ある役員達の休息
ぽちくら@就活中
3分模擬戦【瀬谷鶴亀+部長】
【前書き】
前書いた瀬谷の戦闘シーン3000文字欲しかったなーが反省だったので今回は増量。
部長と瀬谷のくだらない駆け引きによるくだらない戦い
「
間髪入れず、ええと瀬谷は頷き、目の前の紙束が吹き上がる。紙同士の擦過音は自分が作るだけあって弱々しくうすいが、瀬谷の短かな声音に確と視神経を冒されていた。一秒にも満たないマグマ的暴力、『箱庭で上司を殺す』のテーマを咀嚼した上での熱。体温の代わりに熱が肌を刺していた。
適度に模造された世界よろしく、何も価値のない紙のような無数のかみは白い表面を見せる。そうして重力に従って舞い落ち終えると、瀬谷の姿はとうに無くなっていた。
前方後方、下方上方から生体が無機を歪ませる気配がない。瀬谷自体、平素は大人のように振る舞うがここでは否応なく魔法使いのにくまで自分が仮面を剥がした。今ここにいる彼は紛れなく、血肉よりも暴力的で騒音とした殺意を撒き散らす。
――だが
それでも彼には、魔法への原理を会得した理知はある。理知が先か狂気は先かも、どちらにせよ一方が枷にならない常識破りが、今までの仕事を成功させてきた。
その情熱と理性ふたつ捕えて絡めた部下なのだから、真正面で戦うという愚直は冒すとは考えがたい。狡猾に、自分を殺すのタイトルならば尚更、紙を剣に変形させるなど陳腐を成さまい。
――なら
妥当に行くとすれば、提示されたルールを吟味して照らし合わせるための時間稼ぎ。
月並みな表現にせよ、この箱庭を作った自分は所謂神であり創造者であることに相違ない。そして現実の信頼度から察するに、仕切り役と対戦相手を自分が兼ねている以上説明を信用し難いだろう。本懐と最低限の世界観、ルールこそは遵守するが、自分からの質疑は冷やかされて意味を成さない。概ね、無駄話を聞く気ではないの意思だ。
そして迅速に世界観を肉眼で確かめるのならば、まずは『500m』範囲と質量を確認するだろう。
「
故に大仰に、煽る。
ここは自分が作り上げた城だ。今からビルの外にいるであろう瀬谷をコンクリ詰めにでも出来るが、三日禁欲してそれは面白みがない。創造者なら創造者らしく、他者の創造性を尊重しつつ、上司の如く握り潰さんとする……
指定された通り、網膜に箱庭にあるだけの窓からの景色が映し出される。忠実に創造はしたのだから、総数1532枚要所のみを絞り300程の窓から覗く。そうして間もなく、Tが構える雑居ビルを起点に南東200メートル程に宙に浮かぶ瀬谷を捉えた。
足元から辰砂いろの欠片がさらさと散っては軌道を描く。起点を捉えようと直ぐに付近の窓に視点を回しせば、喫茶店のオーニングの頭頂に一点色濃く着く。成人男性に踏まれた衝撃でビニル製のそれは拉げたが、瀬谷も忠実に再現されているとはわかっただろう。そうして、次に範囲の真偽。破損された地点は無駄のない赤い汚染で滴る。意思を持ってその方角に行くのなら、彼が調べんとする場所は――
――最寄り駅か
直ぐ様、範囲内ではある駅ビルのガラスへとザッピングする。すぐに、頭頂が複眼にして見える。時速推定40K、順調に距離を縮めて、視覚へとミクロからマクロへ瀬谷が姿を表す。恐らく加速しているが、驚異的なテクニックではない。飛び上がる刹那に魔力に負荷をかけた程度か。
飛び続ける瀬谷の首が動き、鳥瞰していた自分というガラスと目を合わせる。持ち前の、殺気立った色をしたあかい髪、そして明るい瞳が、硝子に目を合わせるや否や微笑みで細めた。
――笑った?
ではなく、惚けていると、即座に判断した。瀬谷から一度も見たことはないが、何千何万と男女に晒し曝せた見慣れた顔だ。くちづけを強請る口が、更にはしっこを上げて笑む。それは、違う、自分が餌として見れるものとはまるで違う。
上空に懸想する鳥ではない、色濃く残された瀬谷の塊。例えようもない、好意を唾棄するかの実直な笑み。
「
吐いて、棄てた。
視界が一挙に暗転する。もう一度、窓ガラスへの投影を試みるが接続出来ずに、元の無意味で散らかった職場がぼんやりと映った。先程の言葉に魔法が含まれていた、そしてそれらは間違いなく自分が唱えた物。彼はあの虚空の中で、自分の思考回路と使用コードをはっきりと掌握させた。これが紛れもない事実となって、そうして改竄されたと思われる。今や彼を監視することは難しい。
ならばと、今度は単純に魔力からの察知へと変える。踏み込んで汚染された箇所はあるが、本物との区別は付く。
――ああ、ほらそこに殺意
また、こちらに舞い戻ってくるらしき殺意。大きな塊となって押し寄せてくる。肉の耳が大きな衝突音でびりびりする、何たる騒音かが怒濤に押し寄せた。
――いいや
にしても、大きすぎやしないだろうか。
雑居ビルと電車の交合いは、鼓膜をも破る。
雑居ビルめがけて車両が突っ込む、映画でしか見ない構図だが想定内といった処か。質量は大きく削られて派手にはならないが、ここまで来たら安楽椅子は動くだろう。
――部長相手なら二両程ぶち込むか?
そうふとした欲望が湧くも、脳への痛みが次の行動を止めにかかる。頭頂への亀裂が走り、頬と血が外傷を伝う前に頭蓋が響く。吐気を催す痛覚と虚脱、片腕に握りしめられていたボールペンすらも握る気力がない。そのもう片腕、動脈から手にした赤ゲルインキが自分かも区別つかせないまま流れる。
――あれがフローか
息を絶え絶えにして、部長からの監視を思い出す。今では理解出来ないが、あの時確かに、たった一度唱えただけで解除を成功した。それが自分に握られた狂気、そして助けられてしまったものなら、それに飲み込まれるのも時間の問題だった。
だから、あえて自分は奇を衒って自殺行為に変えた。当初は真偽確認に建造物を一通り見回してから、適当な物を投げ入れ密かにペンを眼窩に刺す計画だ。
――すげえな
何も考えられず、かんたんな言葉しか吐けないが、こっちの方がより勝率はあるかもしれない。結局、総重量3トンの一車両を突っ込む構築式、キャパシティを度外視してしまったが、勝てば問題ないのだ。
よろけた足を支えて、地の揺らぎに生を確かめる。鼓膜に穴が開くだけでは、全く聞こえない訳ではないが痛みと音が泥として喧しい。
車両が、重力に従って落ちる。煩い、目眩のする雑音。巻き上がる砂埃、グロテスクに露出した内部が余程音を帯びる。そこに行っても無益だと叫ぶような、哀れな創造物の最期の嘆き。
聴覚はほとんど使い物にならず、体力はまだ残っていない。勝敗が確定している今、自分が出来ることと言ったら、足で歩いて確認することだろう。
『……もう笑ってくれないのか』
もう一つ、テレパシー。
聞き慣れた低音、心地よい甘やかす声、それが毒に変えて脳に刺して、頭頂を口付ける。あまくて柔らかい口だ、彼の、彼のもの。同時に、後頭部からの傷に入り込む、鋭い、鋭利、爪。
――余裕ってことかよ
突き入れられる前にしゃがみ込んで前へと逃げ込んで振り返れば、部長がそこに立っていた。爪は、赤く濡れていた。それ以外には何の変化もなく、ただ平然と棒のように立っている。自らの綺麗な美徳を誇らしく掲げた容貌、今の退廃には縁もない、裂け目一つもないYシャツ。
ととのった顔立ちが、いつものように微笑んで何かを呟く。敏い部長なら、今の自分の鼓膜の状態は分かっているはずだ。
『おいで』
だが、扇情。くちびるのささやかな動きが、脳髄に波へと逆立てる。
そして今なお爪立てて抉る、意思しかないとだけ伝った。
【追記:2021-08-22】
そういえばふと後の話書きたくなったので書きました。
「──止めだ」
「……え?」
「腹が減ってしまったし、今のでまた肉が切れただろう」
「いや部長、運動と言っても徒歩じゃないですか」
「流石に電車は想定外だぞ、胃が消えた」
「胃が消えた」
「……なので、両成敗だな、そこまでするつもりはなかった」
「……じゃあ奢りとかないんです?」
「いや、君の好きな店で奢る。もう昼休憩が五分過ぎたぞ、何がいい、奢るぞ」
「ピーク過ぎて無理ですって」
「私を信じろ」
「……ホントに空いてる」
「どうしてだと思う?」
「株主だから、さっき買い占めたから」
「そういう買い占めは禁止されているんだ」
「……じゃあまた使いました?概念とやら」
「そこまではなうな、周りの社員をテイクアウトの気分にしただけ」
「その原理とか知りたいんですが」
「知って、君は使うだろう」
「……つまりそれって、人間が使うのも可能って範囲です?」
「可能だが、穴という穴から血が吹き出るぞ」
「死なないならオッケーです」
「婉曲表現って知ってるかな」
「本気ですよ……部長Co○壱初めてです?」
「君はどう頼むんだ?」
「ポークソースライス普通5辛」
「それじゃポークライス大盛り5辛」
「じゃあ800gで、よく食べますね……」
「人智を超えていると、睡魔の概念がなくてな……おすすめのトッピングは?」
「食えればどうでもいいんで考えた事ないですね…スマホ良いです?」
「万人のおすすめか?」
「とりあえず店名と『トッピング 大正義』で……ほうれん草が正義みたいですよ」
「ほうれん草の悪ってなんだろうな」
「シュウ酸じゃないですか?アクだけに」
「……」
「……すみません」
「すまない……未来予知が出来てなかったばかりに」
「いや良いんですよ……カレー待ちましょ」
「……君はここに来るのか?」
「いや、そんなに。部長が奢るって言うなら、少し良いの食べたいと思って」
「コンビニでも良かったのに」
「と言っても、行儀悪いのは自覚しているんであんまり外食しないですね。店の回転率悪くなるんで」
「行儀がいいけど、現時点で」
「ただ水飲んでるだけですが」
「昼食の時間にも敬語使えてえらいぞ」
「部長たまに失礼ですよね」
「まあ、無礼ではあるかな。だから首都の風当たりはキツかったが、君だって三輪君がいるのに首都に行かなかったじゃないか。お互い気が合うな」
「三輪と俺のやりたいことは別ですからね」
「首都から説得が入ったと聞いたが」
「契約書見て駄目です。何ですかね行使権の帰属って」
「その為に君を説得していただろうけれど」
「……まあ、そういうのサインしてたら部長のあれそれ見れないだろうし、俺はここで正解だと思いますけどね」
「意外だな、君はこういうことを下らない事に使ってないで、というかと」
「大なり小なり部長は奇跡を起こしている事には変わりないんで」
「尊敬してるか?」
「魔法ってのは奇跡なんですよ。それが魔術だろうが何だろうが、人は病とか死とか言う見えないものに希望を見出したりするんです」
「私にとっては、それは医学で事足りると思うな」
「今の話であって、昔は病魔、って言いますし。形のない物をかたどるものとして、魔法は奇跡とか、そういうやつであるべきなんですよ。部長のすることと、俺のしたいことはそういうやつです」
「……尊敬しているな?」
「あまり無いんですが、興味はあります。大いに」
「あるのか」
「そりゃありますよ。俺人と会話するの苦手なので」
「自覚あるんだな……」
「お待たせしました~ご注文は以上でよろしいですか?」
「はーいありがとうございまーす、あっ大きい方そっちです」
「それではごゆっくりどうぞ~」
「……君は、今のこれと箱庭は、同等と考えているのか?」
「そりゃ勿論、解明できない魔法は奇跡なんで……ああ、私と出会えた事とかは抜きで」
「一言も言ってないが」
「言いそうだったんで……貴方が人智から外れているのはとっくのとうに分かってますし、上司としては別ですが、魔法使いとしては興味があります」
「尊敬、ではないのか」
「神様って、同じ人間みたく尊敬するものですかね?それはそれとして、神様が形をもって、こうして俗っぽい話をしてると俺は興味があります」
「尊敬ではなくて、崇拝はあると?」
「……崇拝ですか……崇拝」
「私を見なくても」
「神が崇拝されるべき存在なら、逆に言うと、崇拝されないものは神ではない、ということになります。その点部長は何ですかね」
「じゃあどこかにあるんじゃないかな、私の需要が」
「部長の需要がねえ……部長、『魔法』って概念そのものとか」
「それだったら、君は崇めるのか?」
「中身は見てみたくなりますね。
『魔法』の『神秘』は『自然』の『神秘』と同じか。そういう概念が俺の目の前にいるとしたら、どれくらい細分化出来るか。細かくばらして、最後の原子は物質か、何か。
……まあ、おお神よって感じでは無いんですが、気にはなります。俺が生きれる間は生きて欲しいくらい。これは崇拝ですかね」
「ではないが、理由は十分すぎるくらいにあるな」
「いや矛盾しません?」
「私は一度も『神は崇拝によって生かされる』とは言ってない。勿論概念も合わせて」
「部長として、どう思います?そうは言っていなくても、生きていけますかね」
「『神は崇拝されるべき存在であるならそうだろう』、『神は崇拝されなくても生きていける』私はこう思う」
「……うーん」
「合わせて『神様とは、出来すぎた何かを、かたどって名前付けたもの』かな」
「なんか自分から降ってきて何ですけど、難しいですね」
「嫌いじゃないぞ。カレーがいい感じに辛さが引くほど、話は煮詰まった方が丁度いい」
「……なんで概念操っといて辛さは無理なんですか」
「嗜好くらいあってもいいだろう」
「……ルー甘口頼みます?」
「頼んだぞ……冷めた話だが、崇拝は人間のリアクションに過ぎない。未来に、過去に、時間に感情は合ってはならない。人が何を思おうが、そこに在るのだよ」
「部長、その辺の感じってイメージ何ですけど、そうなると部長はそういう物であるべきって感じですよね」
「そう見えないのか?」
「見えないんですが、まあ、易々と使うくらい部長はなんかすごいのも両立してます。だとしたら部長は……人間のつもりで振舞っているんだろうなと。振舞っているなら、相応に理由があるでしょうしね。それこそ嫌ってほど崇拝されたりとかで」
「結構頑固に支持するんだな」
「部長、人間と神は関係ないって言っても、矛盾してますからね。関係ないなら、俺たちと何も干渉しない」
「利用したいからとか、ないのか?」
「多少有りますが、人間の範疇ですしね。それを踏まえて、人間臭すぎて興味深いんですよ、部長は。
ぶっちゃけ俺、崇拝で生きるかどうかはどっちでも良いんですよね。証明的な話であって、それでも俺の対象は変わらない。
ただ、部長は人間として振舞うことは、物の維持を止めて、成長をするってこと、それはめっちゃ興味深いですね。正直」
「私のことならいつでも教えるぞ」
「あーそう言うのは良いんで……なので、毎日有意義ですよ」
「もう少し、可愛げのある口調で頼む」
「は?」
「部下は役職者に、は?と言わないんだぞ……」
「……そういえば、会計するとトッピングのクーポン貰えるんですよ。差し上げます」
「……まあ良いだろう、私も奇跡も成長も好きなんだ。鶴から誘うなら成長したな」
「勝手に信じて良いですよ。俺もこういうのは悪くないんで。
それこそ、モノが成長するって奇跡、俺も見たくないわけじゃないんで」
「……どういう意味の成長だ」
「カレーの辛口変えるとか……マジで駄目なんです?白米何のためにあるんです?」
「……ルー増量で頼む」
「学習してくださいよ、人なんですから」
「君にすごく言われたくないな……」
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