13

さびれた街中であっても鈴木君は声を張り上げた。


「ぼ、僕は、鈴木君に辛い思いをさせて……」

「勘違いするな。僕に辛い思いをさせたのはいじめっ子や適当な対応をした先生達だ!」


殴ったのはいじめっ子。とにかく解決したいがために心の込もっていない謝罪の場を設けたのは先生達。

たすく君は何も悪くない。でもつんつんした態度のせいか、私には鈴木君がたすく君を怒っているように見える。だからたすく君は誤解してすれ違った。


「僕、鈴木君の友達になれる……?」

「バカっ、もうとっくに友達だ!」


二人は私の存在も忘れて熱いやりとりをしている。私だけ居心地は悪いけれど、それも仕方ない。

私は熱血により再び結ばれた友情を見守ることにした。





■■■





スポンジケーキをスライスし、皆で生クリームやフルーツを好きに飾りつける。

当然私達は素人だし、あらっぽい男子も多いしで、この親睦会はめちゃくちゃになりつつあった。


「なんか生クリーム分厚くない?」

「どこかはげちゃうんだよなぁ」

「わっ、ザクロ君その切り方どうやるの?」

「すごーい。果物でお花作れちゃうなんて」


かなり不恰好だったりたまにザクロ君の超絶技巧があったりするけれど、皆で飾りつけしたホールケーキは二つ完成した。

もうその時にはゼロ組と受験クラスの垣根は存在していなかったようだ。

そして二つのケーキは志水先生が八等分に切って、海野先生はジュースを買いに行ってくれた。


そして各自好きな部分を取って食べる。不恰好でもほぼ市販品に手を加えただけのケーキは間違いなくおいしかった。


「小夜子、ほっぺたついてる」


私もリーチ君に指摘されるまで気付かないほどケーキに夢中になる。確かに頬にはクリームかついていた。


「こっち?」

「いや、こっち」


そう言ってリーチ君は指先を私の頬に向け、クリームを拭った。

そしてそのまま口へ運びぺろりとなめる。

あまりの事に、私はフォークを落としそうになる。


「……リーチ君ってたまに恥ずかしい事するよね」

「恥ずかしい?うちのねーちゃん達や両親達は余裕でこれぐらいやるけど。つーか口で直にやるんだぜ」


つまりそんな愛情表現に慣れたリーチ君はクリームを指で取るくらいなんて事ないのだろう。

驚いたりドキドキしても損だと私は頭を冷やす。


「思いのほかうまくいったなー」

「ケーキ?確かにおいしいよね」

「そっちじゃなくてさ」


リーチ君が視線でしめしたのはたすく君と鈴木君が並んでケーキを食べている所だ。

二人とも笑顔で苦手か好きなフルーツを交換しあっている。

確かにうまくいってよかった。


「うん。仲直りできて良かった。ここまで計算してたなんて、リーチ君はすごいね」

「別にすごかねぇよ。あいつら本当は仲直りしたがってんだから。もし俺らが勝負に負けて、受験クラスに入る事になっでもあいつら勝手に仲直りしただろーし」


缶詰の桃で出来た黄色い花を、リーチ君はぱくりと一口で食べた。

確かにたすく君を受験クラスに入れるという目標を達成した鈴木君なら、あっという間に二人は和解したはずだ。


「ま、小夜子のサポートがあってこそだよ。あのネガティブたすくをうまい事たきつけたようだし」

「たきつけたって、ただ励ましただけだよ」

「それが効果ばつぐんだったんだよなー。やっぱ女子の力はすげぇわ」


私が女子でなくてもたすく君はがんばっただろうけど、リーチ君に認めてもらえるのは嬉しい。


今回たすく君も鈴木君も間違っていない。だからこそリーチ君はゼロ組として、二人をそれとなく和解させようとしたのだろう。

そして私も、ゼロ組としてそれを解決できた事を誇りに思う。




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