第4話  継母の思惑

アスカの父親の容態は決して良くなかったが、人魚の村の中では生きているだけまだマシだった。


100人いた大半の漁師たちは死に、残っているのはわずか15人。その15人も、5体満足な者は誰一人いなかった。


アスカは継母にお金がないと毎日文句を言われながらも、父親の看病をほとんど寝ないでがんばっていた。


血のつながらない双子の兄たちは、船の補修と今後の対策に奔走していてほとんど家に帰らない。


村中が悲しみと不安に覆われている状態だった。



アスカが親友レオンに会えたのは、船が村に帰ってから10日後のことだった。


「お見舞いが遅くなってごめんねアスカ。今回のことで、父さんを手伝っていて、なかなか来られなかったんだ・・・。」


「ううん、良いんだよ、おじさんは村長さんだもの、眠る間もないぐらいお忙しかったでしょう?レオンも大変だったね・・・。来てくれて、本当にありがとう。」


アスカは少し顔色が悪く痩せてしまったが、天使のような可愛い顔でレオンに微笑んだ。


「これ、良かったら食べて。アスカも・・・元気出さないと。」


レオンはいくらかの食料をアスカに渡した。今、この村では食料は不足し、手に入りにくい貴重品になっている。


「ありがとう…レオン。本当は大切な食糧を頂くべきではないんだろうけど、父さんに食べさせてあげれば、少しでも・・・」

アスカは思わず涙ぐむ。


レオンはたまらずアスカを抱きしめた。

小さくて壊れそうな美しい親友を。


「オレに言えよ・・・!困ったことがあったら、オレを頼れ・・・!!」

「レオン・・・」


(優しくいレオン・・・でも、あのことは言えない・・・)


アスカは、継母に13歳の誕生日に、”女”になれと言われているのだ。お金のために。


父親や村の状況を考えると、確かにその方法しかないかもしれないが、どうしてもレオンと”男同士で旅に出る”夢をあきらめきれないアスカだった。


「ありがとう、レオン。ボクなら大丈夫だよ。レオンは、おじさんとおばさんをしっかり助けてあげてね・・・。」


「アスカ・・・。ああ、そうだ!今回の事件を中央の王都に連絡したんだ。助けと調査が必要だからね。数日内には王の騎士団が来てくれるそうだ。食料や物資の援助も頼んでおいたから、この村は助かるかもしれない。」


「ほんと・・・?!良かった・・・」

アスカは心の底からホッとした。村が豊かになれば、継母から”女”になれと言われなくなるかもしれない。

そうすれば、レオンといつか旅に出られる。



しかしレオンが家に帰っていき、もらった食べ物を継母に渡して少しご機嫌になったものの、相変わらずアスカにこう言うのだった。


「あと20日で13歳になるね・・・。いいかい、必ず女の白い実を食べるんだよ。いま中央のつてを探しているんだ。お前をなるべく高く買ってもらえるようにね・・・。」


「母さん、お願い、ボク一生懸命働くから女になれなんて言わないで・・・。ボクは男として生きていきたいんだ・・!」


しかし継母は首を縦に振ろうとしない。

アスカを金持ちの歪んだ趣向の奴隷として売り飛ばせば、大金が一度に舞い込むだけではなく、前妻の面影を色濃く残す美しい顔の子供ともう一緒に暮らさなくて済むし、アスカが男たちにひどい目にあわされることを想像できていい気味だと思えるのだ。


(夫はもうすぐ死んでしまうだろうから、私はお金をもって双子の息子とゆっくり暮らすわ・・・。)

と考えていた。




そしてあと10日でアスカの誕生日という日。

中央から騎士団が人魚の村にやって来た。


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