第6話迷子の迷子の子犬ちゃん
ワンコ少年は耳をプルプルさせたままこちらを見ようとはしない。
見たところ、私と同い歳くらいだろうか。
あー…、この年頃の子は素直に言えないよね。
特に女の子の相手に「自分は迷子です」なんてカッコ悪いから言えないんだろう。
仕方ない、お姉さん(精神年齢含む)が一肌脱いであげようじゃないか!
迷子になったのは可愛い子犬少年で、私は猫のお姉さんだ。犬のおまわりさんじゃないけれど、この少年の困り事くらいさくさく解決できる、任せなさい!
「私の方は大丈夫よ。先にあなたのお父様とお母様を探しましょ?」
にっこり笑って手を差し出すと、少年は驚いたようにこちらを見つめてたっぷり10秒躊躇ってから、私の手を取った。
「私はハルよ、伊集院ハル。あなたは?」
「…西園寺 虎太郎です」
「コタローくんね、じゃあ行きましょうか」
さっきまでソラと繋いでいた手を、今度は虎太郎くんと繋いで歩き出す。あ、残念、猫科同様犬科にも肉球はないのか…。
仕方ない、気を取り直して最初に目指すは迷子センターだ。
こういう時は焦らず慌てず、迷子センターで大人を待つのが一番!
…それくらい子供でも分かるって?まぁこのワンコ…もといコタローくんはその選択肢を思い付かなかったようなので、迷子の常識を備えた私が案内してあげるのですよ!あわよくばその耳をもふらせてくれると嬉しいです!
もちろんそれが本音です。だってあんなにもふもふしてるんだもの、絶対触り心地いいはず!
虎太郎くんを引き連れて迷子センターに行くと、不安そうな顔でおろおろしてる女の人がいた。もしかして、と私が確認するよりも早く繋いでいた手を離してコタローくんが駆け出す。
「お母さん!」
「虎太郎!よかった!」
感動的な親子の再開、良かったね虎太郎くん。さて私も弟のところに行きますか。うちの可愛い迷子の子猫ちゃんは泣いてないといいんだけど。
寧ろ目に涙溜めて私の事探してたらどうしよう、やだ、絶対可愛い。
そう思い歩き出そうとすると、声をかけられる。
「ハルさん、ありがとうございます。これ、あげるので使ってください。怪我してるみたいでしたから」
そういって虎太郎くんが綺麗な緑色のハンカチを取り出し、皮が剥けていた私の手に巻いてくれる。
「お母さんに会わせてくれたお礼です」
むむ…お礼とな。私なにもしてないんだけど…迷子センターと言う子供の安全地帯に連れてきただけなのだけども…。ううむ、無下にするわけにもいかないよね…
というかお礼ならその耳をもふらせ……おっといけない、ソラが待っているんだった。
「ありがとう、コタローくん。それじゃあね!」
ハンカチを巻いてもらった礼を言うと、虎太郎くんのお母様にもペコッと頭を下げて、私はソラがいると目星をつけてる場所に向かった。
残念ながら犬耳もふもふは出来なかった……………。
△△
「ハル!見つけた、急にいなくなるなよ!」
案の定、お使いの目的だったブラシのお店に行ってみればソラがいて私を見るなり怒りだす。
居なくなったのはソラの方でしょうに…私のせいにされた、解せぬ。
でもお姉ちゃんですからね!そこはこっちが大人になってあげますよ、ふふん。
「ごめんなさい、少し迷っちゃった…お使いはもう終わったのかしら?」
私が首を傾げると思い出したようにソラが顔をあげる。
「まだ買ってない、ハルが来るまで待っててあげたんだ」
その言葉にジーっと見つめると目を反らされる。
分かりやすいな…、うん、何買うのか忘れたんでしょ?
全く、仕方ないなぁ…ようし、ここはお姉ちゃんの出番だね!任せたまえよ
私はカウンターのお姉さんに声をかけると猫耳ブラシを下さい、と声をかける。
するとお姉さんはにっこり微笑みこちらですか?とカウンターの下から丁寧に梱包されたブラシを取り出した。
準備が良すぎる……さては既にお父様達が手を回していたな!?うーん……親バカ…
「お買い上げありがとうございます」
持ちやすいように手提げ袋に入れてもらい、お金を支払う。ブラシの金額は私とソラの持っていたお金を合わせて足りるくらいだった。残りは電車代くらいだ。
「ちゃんとお使いできたわね」
お姉さんからブラシの入った袋を受け取り、微笑むとソラも胸を張る。
「俺のおかげだな!」
「そうだね、流石ソラ」
「当然だ!」
…うん、ちょろい。うちの弟ちょろいわ。可愛いから良いけどね。ちょろかわです。
今度は迷子にならないようにしっかりぎゅっとソラの手を握る。
「…ハル、手ぇ、どした?」
ハンカチを巻いていた手にはブラシを持ってもう片方で繋いだのだけれど、ソラは目敏くハンカチを見つけては首を傾げる。
「私が転んじゃったから親切な人が巻いてくれたのよ」
迷子のワンコを迷子センターに連れていったら、お礼に手当てしてもらいましたって説明もできたけど面倒なのではしょった。
「そうか、優しい人だな」
微笑むソラにそうね、と微笑み返す。
付け加えるならもふもふワンコだったけどね!!いつか犬科の友達を作って耳をもふもふさせてもらおう!!そして前世では叶わなかったもふもふ天国を実現させてやる!ついでに肉球の代わりにぷにぷに出来るものも欲しい!
意外にも、私のその願望は早いうちに叶えられることになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます