第18話 氷の闇
アスカの身体の痛みも引かないうちに、ジェイド率いる中央の騎士団は人魚の村、北の山を旅立った。
幸い、ジェイドが言っていた新たな化け物が出たという報告はなかったようだが、いつ現れるか分からない。
出発の前に、アスカはジェイドの目を盗んでレオンに話しかけた。
「レオン、ボクはジェイドさんについて行かなければならないんだ・・・レオンをこのまま置いていくのはとても心配だけど、きっと大丈夫だよ・・・。だってレオンは、この世界を救う勇者なんだから。」
レオンは声が出せるのならアスカに言いたかった。(逃げろ!ほかのことは何も考えず、自分のために逃げろ!)と。
しかしアスカは家族のために、レオンのために、自分だけ逃げることはしないだろう。
「もしかして、もう会えないかもしれないから・・・」
アスカは、レオンの氷に刺さっている煉獄の剣の刃で右手中指の付け根を深く切った。
指輪のような傷口からは赤い血がしたたり落ちる。
「いつでも忘れないよ、レオン。この傷を見るたびに、君の無事を祈ってる。」
(アスカ!必ず助ける!だから・・・生きていてくれ!)
レオンの心の叫びは通じたのか、アスカは美しい微笑みを見せた。
この上もなく、哀しく美しい微笑みを。
*****
アスカたちは中央の国へ進むにあたり、防寒の装備を整えた。
アスカは狼の毛皮を与えられた。比較的暖かい人魚の村では毛皮は使わないので少し戸惑う。
アスカにとって、山から北は初めての地になる。見るものすべてが目新しくて嬉しかったが、ジェイドはアスカを貨物用の窓がない馬車に乗せたので、進んでいる間は外が見えずとても残念だった。
ジェイドは時折、気まぐれにその馬車に乗り込んできて、アスカの身体を弄んだ。
馬車の護衛はあの、首に十字の傷をつけられた若い騎士で、アスカに抵抗させないように人質として見せつけているようだった。
痛みを我慢することは耐えられたアスカだったが、回数を重ねるにつれて、ジェイドとの行為に快感を感じるようになってきたのは恐ろしかった。
(こんなこと・・・嫌なのに・・・どうして・・・)
絶頂を向かえる度に激しい自己嫌悪に襲われる。乳房は張り、下腹部は締まり、ジェイドを迎え入れるのを待っているかのような変化をしている。
少年だった時、レオンと旅に出ることを夢見ていたことが、どんどん遠くなるような気がして悲しかった。
(ボクはこのまま・・・ジェイドに抱かれるだけの人生なの・・・?)
暗い馬車の中でそう考えると、闇に飲み込まれるような気分になる。
(ダメだ・・・ダメだ・・・このままでは終わらない・・・!いつか少しでもレオンの役に立つために、
何か方法を考えるんだ・・・!)
アスカは必死で自分を保とうとしていた。
レオンが氷に閉じ込められてから3日目の夜、氷は薄くなり、レオンの身体の重さで割れた。
バサッ
地面に倒れ落ちるレオン。
倒れる位置に、アスカが布を重ねていたので衝撃は少なかった。
呼吸は出来ていたとはいえ、飲まず食わずで体を凍らされていたのでレオンは酷く衰弱している。
しばらくは動けずにいたが、布の上に滲んでいるアスカの血痕を見て奮い立った。
それは指の傷から出た血か・・・それとも・・・。
「くっそ・・・アスカ・・・!!」
冷え切った煉獄の剣を支えにして歩き出すレオン。
アスカを追いかけるべきか、村へ帰るべきか、朦朧としながらも悩んだ。
ズルッ、ズルッ
まだほとんど動かない足は、無意識にアスカを追いかけている。
騎士団の馬の足跡をなぞるように歩いていく。
なぜか思い出すのは、小さなころのアスカで、母親を亡くしたばかりの時まだ3つだったのに、涙をこらえて歯を食いしばっていた。
レオンは何とか元気づけてやりたいと思うのだが、良い言葉が全く浮かばなくて、ただ横にちょこんと座っている。
長い長い間2人は体をくっつけて座っていて、くっついている所から2人の鼓動が合わさった気がした。
不思議な感覚だった。
(オレはあの頃から多分ずっとアスカを・・・)
レオンは力尽き、アスカへ向かう森の中で倒れてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます