第7話 浄化系スキル。
休憩を終えて来た道を辿って広場まで戻って来た僕らは、みんなを集めて今回の探索で得た情報を共有した。
川や食べ物の発見を聞いたクラスメイトは思った以上に喜んでくれた。
それに剛ノ内が水を飲んでからすでに1時間は経過しており、体に影響は出ていないらしい。まぁ一応ペットボトルに入れて来た水を調理師か薬師の人に見てもらって確認するけど。
「じゃぁここで多数決を取りたいんだけど、川の近くへ移動するか、それとも拠点はここにして水を取りに行くか」
「川の周辺はどうだった? 住めそう?」
室木の質問に素早く反応した久礼野さんが質問を投げかける。
「あぁ、住めそうではあったがこの人数は少し多いかもしれん。それに森の中だから変な虫も湧くしな」
腕を組みながら淡々と答えた剛ノ内に対し、それを聞いた生徒で特に女子が短く悲鳴を漏らす。
「ちょ、ちょっと虫なんて無理だよ!」
「お、俺もちょっときついかな」
僕も虫は苦手ってわけではないけど、毒とか持ってそうだし今はまだ遠慮したい。
それに確か阿澄はかなりの虫嫌いだ。
「虫ですか、虫くらい無視しとけばいいのです」
今横で済ました表情をしてるが、目元がピクピクしてる。
もしかして今ボケたのかな?
まぁつっこまないけど。
「う、うちも虫は苦手やわぁ」
「なんだ? 土御門は虫が苦手なのか」
「そりゃぁ、女の子ですからねぇ」
両腕をさすりながら控えめに遠慮する土御門さんに、隣にいた表堂先生が手をわしゃわしゃと動かしてちょっかいをかけ始めた。
何やってるんだ教師よ。
まぁ流石にこれだけ反対があって押し通せるわけもなく、虫は平気な男子でもここで変に女子の顰蹙を買いたくなかったのか、大人しくここをキャンプ地とすることにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
その後は戦闘職の人がローテーションで水や食料の確保へ向かった。
職業がわかった後思ったんだけど意外と戦闘職のの人が少なかった。
多分10人もいないと思う。
そうは言っても戦闘職じゃなくてもスキルや魔法はみんな持ってるから、やる気になれば戦いくらいはできる様になると思うけど。
あの後僕は阿澄と共に夜まで式神作成や他の出来そうなことなどの検証で時間を費やした。
「おぉー、美味しそう」
「これ本当に食べて大丈夫なの?」
「まぁ見た目的には行けそうじゃない?」
「不思議な木の実だね」
そして夜になると、大きめの葉っぱの上に均等に切られた果物類が夕食に出て来た。
「まぁこんなもんか」
男子生徒の1人が木製の包丁を片手に果物を切って配っていった。
少しガタイの良い体に茶色に染められた髪の少し不良感がある男、三橋だ。
確かよく郡城と一緒にいるのをよく見るが、意外にも家が料亭らしく小さい頃から料理は得意らしい。
偏見だけど不良2人揃って女子力高いな。
飼育師に調理師って。
そして三橋の持った木の包丁の様な物は、土木師を持った男子生徒と整形師を持った男子生徒が協力して作ったそうだ。
まぁなんとも慣れたものだ。
「ん、美味しい」
「兄さん、なんだか変な感じがしまふ」
「口に入れたまま喋らないの」
「んっ、でも美味しい」
口にイチゴの様な見た目の果物を含んで目を見開く阿澄。
確かにイチゴの見た目をしている割りに、さっぱりしたメロンの様な味がする。
「メロン?」
「いや、これは夕張メロンだ」
「先生食べたことがあるんですか?」
「ないけど」
先生が美味しそうに食べているためもしかしてこれが夕張かと思ったが違うらしい。
ちょっと残念だ。
果物だから今まで乾いていた喉が気持ちよく潤って行く。
水分多めであるためわざわざ少ない水を配る必要もなく、それにお腹を満たすことができた。
出来ればもうすこしお肉とか食べたって思うけど、文句は言えない。
女の子は果物で満足そうにしている子が多いが、一方で男子生徒は食べ終わってもまだ物欲しげに何も無い葉っぱの上を見つめていた。
暗く沈んだテンションが食を獲得したことですこしは明るい夕食なり、僕も飢えの心配が消えて安堵する。
そうして夜が更けていった。
今日の夜は前日の失敗を糧に男子生徒がローテーションを組んで火の番をすることになったが、まぁ僕の担当は明日なので大人しく寝ることにする。
昨日と同様に見上げる空は、同じように綺麗に光っていた。
僕は異世界に飛ばされて2日目の夜を終えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「あっつ!」
3日目の朝、僕はムワッとした熱気に思わず飛び起きる。
「なんだよ、この暑さ」
飛び起きた勢いで思わず声が出てしまったが、まだ起きている生徒は誰もいなかった。
そう火の番もだ。
担当の生徒は2人して頭をコクリコクリとさせながら眠りこけている。
すでに火は消えているが、ちゃんと見ててほしいものだ。
僕は朝の目覚めを不快にした犯人を探すように辺りを見渡すと、誰もいない。
『にゃぁ』
「にゃぁ?って、なんだ式神か」
声がすこし下から聞こえて来たので視線を向けると、5、6匹の金色の毛並みをした猫がいた。
どうやら戻って来てしまったらしい。
飛ばされる意思によるとこの島の回れる部分は全て式神たちが配置されており、余った自分たちは戻って来たと。
どうやらこの島は思ったより大きくなかった。疲れを知らない式神に走らせていたとは言え、2日で島の先まで到達している。
数匹はすでに水辺て待機していると、意思が飛んでくる。
多分大きさにして半径10kmも無いくらいかな?
まぁそれでも無人島にしては大きいけど、住むにしては小さい方だ。
僕は戻ってきた猫の額に触れて式神を作るときに吹き込んだエネルギー、多分言葉にすると霊力とか神力、を抜き取るようにすっと撫でる。
撫でた途端に空気に混ざるようにして薄っすらと消えていった。
3日目は思った以上に落ちついて日が過ぎて行く。
午前中はそれぞれがスキル検証やそれで出来るレベル上げをすることに専念し、午後は生活用品を揃えるために話し合う。
戦闘組は食料確保と水の確保に森に入る。
一方居残り組は、3日目にして家を手に入れた。
まぁ旧石器時代にあるような超古代的な家だけど。
木を中心で結んで傘のようにして支柱のする。その隙間を大きな葉っぱで重ねるようにしたら簡易的な家ができる。
建築師の職業を持つ人が居るけど、まだスキルが足りないらしい。
一方で女子の圧力もあって水浴び場となる小さなお風呂が作られた。
直系2メートルほどの正方形の形をした穴を掘り、土と水が混ざらないようにまだ凸凹な木の板で隙間を覆う。
そしてなんと水魔法を持っていた女子生徒が少しだが出せるようになったらしい。
まだ室木たちと一緒にいる魔法使いの藤林さんでさえ使えていないというのに凄いことだ。
魔法が出来た時に血走った目が凄かったが、よほどお風呂に入りたかったのかな。
そして僕の方は順調にステータスを伸ばしている。
式神を作っては消して、作っては消しての繰り返し。
これだけでかなりの経験値になることがわかってるからやらない手はない。
阿澄にもこの動作を勧めてやってもらっている。
他に神社でやっていた神事をいくつか行ってみると、スキルとして発現した。
それがこれだ。
名前 アマト キヨミヤ
性別 男
種族 ヒューマン
職業 神主 Lv.14
魔法 神魔法Lv.1
固有スキル 御神体Lv.1 禊ぎLv.1 祈祷Lv.1 祝詞Lv.1 お祓いLv.1 式神Lv.5
エクストラスキル 言語理解 神威耐性 御護り 神血制御
御神体はなんだかよくわからないけど、精神統一をしている時に手に入れた。
言葉的に昔に神を地上に顕現させる時に憑依する体の事を指していたけど、流石にそれは無いだろう。
地球であれば憑依はできるってアマテラス様が言っていたけど、それは互いを知っている神と人間同士。
この世界でまだ神にも会ったことないしまだこのスキルが活躍することはない。
禊ぎは一度使って見たら体が綺麗に浄化されたし、多分浄化系のスキルだと思う。
一度試しに土御門さんにお願いして掛けさせてもらったけど効果はなかった。
文字通り自分の禊ぎだけなんだろう。
祈祷は祝詞を唱えた時に出たスキルだ。
基本的に祝詞は祈祷する際のセリフの事だが、最初は祈祷のことかと思ってたけど別物らしい。
祈祷はまだ効果は分からない。
祈って見ても何も起きないし、やはり対象となる神がいないと意味がないのか。
そして最後にお祓い。
これは他人にも効果がある浄化系のスキルだった。
一度水や人に試して見たら、綺麗に肌についた汚れが落ち、くすんでいた水は綺麗な透明へと戻った。
この力は予想外に女子に人気が出た。
どうやらただ綺麗になるだけではなく、肌の不純物、角質やイチゴ鼻のような黒い点など、本当に全てが浄化されて綺麗な肌になったのだ。
「ありがとう! 清宮くん」
僕は最後の、化粧が崩れて意気消沈していた女子の浄化を終えると座って息を吐く。
本当にすごい効果だ。
あのケバかった女の子が綺麗にすっぴんになったんだから。
最初はスッピンを見られるのは嫌と言われて傷ついたが、汚れを落とさずに肌にダメージを与えるのはそれ以上に嫌らしく僕のところに来た。
まぁ、疲れたけど正直すっぴんのほうがいいとは思った。
なぜあれほどギャルメイクをするのか分からないほど肌は綺麗になってたし、まつ毛もすごい長く綺麗な鼻筋だった。
「お、おつかれぇ。清宮くん。疲れはった?」
僕が座って休んでいると、肌がピカピカと輝く土御門さんが、少し恥ずかしそうに話しかけてくる。
はじめの頃に比べて話しやすくなったけど、まだ目を合わせると少しそらしている。
「ありがとう、土御門さん。役に立ててよかったよ」
「ほんまよ。こんないい力ウチも欲しいわぁ」
綺麗になった肌に手を置いて嬉しそうに肩を揺らす。
土御門さんは浄化前と後でほとんど変化がなく、普段から肌が綺麗なんだろう。
化粧も殆どして無かったし。
それでこの肌の白さって女子ってやっぱ凄いなって思う。
「土御門さんはどう? スキルの方」
「ウチ? まぁ陰陽師っていうからそれっぽいのが多いけど、まだ役に立たへんわぁ。幽霊も居らへんしね」
「幽霊いないの?」
「まだ一匹も見てないんよ。日本にいた頃はそこら中におったのに」
少しむすっと頬を膨らませて不満そうに言葉を漏らす。
初めはここに飛ばされて辛くないかと心配したが、思った以上に元気そうでよかった。
多分みんなが居るっていうのもあるけど、地球の時に入って使えなかった陰陽術が使えつのが嬉しいんだろう。
現代では陰陽術など殆ど必要もなく、幽霊と話せると言っても信じてもらえることなど殆どないしね。
「よかったらいつでもやるよ」
「え、ほんまぁ! 嬉しいわぁ。ウチの為にそんな…」
「え、いやみんなに…」
スキルが有効に使われて嬉しかったので、次からもやると言ったら突然土御門さんが目を見開いて声をあげる。
その後すぐに頬にて手を当てて体をくねらせ始めてしまった。
僕の話聞いてないし。
まぁ怖いから今は声をかけないでおこう。
僕はその場からすっと離れると、太陽に光から逃れるように木の陰へと歩いて行った。
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