そう言われると納得だ。

私達は小学生なんて肩書きが関係ないような才能を持っているから大人の世界で活かせる。

私は身長、リーチ君は頭の回転のはやさ。しかも子供ならではの利点もあるのだから、そう妙な話ではない。


「何か作るには会議で偉い人が許さなきゃいけないんだけどさ、そういう偉い人ってケンジツっていうか頭固いんだよ。これ絶対ウケるからやろう、ってだけじゃできないんだ」

「うん……お金払って新しい事に挑戦して、ウケなかったら嫌だもんね」

「けど、そういう人はデータとか確かなものは信用する。子供の俺が遊んで楽しいってデータが出れば話は通りやすくなるだろ」

「おぉ……」

「まぁ、仕事ってほど立派なもんではないし、社長達も親やねーちゃん達の知り合いだからこんな事できるんだけどさ」


私の尊敬の視線が照れくさいのか、リーチ君は謙遜する。

親の知り合いに頼まれたとはいえ、ただの子供には出来ないような仕事だ。


「小夜子はさ、売り込み用の写真はうまく撮れれたんだろ。これとかすげーかっこいいじゃん」


リーチ君が携帯をいじって画面に出したのは赤いドレスを着た私の写真だった。

それはつい最近売り込み用として撮った写真だけど、それをリーチ君が持っていると思うと恥ずかしくなる。


「どうしてそんなの持ってるの?」

「ねーちゃんにもらった。これすげーよな。小学生には絶対に見えないし、そのまま企業名入れたら広告になりそう」


それは当時カメラさんに言われてお世話にしか思えなかった言葉と同じだけど、リーチ君が言うと素直に嬉しくなった。

彼は滅多にお世辞なんか言わないからだ。


「カメラの前に立つと別人だったんだって?ねーちゃんも褒めてた」

「別人になろうとしてたもん。だからあまり覚えてない」


リーチ君との約束だから私は変わらなくてはいけないと考えていた。

だから撮影中は身長に自信を持とうと考えていただけで、他に何も考えていない。

そのせいか、撮影中の事は覚えていなかった。


「そういうの、才能だと思うぞ。俺がなんかの広告作るなら絶対小夜子を採用すんのに」

「本当?」

「本当。小学生ならフリンやヤクブツとか悪い話起きないし、若いからコンディションは基本いい。ただやらねーとは思うけど酒とタバコ見つかったら完全アウトだけど」


当たり前だけど小学生は不倫も薬物をするはずがない。悪い事をするとその広告は使えなくなってしまうから、お金を出して広告を出す側からしてみれば小学生は安全だ。ただ、当たり前だけど飲酒や喫煙など、未成年がしてはいけない事をすれば普通の子供より厳しい目で見られる事になる。

だから悪い事に興味のない私には、小学生である事はメリットしかないはず。


……だった。


「お。ねーちゃんからだ。出るぞ」


携帯に電話がかかって来て、リーチ君が出る。

私は祈るような気持ちで彼の表情をうかがった。


「……うん。わかった。小夜子にはそう伝えとく」


リーチ君のいつでも好奇心に輝いているような目は一瞬かげりを見せた。

それだけで私にはもう結果はわかってしまった。


「ダメだったって」

「そんなぁ……」


今だけは力を無くす。しかし次の瞬間には、私はリーチ君を問いただしていた。


「どこがダメだったの?経験?体型?顔?なんとか出来る事ならなんとかするから」

「落ち着けって。つうかやる気だな」

「ダメなところがあるから不合格だったんでしょ。そういうところはすぐ直さないと!」


こんな私の態度がリーチ君には意外だったらしい。

私の周囲に見た目のような大人である事を求められたため、中身まで大人だと勘違いされているのかもしれない。


「安心しろ。お前に悪いところは一つもない。原因はサポート側のフビなんだから」

「不備?」

「現場についていけるスタッフがいないんだよ。だから断ったってさ」

「……私、一人でも行くよ?」

「初仕事でそれはダメだろ。ていうか現場男ばっからしいし」

「男の人ばかりだといけないの?」

「ナンパとかされるだろ」

「ちゃんと『小学生です』って言うよ」

「それで引く大人もいるけど、逆に食い付く大人もいるんだよ」

「どうして?」

「……世の中志水先生みたいなロリコンばかりじゃないんだよ。見た目大人でも中身子供なのが好きって奴もいるし、そういう奴のがタチ悪い」


リーチ君の言葉の意味はよくわからないけれど、彼や蘭子さんの心配は伝わってきた。

私か小学生だからとトラブルに巻き込まれてはいけない。だからスタッフも万全な状態で仕事を受けたいのだろう。


「小学生っていい事ばかりじゃないんだね……」

「まぁ、大人みたいな働かせ方できないからな。でも大丈夫。絶対仕事は来るからさ」


リーチ君は携帯を最後に少しだけ操作してから帰り支度する。本当に約束通り帰るつもりだ。


「この流れですぐ社長とご飯に行くの?」

「悪いけどこれ以上なぐさめてやるつもりはねーぜ。どうせお前ならすぐ仕事をとれる、って俺は信じてんだからな」

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