。それまで自分ほどあった身長が倍近く自分の視覚を大きく占めた。茶色い毛並みの狼。先程自分を見ていた赤色の瞳もそのままだ)


「あんなものと一緒にするな」


(狼はそれに飛び掛り、一発それの首目掛けて蹴りに入り、躯体を前足で踏みしだく。骨と、内臓。不協音。狼は気にせずに躯体を押さえつけて、そのまま頭を加えて引きちぎった)


(森の奥からも一人また一人とゾンビがやってくる。狼は同じように飛び乗って引きちぎった。

呆然としていたら、自分の後ろから気配がしてくる。同じようなやつだ)


「やばい……」


(ふと思いついた。目の前の人間を火達磨にする絵図、それが直ぐに現実にされる。バチバチとそれが燃え移る)

(でもそれがめちゃくちゃグロい。脳に接続しているからこんなのは化け物じゃない。化け物ではないが)


俺(大丈夫……大丈夫だ……ゲームみたいに、神様もRPGみたいにって言ってたし)

「ァー……」


何か言っている聞こえない用に火力を上げる。上げろ。そう念じて骨を砕くように。火で骨は砕けるのか、どうでもいい。音。音。その音で


敵「たすけて」

俺「あ」


冷や汗が止まらない。

今自分が倒したのは誰だ。化け物だ。人の形をした、自分の知識だって分かる化け物だ。足を地面に擦り付ける。それ以外の言葉を聞かせるな。うるさい。骨の断つ音、違う。それは骨じゃないいや、脳裏に浮かぶ白い何かは違う。見せるな。それは人のものだ。見せるな。


狼女『|来〈く〉らえ』


狼女の一斉で炎を包み込むように大きな影が敵ごと咀嚼する。敵は飲み込まれて影も形もない。


狼女「オマエ」

俺「……あ」

狼女「今のオマエは止めろ。銃のように。オマエはオマエ自身で楽にしろ」

俺「俺は殺してない」

狼女「ここに人間は、オマエ以外いない」


(目の前に何かが落ちてくる。ちぎれた人間の頭部と、頭部から露出した巣窟だ。蜂の巣状のそれから、幼虫が這い出てくる)


狼女「壊せ、でなければ死ね」


(手を照準として、更にイメージが強化できるように、次々現れる敵をピンポイントに燃やす)


「火は強く出すな、ヤツらがくる」

「やつら?」

「鎮火しろ」


(とりあえず思いついたとおりに焼き付けたものを水で流す。)


(火は出さないやり方……そうだ、鎌鼬みたいに石を動かして切りつけたりしよう)


(戦法を変えて、湧き出てくるそれを切り裂いていく)


狼女「オマエ、銃を使え。重さは生を奪うにしては軽い」

俺「……大丈夫、照準を変えれる」

狼女「アレらは地を走る。罠だけでも構わない」

俺「……大丈夫。俺は一人でやれるから」

狼女「オマエ」

俺「大丈夫……だから見ないで」


(途中狼がここを見ていたが、直ぐに戦闘態勢に入った)


(やがて切りつけ終わった時には目の前が死体の山だ……15人程か)


「何あれ……」

「人工肉。銃殺する時に魔力残ってるとああいう風に副反応が出る」


「副反応?」

「……弱ったな。知らないとは言わせんぞ」

「ごめん、君と知り合いみたいだけど……その、何するべきかとか忘れちゃってて」

「オマエ、記憶がないのか?」


(目を丸くして答える。拍子抜けしただろうか)

「だからさ……ごめんね、かも分からない。多分君は話し相手に通じるように話したけど、俺わけわかんなくてさ、ごめん」


「……オマエ、どうして応戦した」

「それは……」

(嘔吐してしまう。あの肉の残骸が地面に散らばる)


「ごめん、ごめんなさい」

「謝るな。お前に非はない」

「ごめん、汚して」

「この肉を吐き出したってことは、オマエの体はそれは無理って言ってる」

「ごめ、ごめんなさい、説明します」

「分かった、じゃあ、何で、私の後ろを守った?」


「お、女の子1人じゃ、危ないと思って」

「どう考えても危ないのはあっちの方だ。無論オマエは逃げるだった」

「……ごめんなさい」

「謝るな。私は怖くないか?」


「怖いけど……見捨てるより全然いい」

「成程……その制服、奇遇だ。私も通っているが、オマエ達が嫌いだ。食い殺したいほど。私がこの姿で学園に来たら……敵として殺すか?」


(狼の顔が近付いて来る)


「……分からない」

「ほう」

「でも君は何かを起こさないで、こうしてここで守っているのは、君にも理由はある。君はそれを守るために行動しているから、無闇な行動はしない」


「君は、理由があって、俺たちを攻撃しないでこうしてここにいる……それが具体的に何かは分からないけど、困っているなら助けるべきだと思って」

「オマエ、本当に覚えてないのか?」

「……何も覚えていない。君が俺達を嫌ってる理由とか……この国がどうなってるか、とか」


(言い切ると過呼吸が出てくる。精神面は自分のものらしい。アドレナリンが切れたから、簡潔に人を殺したから、自分が殺されるかもしれないから。有象無象の不安が、押し潰してくる)


「……分かった。私からは以上だ、腑抜けた顔も納得した」


(狼は一旦遠吠えをすると、草むらから影のようなものが出てくる。それは……姿形はよく見えないが、狼はそれに警戒をしない)


「あの学校のところに連れて行け。風より先に、夜明け前に、春のように」


(黒い犬のようなものは、くうんと鳴きながら俺を摘んで背中に載せる)


狼女「今日出来た借りは今返す」


狼女「良い夢を見るんだな、最もお前には悪夢だろうが」


(黒い犬は走り出す。後ろを振り返ればあの大狼の姿が見えなくなるくらいに、森の中を駆けた)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る