第14話 眷属候補1

【眷属候補1】


定時で自宅へと戻ると奈津がいた。

「お帰り、早かったわね。」


「あぁ、今日は定時で帰ってきたからね、ま、滅多にないんだけど、ちょうどプロジェクトも終わったとこだしね。」


「そっかぁ、まだ、ご飯できてないよ。あとご飯を炊いて焼くだけだから今からスイッチ入れて1時間後かな」

「あぁ、気にしないよ・・何時でもOKだよ」


 奈津は休みって言ってたけど休んだんじゃないかなぁ…まあ、気にしても仕方ないから聞くのはやめておこうって思った。

 

 「あっ、お風呂勝手に借りたよ」

 「うん、そんな事はどうでもいいけど、いくら説得に応じなかったからって絶交まではしなくてもいいんじゃないか?」

 

 「これは私と美恵子の長年の約束なの、これには久志君は関係ないから気にしないで…美恵子も十分覚悟のうえで相手を選んだんだと思うから、こうなるのはわかってて選んだんだから仕方ないの」

 

 「その約束って俺聞いてもいいかな?」

 「今はダメ、そのうちに話すかも・・」

 

 「意味深だなぁ…」

 「女は少しぐらい秘密があったほうが素敵でしょ」

 

 たあいのない話をした後、奈津はキッチンに立ってハンバーグを焼いている。

 「ねぇ、ソースは洋風と和風どっちがいい?」

 「うーーん、和風で…」

 

 「エヘッ、助かっちゃった。」

 「洋風でデミグラソースなんて言われたら大変だもん」

 

 「いや、特に考えたんじゃなく今食べたい方を選んだだけなんだけど・・・」

 「うふっ、それでもいいの」

 

 「さぁ、出来たわ、頂きましょう」

 「うん、旨そうだ・」

 「ちっ、ちっちぃ、旨そうじゃなく旨いの!」

 

 「さぁ、食べてみて・・」

 「うん、旨いよ、ハンバーグもやたら肉汁が多くなくて…肉自体の旨さがちゃんと出てる、ソースも照焼き風でおいしい。ちょっとジンジャーが利いてるのが特にいいね。」

 

 「エヘッ、よかった。」

 

 うん、お世辞抜きに奈津は料理が旨いんだなぁ、まあ、以前は良くきて美恵子と一緒に作ってたけど…美恵子は料理っていうよりはお菓子やケーキが得意だったけ・・・

 料理がうまいっていうのはポイントが高いよね。

 

 「奈津ちゃんこんなところでおっさんと飯食ってて大丈夫か?」

 「ん、どういう意味?」

 

 「いや、彼氏が怒りまくって怒鳴り込んでくるなんて修羅場は嫌だなぁ~なんて思ったりして・・」

 「あぁ、そっちかぁ、それは大丈夫、だってあたし彼氏いないもん」

 「えっ、嘘だーい、えっほんとにホントなの?」

 「美人だし料理上手だし、男嫌い?」

 

 「そんなわけじゃないけど、飲みに行く男友達もいないわ、前は誘われることもあったけど最近はないわ…勘違いした爺さんが玉に寄ってくるだけ・・」

 

 「ねぇ、私ここに居候させてくれない?」

 「うん、いいよ、えっ、えーーーっ」


 「わ、本当にいいのありがとう・・」

 「ちょっ、ちょっと待ったーーっ」

 「嫁がいるなら別だけど、さすがに男一人暮らしに同居はまずいだろう」


 「どうしてぇーっ、いいじゃない」

 「いや、もし間違いでも起きたら…どうするよ」

 「あら、そんな度胸があるなら歓迎するわ…」

 

 「うーん、時々、君がわからなくなるよ。」

 「どうしてここに住もうとおもうの?」


 「そりゃ、職場まで電車一本で20分以内に行けるじゃない。でも、一番の理由は一緒に住んでみたいから・・・」

 「それでどうにかなるのならそれでいいし、どうもならなくてもいいと思うの、だから一緒に住んでみたいのだめ?」

 

 「うーん、嫁の親友をってのはまずくないかぁ…」

 「それはもう、大丈夫、親友は解消したし、もう、離婚は成立してるんでしょ、だったら問題ないわ」

 

 「そっかぁ、うん、いいよ。俺、これから家を空ける事が多くなると思うから住んでくれる人がいると安心できるしね。」


 「えっ、どういうこと転勤でもするの?、いや、しない、それどころか会社を辞めるかもしれないんだ…もう、別に扶養家族もいないしね。」

 俺が会社を辞めるかもって言ったのには相当、驚いたみたいだ・・

 もしかしたら離婚のショックとか勘違いしてないかなぁ‥

 

 「会社を辞めてどうするの?」

 「実は今はほかにも仕事してるんだ、ある人に仕えてる、今は週末だけだけどね。扶養家族がいないならそっちに本腰を入れられると思ってさ」

 

 「びっくりしたわ、離婚のショックで会社を辞めてひきこもるのかと思ったわよ。つまり、報酬よりもやりがいがある仕事をするって事ね」

 「うん、大体あってるよ、違うところは報酬だって今よりずっと稼げるチャンスがあるって事、ある人に仕えながら人脈を作っていき最初は貿易から初めていろんな方面に行こうと思ってる」

 

 「いつ頃辞めるつもりなの?、家には帰ってこないの?」

 「早ければ1,2か月後には辞めるし遅くても半年後には辞めてると思う。ちなみに来年には最年少で部長昇進の内示をもらってたりするけどね」

 

 「それでもやめるんだ・・」

 「あぁ、きっぱりと悔いはないよ、もう、頑張ったし今の会社ではこれ以上、俺は伸ばせないしね。」

 

 「ねぇ、その仕事しだしたら家には帰ってこないの?」

 「いや、割と頻繁に帰ってくると思う、ただ、長い間、滞在しないっていうか、基本的には仕入れの為って事かな」

 

 「貿易って言ってたし、海外なのね、どこの国?」

 「それは秘密だよ」


 「危険な国なんでしょ?」

 「ま、多少はね、リスクは覚悟の上だよ、もう何度も言ってるしね。」

 

 「お願い、せめてどこの国かぐらい教えて・・・」

 「ダメ、奈津だって俺に言えない秘密があるじゃないかそれとおんなじだよ」

 

 はぁ、これで納得してくれるといいんだが…ちょっと困ったなぁ‥

 

 「いいわ、話すから聞いて…だから久志の事もきちんと教えてほしいの、ちゃんと向き合って欲しいのおねがい・・」

 「・・・・・」

 そっかぁ、俺は美恵子とはちゃんと向き合ってなかったのかも知れないなぁ‥何度も同じ失敗を繰り返しても前には進めないしね。」

 「わかった。聞くよ」

 

 「大学時代、あなたの事を先に好きになったのは私なの?、そして美恵子もあなたを好きなった。お互いが同じ人を好きになったとわかってショックだったわ、過程ははぶくけど美恵子が告白することになったの、そしてダメだったら私の番だった、どう転んでも祝福する事を約束したわ。そしてあなた達が結婚する時に約束したの、幸せになるって・・・そして自分は絶対に浮気はしないって、そしてあなたが浮気しても1度目は許してあげるって・・・」

 「昨日の事も贖罪なんかじゃないわ、私の本当の気持ちよ」

 

 「さ、話したわよ。あなたも話して・・」

 「あ、わかったよ」

 

 こりゃ、驚いた。開いた口がふさがらないっていうのはこの事だな。正直彼女は嫌いじゃないけど、受け止める自信もないけど、話さない訳には行かないだろう。

 

 「まず、ただ、話しただけでは信じてもらえないだろうからひとつづつ事実を見せていくよ。今から見るのを驚くなというのは無理だと思うからせめて叫び声をあげるのをやめてほしいから口に布を詰めてほしい」

 

 「一体、何をさせるのかするのかわからないけど、ともかくこれでいい?」

 奈津は口にハンドタオルを詰めた。

 「行くよ…」


 俺はフェンリルに形態を変えた。

 「んーーっ」

 「そう、驚かないでくれこれも僕なんだ…」

 「ブハッ、ど、どういうこと・・久志が狼に?、狼がしゃべってる」

 俺は人型に戻った。

 「もしかして久志の正体は狼男なの?」

 「ちょっと違う、俺はいろんな動物や魔物の形態に変化する事が出来るんだ、出来るようになったのは実は最近の事でね、あるきっかけがあってそうなったんだ、ちなみに今のはフェンリルと言ってこの世界では空想の動物となってるね。」

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