第36話


『しょーがないでしょ?私、全然外出ないし。』


「だと思った。だって他の奴らはみんな真っ黒に日焼けしてるのにお前だけ肌真っ白だもんな。」


海美の素肌は常夏の島に降り注いだ雪のように真っ白で、常夏の島の人間とは思えない程、綺麗に透き通っていた。

『…私、身体弱いんだもん。』


「えっ、海美…が?」


確かにそう言われてみればそう見える。島に似つかない肌と華奢な身体…

ちょっとした風で飛んでっちゃいそうだ。

白い腕を撫で下ろしながら海美が続ける。


『私ね、生まれつき身体が弱くていっつもお家で外ばっかり見てたの。みんな楽しそうだなーって…』


そう話しつつ遠くを見据えるその目には何が映っているのか。

ただ、海美にとっていい思い出ではない事だけはよく分かる。


「実はさ…俺もここに来るまで家に閉じこもってたんだ。」


初めて家族以外の人間にこの事を打ち明けた。

海美なら、なんか…分かってもらえる気がした。


『えっ、誠司くんが?』


「そ、ダサイよね。俺はお前と違って外に出られるのに出なかったんだ。窓からビルの間の空眺めてさ。夕方が来る度に"明日は出よう"って思うんだけど無理でさ。」


『私も…だよ。』


海美の足が止まった。


「けど海美は身体が弱くて出られなかったんでしょ?俺とは全然…」


『一緒だよ。身体が弱いせいにして"少しなら出ていい"って言われてたのに出なかったの。』


「なんで?けど今はこうやって外出てるんだし気にする事ないと思うけど?」


『そうだね。だけどあの時にもっと外に出ていれば良かった。』


その言葉の意味は理解できなかったが、海美がこうやって外に出てきてくれているお陰で俺も今ここにいる。


「俺は…海美のお陰で外に出れてるよ。」


『えっ?』


海美が俺を見上げている。俺はそれを目の端に感じながら話を続けた。


「あの日、海美と会ってなかったら俺、外なんて出てないし、トモダチだって1人も作れなかったと思うんだよね。またこの島でも同じこと繰り返すだけみたいな…だからさ、今の俺は海美のおかげでこうして綺麗な夕陽を見られてるんだ。」


言い終わった所で自分の発言の恥ずかしさに気づいた。


「っっってごめん!!まっ、まじキモいわ俺っ!!別にそんなアレじゃないから!!」


海美はふっと微笑んで歩み出す。


『ま、いっか。ありがとう。なんかまたモヤモヤどっか行っちゃったよ。行こっ。』

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