第22話 不吉な予感

なんだかんだで、時が経つのはあっという間だ。うちのマタタビが妖だったと知ってから捜索当日はすぐにやってきた。

その間、私とマタタビの生活もかなり変化があった。


マタタビが異常に私にべったりになり、ずっと私の傍を離れたがらなくなってしまったのだ。

それこそお風呂に行くにも着いてくるレベルで。


 どうやら自分が居ない間に、私が地獄の呪いを受けた事にショックを受けた模様。

 別にマタタビが気にする事は一切ないのだけれども。


 そんな私の騎士マタタビは、甘党なあのチビと常にバトルを繰り広げている。

 二人共、水と油のようで顔を見合せば常に喧嘩ばかりで騒がしい。


 部屋で雑誌読んでいれば、人型に変化した二人がクッションを投げ合い、私にぶつかる始末。

 小さいままで喧嘩すればいいのに、一々大きくなるから、全てその分増す。

だから物音がデカイと家族に誤魔化すのが大変。

 でも今日は静か。それはマタタビが朝から外出しているからだ。


「ほんと、何処に行っちゃったんだろ……」

 またあの放浪日々に戻ってしまったのだろうか。

 ぽつりと漏らしながら、私は胡坐をかいた上に乗せたリュックに、あれやこれやと詰めていく。

 両手を自由に使えた方が何かと便利だろうと、クローゼットを漁りやっと発見したのがこれ。

 小学校の頃に遠足で使っていたものなので、ちょっと小さめだけれども、一応背負う分には何ら問題無し。


「懐中電灯とスマホだけあれば、なんとかなるよね」

 なんだかこうして荷物を詰めていると、ほんのすこしだけ胸が躍る。童心に戻ったようだ。例えるならば遠足前日みたいな気分。

 年齢を重ねる事に連れ、いろいろな柵や思考に囚われそんな事を忘れていく。

 だから、ちょっとだけ楽しい。


 ……まぁ、行くのは地元有数の心霊スポットだけどね。


 義弘の最後の地・背丈石があるのは、紀伊城跡地。義弘の時代よりも後にあの辺に城が建てられたのだ。そこは今では公園となっている。

 一つ嘆息を部屋にばら撒いていると、廊下から響く足音がこちらに近づいてきた。


「小娘―。小娘」

耳触りの良い少年の声だ。


 ――ほんと声だけならなー。あの中身が……


 それはついさっきまで、文化研究と題してパソコンでインターネットに勤しんでいたあいつの発したもの。

 小鬼は扉を開け放つと、私の膝に飛び乗りリュックの中を覗きこめば、足にリュックの重みとは別の体重がかかる。

 残念な事に、最近この重量感にも慣れ親しんでしまっている自分がいる。


「おやつは? ちゃんと持ちましたか?」

「あのさ、遊びに行くんじゃないからね」

 確かに思ったが。遠足っぽいって。


 私達はあと数時間後には、迎えに来てくれた大原達と合流し、義弘捜索へと向かう。

 まず可能性が高い、義弘最後の地を目指して。

 そのための準備をしているのに、おやつの話とは……



 大体食べる暇ないと思う。今から行く場所は地元でも心霊スポットとして有名な場所だからきっと食べても味がしない。

 というか、食べたくない。


「おやつは家に帰ってからゆっくりね。それより、私達無事帰ってこられるの?」

「そうですね、邪魔する者がいなければ問題ないでしょう。もし居ても僕より弱い魔の者ならば無事帰って来られますよ。閻魔様の命を受けている以上、ひ弱な小娘一人ぐらいは守りますので。ただ相手が強ければ、帰ってこられる可能性は低いですけどね」

「それは頼もしいのか、頼もしくないのか……」

「悟様も居るので、それはいらぬ心配ですよ」

「そうだね。大原と大原のおじいちゃん、それに雷蔵もいるし」

 悪い方向にばかり考える事は無い。こちらには、心強い味方がいるんだ。その点、私は何の力もない身。精々足手まといにならないようにしなければ。

 気合いを入れるため私は、自分の頬を両手で挟むようにし叩いた。


「随分と張り切っていますね」

「当然よ」

「まぁ、余計なアクシデントが起きなければいいですけれども」

 小鬼の予言染みた言葉は、すぐに的中する事となる。


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