第6話 青のジェイド
アスカは家を飛び出した後、行く当てもなく村の中を歩いていた。
小さい村に死人を多く出したせいで、全体的に雰囲気がどんよりとしている。
雨が降りだしそうな空も、そんな風景を演出していた。
湿り気のある空気が、優しく体を包む。
(本当の母さんが生きていてくれたら・・・)
3歳の時に死に別れてから、なるべく考えないようにしてきたことだったが、こんな日はつい考えてしまう。
アスカによく似た美しい女性だったが、性格は破天荒だったよ、と、いつだったか酒に酔った父が言った。
彼女の周りはいつも笑いが絶えなかったんだ、とも。
大人しいアスカの性格は誰に似たのか分からなかったが、優しい心は両親から譲られたものだろう。
足は自然と親友レオンの家の近くに向かっていた。
村長の家が見えた時、「いけない・・・!レオンは今、中央の騎士団を迎え入れるのに忙しいんだ!ボクが邪魔しちゃダメだ。」と思い、方向を変えようとした。
すると背後からいきなり腕を掴まれる。
「あっ・・・」
振り向くと、青い騎士の服を着ている男が怖い顔をして立っていた。
「あの、何か御用ですか・・・?腕をはなしてください!」
「お前は誰だ・・・!」
アスカは男の睨みつけるような、憎しみのこもる瞳に震えあがる。
「あ・・・アスカと申します・・・」
アスカは、この男は中央から来た騎士団だと確信していたのでなるべく怒らせないように返事をした。
「アスカ・・・!」
男は、腕を掴んだまま顔をグッと近づける。
「お前は、男か女か?!」
「ま・・・まだどちらでもありません・・・!!」
男は余った片手でアスカの下腹部を触った。
「!!や、やめてください!!」
アスカは体をねじって逃げようとするが、掴まれた腕がビクともしない。
男はアスカのズボンに手を入れ、どちらでもない性器を直接確かめ始めた。
「いやだ!やめて!」
「ジェイドさん!!」
レオンの声。
「レオン!」
レオンはアスカをジェイドからに引きはがして、かばうように間に入った。
「この者は、私の友人です。なにか、失礼なことをしてしまったのでしょうか?!」
つとめて冷静を装っているが、レオンの瞳には怒りが籠っている。
「いや・・・べつに。」
ジェイドはアスカに見せつけるように、ぺろりと指を舐めた。
アスカの身体がその指の感触を思い出してビクッと震える。
「では、この者は放免ください。ジェイド様、父が待っております。屋敷にお入りください・・・。」
ジェイドは村長の屋敷に行く途中だった。部下に伝言があると、少し横道にそれた帰りだったのである。
「おまえ・・・アスカか。いつ性別を決めるんだ?」
「あと・・・、10日で13歳になります。ボクは男になるつもりです・・・」
「ジェイド様、どうしてそんなことをお聞きになるのですか?!」
レオンは珍しく、ひどく怒っているように見えた。
アスカは、中央の騎士団の人間に失礼があっては、村を助けてくれなくなるのではないかと思って心配になる。
「ジェイド様、大変失礼いたしました。ボクは家に帰ります・・・。レオン、じゃあまた・・・。」
急ぎ足でその場を離れるアスカ。
ジェイドは冷たい瞳でその後ろ姿を眺めている。
レオンは嫌な予感がして、急いでジェイドを屋敷に連れて行った。
アスカは家にも帰れず、その後も村の周辺をさまよっていた。
すっかり暗くなると同時に生ぬるい風が吹き、小雨が降り始める。
急いで前方にあった大きな木の下で雨宿りをする。
「あ・・・」
その木が、”人魚の木”であることに気付いたのは雨が激しくなってからだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます