第8話 レベル上げと蜜月

  元々神殿だった場所をセシリア邸として改造した屋敷内で俺達は

 今生活している。レベル上げをしに行こうにもセシリアがぐずって

 行きたがらないのだ。


  別に俺もだらだら過ごせるなら問題ないが。セシリアはと言うと

 日本で購入したテレビゲームに夢中になっていて、ろくに家事もしねぇ。

 家事は俺達三人でやることとなった。


  料理はセシリアと井岡が担当。何しろ俺と部長は飯をまともに作れ

 ない。買い出し、掃除、洗濯物は俺と部長がする。但し、セシリア、

 井岡の下着類は井岡が一手に引き受けさせられている。


  セシリアの女性もの下着を俺達に洗われるのを嫌がったからだ。

 別に洗濯機につっこんで回して干すだけなのに。女って奴はよー分か

 らん。


  セシリアの部屋は常に鍵が掛かっていて俺達が勝手に入れないよう

 になっている。どんだけ、警戒してるんだって。井岡も部屋はあるの

 だが、夜な夜なやってきて俺のベッドに潜り込む。そして、気持ちよく

 寝ている俺を起こし、催促するのだ。なにをってアレをだ。


  複数人で入れる大きい浴場もあって、俺達はそこを使う。セシリアは

 警戒して個室のバスルームを使っている。よほど見られたくないらしい。


  別に覗かねぇよ。女の裸なんて井岡もいるし、昔エロ動画で散々み

 まくって飽きたし。自分で言ってて悲しくなるな。


  今日も掃除や洗濯が終わって日も昇り、そろそろ昼食と行きたいと

 ころだ。井岡と部長は既に食料の買い出しに行っていてもう少ししたら

 戻ってくるだろう。その前にセシリアを起こさないと。


  セシリアの部屋に向かうと、当然鍵は閉まっていてコンコンと軽く

 ノックしても反応が無い。まだ寝てるのか? ドアに耳を近づけると、

 何やら艶めかしい喘ぎ声が聞こえる。あーこれはあかんやつやー。

 夢中になってノック音にすら気づいてないらしい。


  一人遊びしてるところを見るに全く興味が無かった訳でもなさそう。

 案外、押せばやらせてくれるかもなぁ。等と考えつつ。ドアの前で

 座り込む俺。行為が終わって息が弾んでいるようだ。


  もう少し間を置いてノックするか・・・。わざわざでかい音出して

 中断させるのも気の毒だったし。するとその直後おもむろにドアが

 開いてドアにもたれかかってた俺は間抜けな格好で倒れてしまった。


「あなた! 聞いてたわね!」

「・・・。お前バカだろ、人が気づかない振りしてやってんのに。せっかく

 の気遣いを無駄にしやがって」


「うー・・・」

「別にオナってたことくらい黙っててやんよ。それより飯だ飯」


「携帯で録音とかしてないわよね?」

「さすがにそんなことせんわ!」


  よほど焦ったのか、ほぼ下着姿のような格好をしている。多分部屋の

 中ではいつもこんな格好をしているのだろう。通りで鍵掛けっぱな訳だ。

 カーテンもいつも閉まってるしな。


  しかしこいつは・・・こんなだらしない格好を見せつけられると、

 百年の恋も冷める。一時的にでもこいつが欲しいとか思った俺はバカだ。


  顔とプロポーションは一級品なのに、あらゆるところに残念さが同居

 している詐欺のような存在だ。


「着替えて行くわ」

「ああ、そうしてくれ」

「それと、今日のことは他言無用よ」


「言わねーよ。それに多分みんな気づいてるぞ」

「!!!!!!?」


  そらそうだろう、みんないい歳扱いたおっさんなんだからさ何となく

 そうなんだろうとは思ってるさ。


  昼食後優雅に紅茶を飲んでいると占い師の格好をした女神ミレイアが

 来訪した。だらだら過ごしている俺達をせっつきに来たんだろう。


「女神セシリアレベル1・・・ね・・・」

「ミレイア様、あのですね・・・」

「分かってるわ、セシリアがぐずるんでしょう?」


「ああ、はい・・・」

「私も特に用はないのだけれど、こうやって顔を出さないといつまで

 たってもゴロゴロゴロゴロして過ごすんでしょうね・・・」


  女神ミレイアは何日か置きに、俺達の様子を見にやってくる。

 特に生活資金に困ることの無い俺達は年がら年中特に何をする訳

 でもなく屋敷に居るわけだ。そら心配だろう。


  非常に申し訳なくなってくる。もう仕事をしなくて良いと思うと

 それだけでも快適すぎて、自堕落な生活を満喫してしまうのだ。セシ

 リアがぐずるというのは正直建前であって俺と井岡はぶっちゃけると

 冒険に旅立ちたくない。


「神の啓示です。セリスティアへまず向かいなさい」

「レベルの低い俺達にはまだちょっと行くの厳しいんですが・・・」

「ええ、レベル上げをしてからで結構よ。でも言わないといつまでも

 こうやって過ごすでしょ?」


  仰るとおりで!


  アスティアから少し離れた位置にセリスティアの街が存在する。ア

 スティアが首都だった時代は大層繁栄していたらしいが・・・今は老

 人達で溢れ、若者達は首都ローランへと出稼ぎに行っている。


  アスティアは魔王の拠点から一番遠い位置だ。だから初心者冒険者

 がスタートするには絶好の拠点だ。熟練の冒険者になればどんどん、

 魔王の居城近くに拠点を構えるそうだ。そもそもテレポートがあるので

 どこの拠点を構えようとも関係無いのだが。


  アークウィザードの井岡はテレポートを既に習得しているので一通り

 重要拠点は巡れるようになっている。但し、俺達は行ったことが無いので

 テレポートできないんだが。


「セシリア、いつまでもぐずってないでレベル上げに参加しなさい。みんな

 困ってるでしょ?」

「はぁ~ぃ・・・」


「もう・・・分かってるんだか・・・分かってないんだか・・・。それじゃ、

 お店を長い時間空けておくわけにはいかないから戻るわね」


  女神ミレイアが来る度にここの空気が重くなる。つまり、彼女は

 セシリアを始めとした我々にこうやってプレッシャーを掛けに来て

 いるのだ。そしてついに、次の目的地を示した。いけと。


「なぁ、ミレイア様の言うとおりレベル上げしようぜ?」

「いやよーいやーあああああああ。めんどくさああああいいいいい」

「おうけい、それならお前の秘密をバラしてもいいんだな?」


「ああああああああああああああああそれはやだああああああああああ」


  渋々レベル上げを了承したセシリアを連れ周辺へと狩りに向かうこと

 となった。とは言ってもゴブリンとホブゴブリンを倒すだけなんだが。


「ああ、もう。あいつら何なのよ! 私やまーちゃんばっかり狙って!」


  はぁ・・・あいつら女ばっか狙ってやがったな。目が血走ってたし。

 二人にとりつこうとするゴブリンを振り払うのに苦労したわ・・・。


「これだから、レベル上げは嫌なのよ。特にゴブリン! ケダモノの

 ような目で熟れた私の体を狙っていたんだわ!」


  前回、部長が暴走していたお陰で全然気づかなかったが。井岡が狙

 われていたような、いなかったような・・・。あいつらはそう言う種

 族だったんだな。


「まぁ、それでも何とかレベルが5まで上がったな」

「部長はね!」


  何を隠そう固有職の勇者と女神は全然レベルが上がってないのだった。

 必要経験値がとんでもないレベルで違う。未だに二人ともレベル1の

 ままだった。


  ナイトも戦士やウィザード等の他の基本職と比べ、レベルがあがり

 にくいそれはそうだ。基本職としては破格のステータスと性能だから。

 それ以上に勇者と女神はあがらん!


「今日はもう、遅いし戻りましょ。続きはまた明日って事で」

「うむ」


  低レベルの雑魚の経験値などレベル50の井岡にとって知れている。

 本当に、付き合わされているだけなのだ。さすがにちょっとだけ、

 申し訳ない気分になった。ここまでレベルが上がらないとは。


  Next経験値の数値が女神と勇者共々10000越えてる。ないわ!

 ほんと、ないわー!


  ドラ○エ程度の上がりにくさと思ってた!


  疲れ果てた俺達は、もはや食事を作るのも億劫だったので冒険者

 ギルドで夕食をとることにした。


「あれ、珍しいね。今セシリア様のお屋敷にいたんじゃないの?」

「もう、飯作る気力もなくてさ、セシリアと井岡が」

「レベル上げ行ってたんだ?」


「うん、俺とセシリアのNext経験値が10000以上残ってる・・・」

「嘘だろ?」

「嘘じゃねぇ、冒険者証みせてやる」


  そう言って俺の冒険者証をヒロミちゃんに見せる。


「うっわ・・・まじじゃん」

「知らなかったんだ。勇者のNext経験値が基本職の5000倍もあるなんて!」

「女神様も同等って事か・・・通りで誠がゲンナリしてるわけだ」


「そいつは、違う理由でだ」

「はえ?」

「ゴブリンは雌をまず狙う習性がある。だから散々追いかけ回されてな」


「ああ・・・そうだった、そうだった」

「逃げる井岡やセシリアを追っかけてゴブリンを倒すのもほんと大変だった」

「お気の毒様・・・ま、ゆっくりしていってよ」


「うん、酒でも飲んでないとやってられん」

「部長さんはとっくに飲んでるけど」

「・・・」


  飲みまくってぐでんぐでんになった部長を屋敷まで運ぶのは俺の役

 割だ。井岡じゃ小さすぎるし、セシリアは女神なのでそんな体力は無い。

 と言うか、セシリアも飲んでやがってふらふらだ。


  井岡が肩を貸して屋敷までなんとか二人を運び込む。お前ら良い身

 分だな! ちくしょうめぇ!


  部長を何とか部屋へと担ぎ込み寝かせる。既に大きないびきを掻い

 ていて気持ちよさそうに寝てやがる。


  俺はレベル上げで汚れた体を洗う為に装備を外し、着替えを持って

 浴場に向かう。するとなぜか、井岡とセシリアがすっぽんぽんでいた。

 まぁ・・・浴場だから脱ぐのは当たり前なんだが・・・。


「お前ら何やってんの・・・」

「いやー、セシリア様がお風呂はいるーって酔っ払っててさ」


  せっかくの美女と美少女のヌードにもため息しかでない。雰囲気も

 糞もあったもんじゃない。


「先輩もお風呂っすか?」

「うん、さっぱりしたい。それ面倒見とけよ」

「そんな! 俺一人に押しつけないで!」


「しょうがねぇだろ、男の俺がここで何かしたら後で問題にならぁ」


  酔っ払いセシリアの面倒は井岡に任せて俺は黙々と体を洗い始める。

 セシリアの裸体などもはやどうでもよかった。


  ゆっくり湯船に浸かっているとどうやらセシリアは正気を取り戻した

 らしく、俺の存在に気づいたようだ。


「あの、悟さん・・・いつから・・・いました?」

「お前が酔っ払って騒いでるのを横目でみてたよ。ほぼ最初から」

「みた?」


「いや、もうどうでもいいや」

「・・・何よそれ! 私の有り難いセクシーヌードに反応しないって

 ホモでしょ! きっとそうよホモなんだわ!」


「はぁ・・・おっさんになると、女の裸とか見慣れて反応しにくくなるの」

「枯れてるわね・・・」

「うるさい!」


「だからロリ幼女なのね」

「別にそう言う訳じゃ無いんだが・・・お前のそう言う姿見てるとさ

 今一盛り上がらないんだよ」

 

「ふ~ん・・・」


  もう、こいつはほっといて早く出よう。


「そんじゃお先に、どうやら酔いも覚めたみたいだし、浸かりすぎで

 のぼせるなよ」


  酔っ払って騒いでる女の裸とか見て勃つ訳ないじゃん・・・普通に

 萎えるわ・・・。ナニも気持ちも。こいつは何もかもを台無しにしよる。


  ベッドに横になって気持ちよく寝ていると、誰かが俺の部屋に入って

 きた。井岡か? さすがに今日は相手にするの億劫だな。


「ねぇ・・・起きてる?」

「ドアの音で目が覚めたっちゅーの」

「ねぇ、私のこともう欲しくないの?」


「要するにもよおしたから、相手して欲しいって事か?」

「もう! ・・・デリカシーなさ過ぎ!」

「用がないなら早く自分の部屋で寝ろ」


「つれないわね。せっかく寂しく寝てるだろうから添い寝してあげよう

 かなって、思ってきたのに」

「嘘だろ」


「・・・」


  セックスしたいのかしたくないのかどっちなんだこいつは!

 ああ、そうか。こいつ処女なんか。通りで面倒なわけだ。


「で、どうして欲しいの?」

「分かってる癖に・・・」


  俺は、敢えて無視することにした。背中からおっぱいを押しつけて

 来るのが分かったが、反応しないようにする。なぜならば、手を出し

 たら出したで面倒な事になりそうだったから!


  おじさんさ、こう言う素直じゃ無い女は懲りたよ!


                  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る