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物なんだから無くしたり壊したりする事もある。

仕方ないけれど、ほしなちゃんは謝って弁償するしかない。そしたらアリカちゃんもそれを許した方がいい。写真集よりも仲直りが大事だとお互い思ってるはずだ。けど、そう簡単な話じゃないみたいだ。


「嘘だよそんなの。ほしなちゃんも写真集が欲しくなったから、だから嘘ついて借りパクしたんだよ」

「……それは、決めつけなんじゃないかなぁ?」

「でも貸してすぐなんだよ。なくすなんてありえない!」


アリカちゃんはむすっとしながらお弁当をつつく。

話を聞いて、それだけで判断はしづらい内容だ。

私が知る限りほしなちゃんは欲しいからって借りパクするような子じゃな……


……いや、借りパクはしないけど、又貸しはする子だった。ちょっとルーズな所のある子だから。

同じ事を考えていたのだろう。アリカちゃんはその思い出を語る。


「前にね、二人に少女漫画を貸したでしょ。『ピアノの王子様』ってやつ」

「うん……」

「ほしなちゃん、それを他の子に貸してたんだよ。ありえないよ」


ピアノの王子様。通称ピアプリはクラシックをテーマにした少女漫画だ。私達も借りたし、小学生に人気の漫画だ。

そんな人気の新刊をほしなちゃんが持っている所を見た子が、『休み時間中に読むから貸して欲しい』と言った。

その時ほしなちゃんは本の持ち主がアリカちゃんである事は伝えたし、アリカちゃんは委員の仕事でいなかった。

そしてすぐ読むという事もあって、ほしなちゃんは又貸ししてしまったのだ。


「あれは……ほしなちゃんは気にしないタイプだから又貸ししちゃったんじゃないかな?」

「でもアリカは又貸しなんて許さないもん」


ほしなちゃんはおおらかだから、なんて事ないと思って又貸しした。アリカちゃんは繊細だから、そんな事は許せない。

その一件がむしかえされて、借りパク疑惑に繋がっているようだ。


「でも写真集は無くしただけだと思うよ。誰かが盗んだとか、そういう事もあると思う」

「盗んだ……?」

「太田とか。今日あいつ神田君の本を取って喜んでいたくらいだし」


せめて借りパク疑惑は晴らそうと、新たな可能性を出してみる。

彼女達のクラスには太田がいる。そして太田は前科がある。

もしかしたら太田がほしなちゃんの本を盗む事もあるかもしれない。

……けど太田はどちらかと言うと本を奪われて焦ったりしている被害者を眺めているのが楽しいと思うタイプだ。いつとったのかわからないような事はしそうにない。


「もう少し考えてみようよ。決めつけるのはよくないし」

「……小夜子ちゃんはほしなちゃんの味方なの?」

「私は二人が仲直りして、三人でご飯食べたいだけだよ」

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