第14話 尾行
アイスミントティーの女たちが終わるまでの間、俺もアイスミントティーを何度かお代わりして時間を稼ぎ、後をつけることにした。
5人は、café SunFlowerを出ると、和気藹々として並んで歩いていた。父 母 娘の家族と、母と息子の2家族の構成、娘の両親と息子の母親が並んで歩き、その後ろに子供達が話しながら並んで歩いている。
息子の方は年頃なのか、ポケットに手を突っ込み不貞腐れた顔を作ってはいるが、積極的に話しかける娘と話していて、決して嫌そうではない。母親の前で格好つけているだけなのだろう。同級生や幼馴染とその親たち、といったところだろうか。
動画ではトラックの運転席から降りてきたように写っていた。ということはあのトラックをこの女が運転していたことになるのか、たまたま運転席側から移動したところが写り込んだのか。
女はスマホを取り出して、話し始めた。どうやら電話がかかってきたようだ。大袈裟な身振り手振りや、笑っている仕草、どこを取っても学生くらいの年頃にしか見えなくて、あの男の子の母親だと信じられないし、トラックで突っ込んだというビジョンが繋がらない。
確信めいた気がしたが、ただ動画に写り込んだ服装と、今日着ているワンピースの色が似ていただけで、この女と動画の女は別人なのかもしれない。この和気藹々としたムードに自信をなくしていく。
もう1度、動画を確認してみる。薄い緑色のワンピースの女、スキンヘッドと思われる男、松葉杖らしき物をもっている女もしくは長髪の男、あとは画像が鮮明ではなく、写っている人数は10人ほど。
スマホから顔を上げると、やはり和気藹々ムード。ふと気がつくと、娘の方の母親がやや足を引きずって歩いているように見えたが、この松葉杖らしき物をもっている女として見ようと頭の中でこじつけているだけに過ぎない。
動画に目を移す。何度も見るうちに、自信だけが喪失し、もうどうでもよいとさえ思い始めた。そもそもこの動画がCGかなにかで合成された物だったりしたら、写っている女がこの女かどうかなんて、突き止めようもない。
突っ込んだ瞬間は写っていないのだ。
突っ込んだトラックを見つけて、そのトラックを使って悪ふざけでカチコミ風に芝居して動画を撮っただけなのかもしれないじゃないか。何のために?そんなことはどうだっていい。SNSに動画を載せる連中に、載せる意味なんて聞いても、面白いから、程度の答えしか返ってこないだろう。
「なにか、ご用ですか?」
不意に声をかけられ、スマホから顔を上げると、薄い緑色のワンピースの女が目の前にいた。
「さっき、景子ちゃんの店にいましたよね」
俺は慌てて、スマホの電源を消した。この和気藹々ムードに気が抜け、注意を怠っていた。
普通の人間なら、尾行は気づかない。尾行されるようなことをしていなければ、気づく可能性は低い。仮に一般の人が、後ろをつけられてると感じても、こんな風に堂々と話しかけてこないだろう。これはかなりマズイ展開なのかもしれない。
「今の電話、景子ちゃんなの。さっきの常連さんが後つけてるよって」
しまった。藤原景子も仲間だったのか。
「アイスミントティーの入れ方、教えて欲しいの?」
これは本気で勘違いしているのか。それとも俺を試しているのか。5人が俺のことを見ている。
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