サッカー少年が吹奏楽部に入ったら2

夏目碧央

第1話再編成


 移ろいゆく季節に、人の心も変わってゆく。


 凌駕高校の文化祭が終わって、1カ月が経った。

 渡辺和馬は私立の男子校、稜賀高校の1年生で、入学と同時に吹奏楽部に入部した。2年生が2人、1年生が8人の少人数な部で、ほとんどが高校から吹奏楽を始めた初心者ながら、体育会系の乗りで毎日必死に練習し、9月の文化祭では難しい曲を立派に演奏したのだった。1年生の8人中、元々吹奏楽部でパーカッションをやっていた角谷正樹を覗く7人は、それぞれ中学ではサッカーをやっていて、6月には野球部と揉めてサッカーで勝負をした経緯がある。詳細は「サッカー少年が吹奏楽部に入ったら」を参照願いたい。

 その、1年生8人は仲良くやってはいたのだが、バドミントン部や水泳部などと掛け持ちしていた部員が4人いて、これからはそちらに専念したいからと、文化祭を機に吹奏楽部をやめてしまった。なので、残ったのはクラリネットの佐々木誠、フルートの朴賢秀(パクヒョンス)、パーカッションの角谷正樹、トランペットの渡辺和馬。そして2年生は部長でトランペットの遠野彰、ホルンの林田真人の合計6人になっていた。


 夏が過ぎ、暑さも和らいできた10月下旬。次の演奏に向けて準備が着々と進められていた。1月にある第二支部定期演奏会に出演するため、指揮の桜田先生から「喜歌劇‘メリー・ウィドウ’セレクション」をやろうと言われて、自分のパートの楽譜を受け取った。壮大な曲であるが、もちろんこのメンバーでできるように編集してある。それでもけっこうな分量の楽譜だった。

「先生、俺、トロンボーン、やりましょうか?」

和馬は、桜田先生と、顧問でユーホニウム担当の沢口ゆずる先生に申し出た。

「え?本当?それは助かるわね。楽器が足りないものね。」

桜田先生はそう言った。

「でも、今からで間に合うかな。」

沢口先生は腕を組んで考え込んだ。

「トランペットが2人じゃ、バランスが悪いじゃないですか。トランペットは遠野先輩がいれば十分だし。」

和馬は言った。

「じゃあ、とりあえず両方練習してみよう。トロンボーンは僕が教えるから。」

沢口先生はそう言った。


 トロンボーンは、音程を取るのが難しいけれど、トランペットよりもきつくなかった。きついというのは、疲れるという意味である。毎日、トロンボーンを練習した。そして、11月の初めには、和馬はトロンボーンということに決まった。

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