第12話 エリーゼ
ケーンケーングルルル
ざわざわざわ
聞きなれない鳥や獣の鳴き声、森のざわめきで目を覚ました。
エリーはまだ眠っている。呑気な寝顔だ。
布団から体を起こしリビングに行くと既にドラグニルが朝食を食べていた。
「お早う。おかげさまでよく眠れたよ。」
「お早うさん。とりあえずコーヒーでも飲むかい?」
「ありがたく頂こう。」
ドラグニルは台所でコーヒーを淹れながら口を開いた。
「一応忠告をしておくが、今は魔王交代の知らせを受け、どの国も再び独立に向けて密かに動き出しておる。旅するには危険なご時世だと思うぞ。」
「そんな事になっているのか。魔王交代の知らせが出たのはいつだ?」
「ほんの半年前じゃよ。突然サタンは居なくなり、片腕だったベルゼがその後を継いだとな。噂ではもっと前からサタンは失踪していたって話だがな。」
(成る程な。俺が居なくなってしっかり体制を整えてから支配下の国々に知らせを出したってとこか。結構時間が掛かったようだな……あいつには苦労をかけてしまったな。)
「そういえば、魔王軍が人間達の領土へ最後の侵攻をすると言う話も聞いたぞ。内乱が起きそうならそれどころでは無いはずだが。」
「あぁ、その為に魔王は支配下の国々に派兵を呼びかけておるようじゃ。これを機にまた一つにしっかり纏まろうと。じゃが、どの国も王国の支配下に入ったと言うよりは、サタンの支配下に入ったと言う気持ちが強い。そう簡単にはいかんだろう。国々の詳しい動向までは知らんがな。」
(成る程な、それでベルゼは俺の力を欲した訳か。)
「だがベルゼの事だ、何か策をめぐらし必ず解決するだろうな。」
「あぁ、あの男は頭がキレそうじゃ。単純だった前魔王のサタンよりある意味危険な男じゃよ。」
(た、単純て……。)
「サ、サタンも色々と凄い男だったがな。」
一応自分で自分をフォローしておく。
「当たり前じゃよ。あの男のカリスマ性無くして魔界統一はありえんかったよ。それよりお前さん達は何故旅をしておる?」
目的を言うか迷ったが、この老人なら素直に話しても大丈夫だろうと思った。
「……じぃさんの孫と一緒だよ。魔族と人間の共存する平和な世の中を実現する為さ。」
「……正気か?」
老人は眉を潜めマルコを見つめる。
「確かに儂は昨日出来たら素晴らしいとは言ったが、出来るわけ無かろう。それにどうやって実現するつもりじゃ。」
「とりあえずこれから魔王城へ出向き、ベルゼと話をしてみるさ。」
「それこそ無謀じゃ!魔王城がどんな所か知っとるのか!?それに魔王を説得する事が出来たとしてその後どうする?」
ちょうどその時エリーが階段を降りてきた。
「ドラグじぃちゃん。無謀なのは分かってるよ。でも何もしないよりは何かしたいんだ。何より勇者としてこの世界を平和にしたい。」
「ばっ!馬鹿!」
「勇者?何を言っておる?」
エリーは黙って角を外した。
「なんと……人間じゃったか!それも勇者だと?」
「騙してたみたいでごめんね。でもなんかドラグじぃちゃんには隠し事しない方がいいと思って。」
「まったく、後でお前には説教してやる。だがまぁ、バレちまったら仕方無い。じぃさん、そう言うわけだ。勇者がいれば何とかなる気がするだろ?」
「成る程なぁ。なんか只者では無い気がしておったが。なんか納得じゃ。」
ドラグニルは意外にもすんなりと事実を受け入れた。
「で、これからここを出たら何処へ行くつもりじゃ?」
「その事なんだが、ここの場所がイマイチよく分かって無いんだ。地図は無いか?」
「地図も持たずに旅をしておったのか!?それで良く世界平和だの言えたもんじゃの。ちょっと待っとれ。」
老人は呆れながら古びた机の引き出しを開け、大きな地図を取り出して机に広げた。
「うわぁ!全世界地図なんて私初めて見たよ!」
「お前王族だろう……こんな物も見たことないのか?それでこっちの大陸に乗り込んでくるとは良い度胸をしているな。」
「うるさいなぁ〜そういう頭使う事は姉ちゃんとかバルドス担当だったの〜。」
「バルドス?誰だそれは?」
「話した事無かったっけ?バルドスはね〜……。」
「そんな事より今は儂の話を聞かんか!」
思わず脱線してしまった2人を叱りつけるようにドラグニルは声を上げた。
「す、すまん。」
「まったく。」
この世界では、円をちょうど真ん中で半分に割ったように分かれた2つの大陸が存在する。
その境目を中心に東が人間が住む大陸、西が魔族の住む大陸と綺麗に分かれていた。現在は魔族の侵攻により東大陸も4分の3は魔王の支配する土地となってしまってはいるが。
「この西南の海沿いにドデカく構えてる山に囲まれた場所がお前さんらの村じゃ。そして儂の家はそこから真っ直ぐ北へ」
「ふむ。魔王城は大陸の中心部だからな。とりあえず直線距離で目指すか。いくつか国も通るし大丈夫だろう。」
「どのくらいかかりそう?」
「歩きだと1年はかかるな。」
「そんなに!?間に合うの!?」
「途中で何とか乗り物を手に入れなくてはな。」
「なんなら儂の育てているドラゴンを1匹連れて行くといい。2人くらい乗れるじゃろう。」
「いいのか!?」
「あぁ。お前さんらなら何か起こせそうな気がするんじゃよ。何か手伝わせておくれ。」
「ありがとう!ドラグじぃちゃん大好き!」
「ほっほっ。さて、こっちへ来なさい。」
3人は家の外に出て裏に回ると、青い鱗に覆われた丁度2人ならそうな大きさのドラゴンが5匹繋がれていた。
「好きなのに乗って行くがよい。」
「カッコいいー!!」
「確かに立派なドラゴンだ。さて、どいつにするか。」
「ねぇマルコ!この子にしようよ!額に星型のマークがあって可愛いよ!」
エリーは額に星型の傷が付いたドラゴンの首に抱きついていた。ドラゴンも嬉しそうに顔をエリーに擦り付けている。
「この子を選んだか。名をエリーゼと言う。ある時森で頭から血を流して倒れておってな。おそらく誰かに撃墜されたんだろうなぁ。それ以来儂が治療して飼っておるんじゃ。」
ドラグニルはエリーゼの頭を撫でながら説明した。エリーゼも嬉しそうにクゥンと一声鳴く。
「エリーゼって言うのね!私と一文字違い!仲良くなれそうね。よろしくねエリーゼ!」
「エリーちゃんに懐いておるようじゃし良いじゃろう。マルコ、お前さんもこの子で良いな?」
「まぁ飛べればなんでも良い。よろしくなエリーゼ。」
「ところでドラゴンの乗り方は分かるかの?」
「あぁ、俺は何度も乗っている。大丈夫だろう。」
魔王時代乗り物としてドラゴンを使用していた為乗り方は心得ていた。もっとも、エリーゼよりも2回りも大きなドラゴンだったが。
「なら心配は無いな。エリーゼの準備をしておくから、旅の用意をして来なさい。」
「はーい!」
「よろしく頼む。」
ドラゴンの準備を任せ家に戻ることにした。
「ドラグじぃちゃんて良い人だね〜勇者ってバラしても嫌な顔一つしなかったし。」
「そう!それだ!貴様何故いきなり正体をバラしたりしたんだ!」
「そんな怒らなくたって良いじゃん……大丈夫だったんだから。」
「いや、今回はたまたま大丈夫だっただけだ!何があるかわからんのだ、これからは一層気をつけてだな……。」
「分かったってば!荷物持った?じぃちゃん待ってんだから早く行くよー。」
エリーはマルコの説教を途中で遮り逃げるように外へ出て行った。
「まっ待て!ったく仕方がない奴だ。自分の立場を分かっているのか。人間、しかも勇者なんてほぼ全魔族から忌み嫌われている存在なのだぞ。」
ボヤいていると外からドラグニルとエリーの声が聞こえて来た。
「マルコ!何をしておる!早よせんか!」
「置いてっちゃうよー!」
「うるさい!すぐ行くから少し待っていろ!」
マルコは急いで荷物を手にして外へ駆け出した。
2人はエリーゼに跨った。マルコはしっかりと手綱を握り、エリーはマルコの腰をがっちり掴む。
「さて、そろそろ別れの時間かの。」
「あぁ、世話になった。」
「また会いに来るね〜!」
「おう、またいつでも来なさい。待っているよ。」
マルコが手綱を引きエリーゼに声を掛けると立ち上がり翼を羽ばたき飛び始めた。
「ドラグじぃちゃんじゃあねー!!」
エリーはドラグニルの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
「しっかり両手で掴まってろ。落ちても知らんぞ。」
「うるさいなー。そんなマヌケなことしないよー。」
「勇者と元魔王のコンビか。どうなることやら。」
賑やかな旅人が旅立った後、老人は一人つぶやいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます