第17話
話の始まりは数年前になる。他国の色んな国で薬師の失踪が相次ぎ始めた。それを聞き、エクランド国でも調査する事になった。
エクランド国の試験で薬師になった者は、国内外問わず半年以上仕事に携わらない場合は、書類を提出する事になっており、会社の方も名簿を提出する義務があった。仕事の紹介もしており、働く気があればまず無職という事はない。
また、薬師達が安全に仕事が出来るように、国の至る所に巡回兵を配置しており、他国に比べ犯罪は少なかった。
管理が徹底されている為、容易に調べる事が出来た。調べた時点では失踪した者はいなかった。
だが一件目の失踪事件が発生する。それで、エクランド国も失踪事件の調査に本腰を入れ始めた。それでも半年後二件目が発生する。焦り始めた頃、他国の商人が怪しいと突き止めた。探りを入れ、その中にエクランド国で失踪した一人がいる事を掴む。
確証得て乗り込んだが、そこで信じられない事が起きた。商人を含め全員死亡していたのである。死因は心臓まひ。伝染病か、それとも毒殺か……。
解剖の結果、毒殺ではない事が判明。そして菌も発見されない。
もしかして……と、もう一つの疑惑が持ち上がる。それは魔術。捕らえに乗り込む前日は、全員生きていた事がわかっていた。伝染病なら少なくとも、全員が一気に亡くなる事はない。最初に感染したものから死亡していくはずだという見解である。
そこで隣国で魔術師の国と呼ばれるハルフォード国に協力を依頼する。魔術師の国と呼ばれているが、魔術師なのは王族だけである。そして、そう名乗った訳ではなく、周りが勝手にそう呼んでいた。何せ第一王子のレオナールは、自分が魔術師だという事を一切隠さなかったからだった。
その彼の協力の元、魔術師探しを始めるが一向に進展しなかった。そして調べていくうちに、やっとある兵士が色々関わっている事がわかった。だが、その兵士もまた心臓まひで亡くなった。
しかしその兵士は、レオナールの目の前で亡くなったのである。そして魔術師が絡んでいる確証を得る。兵士の左胸に魔法陣――刻印が描かれているのをレオナールは発見した。だが残念な事に、それは兵士の死亡と共に消滅した。
レオナールは、その刻印で薬師達を縛っていたのではないだろうかと推測する。裏切れば死ぬと言われていて、従うしかなかった。そして、刻印が消滅したのは、その役目を終えたからではないか。つまり発動したので消滅した。
兵士はともかく、商人達は捕らえられる事は知らなかったのだから、裏切りようがない。商人達の事がバレたと気づいた魔術師の意思で発動させた事になる。という事は、まず魔術師を見つけなければならない。しかもこれを一人でやるのは無理なので、組織での犯行だろうとも推測できた。
エクランド国が目星を付けたのが、失踪した二人と関係があるエイブだ。彼の監視をブラッドリーが行い、偶然一緒に仕事をしたティモシーに彼が近づいたのを確認し、ティモシーの方を監視する事にした。
そしてあの日、エイブは動いた。連絡を受け、ブラッドリーと共にルーファスとランフレッドもあの小屋に向かった。まだ魔術師だという確証は得ていなかったが、その小屋に結界が張られていて確定した。
その後、ブラッドリーが中に乗り込んだのである。
一気にここまで語ったランフレッドは、ふうっと息を吐いた。
ティモシーの方は、事の大きさにただ彼をジッと見つめているだけだった。
「大丈夫か? 難しかったか?」
ティモシーは、ランフレッドの問いに首をぶんぶんと横に振る。
「もしかして、エイブさんに近づくなって言ったのは、殺人者かも知れないからではなく、その組織の魔術師かも知れないからだったのか?」
それなら絶対に止めるだろう。しかも本当の理由は言えない。
「そうだ。だがあの日にお前がターゲットになっている事を知った。もう俺ではどうする事も出来なかった。わかってはいる。その場に踏み込まないと、捕らえる事が出来ないのは……」
悔しそうにランフレッドは言う。彼には作戦の詳細は知らせれていなかった。
(そうか、だからあの時、巻き込んでごめんなって言ったのか)
ティモシーは、ランフレッドの指示に従わなかった事を今更ながら後悔する。係わった以上、レオナールに会わない訳にはいかない。拒否すれば、ランフレッドに更なる迷惑がかかる。
エイブがティモシーを標的にした以上、遅かれ早かれレオナールに関わっていただろうが。
「……俺は、失踪の裏に魔術師が関係しているのを聞かされていたから、お前を外に出したくなかった。その歳で王宮専属薬師で見栄えもいい。狙われるって……。エイブがその仲間かもしれないとも聞かされてはいたが……。お前の行動を縛った事で、逆にあいつに付け入らせる事になってしまった。ごめんな……」
ランフレッドの思惑とは反対に、裏目に出てしまった。守るつもりが逆に危険な目に遭わせてしまったと、彼もまた後悔していたのである。
「ランフレッドが謝る事はないだろう。俺が悪いんだ。知らなかったとは言え、いう事をきかなかったから……」
ランフレッドは、軽く頷いた。
「ありがとう。じゃ、行くか。あ、制服に着替えてくれよ」
ティモシーは頷き、部屋に着替えに戻った。
ふと机を見ると、エイブに貰った本と借りた本が目についた。
(これ、どうしたらいいんだろう……)
エイブとの思い出と一緒に本も封印――捨てた方がいいかもしれない。ティモシーは、悲しい気持ちになりながらも、本をゴミ箱に捨てた……。
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