第25話

『あ…ごめん。なんでだろ…あの、また海に落ちたら危ないでしょ?だから…登っちゃだめだよ…』


そんな危なかったかな…と思ったが、心配された事がちょっとだけ嬉しかった。


「…ありがと。」


「ところでさぁ、なんでその貝殻集めてるの?」


海美が横髪をかき上げ、髪に隠れていた小さな耳が姿を現わす。


『お祭。この島の。その時にこの貝殻が必要なんだ。』


祭…よくわかんないけど島の祭だもんな。なんかそーゆーの神様に納めたりとかするんだろうな。


「へぇ…そういえばこのペンダントも祭で使うんだろ?町長が言ってた。」


貝殻を探す海美の手が止まった。

そして海美は寂しげな声でこう答えた。


『そうだよ。島の子が無くしちゃったの。けどそれはもう瀧山くんのだから。』


俺は視線を落として胸元に輝くペンダントを見つめた。


「あんとき言ってくれりゃぁ良かったのに。そうそう、それで"渡し子"?ってやつやってくれないかって言われてさぁ…」


その瞬間、海美の口元が緩むのが見えた。


あ…コイツ、笑ってる方が可愛…

い、いやっ違う。別に俺はコイツを可愛いなんて思ってない!


『え?そっか…良かった。私も瀧山くんにやって欲しい…かな。うん、それがいいよっ。そういう事なんだよきっと。』


俺に顔を向けた海美と目が合った。


けどまた俺はすぐに視線を逸らしてしまう。


陽射しのせいか?顔がやけに熱いな…

海美がそういうなら別にやってやんなくもないけど。


「まぁ…俺も元々やるつもりではあったからさ。」


『ホント?絶対だよ!!』


初めて見る海美の満面の笑み。

それが眩し過ぎて俺はまた視線を足元へと落とす。


「…あ、あった!!う…赤嶺さん!ほら!」


…その日俺が見つけられた貝殻は、この1つだけだったが、もっともっと大切なものを見つけられた気がした。




そして今、部屋でひとり、"この貝殻瀧山くんが持っててくれる?"そう言って渡された貝殻をぼーっと眺め海美の事を考えている。


『誠司ー、ごはーん。』

下から母さんの声が響く。

…ほんと母さんは空気読めないよな。


ブツブツと文句を言いながら階段を降りていく。


キッチンへ入ると中心に置かれたダイニングテーブルにパックのおかずとチンしたパックご飯が並んでいた。


てか、いい加減ダンボール片付けろよッ。


『やっぱ母さんの手料理が食べたいなぁ。』

『やだぁ、お父さんったらぁ♪誠司はどう?やっぱお母さんの手料理、食べたい??』

"そんな話はどうでもいい"とばかりに、無言でおかずを頬張りつつ、「俺、やっぱ"渡し子"ってやつやってみる。」

そう父さんと母さんに告げた。


2人は驚いていたが、顔を見合わせ頷くと、『わかった。応援するからね。』と親らしい一言をくれたのだった。


その日は、長い時間夏の日差しに照らされていたせいか瞬く間に眠りについてしまった。

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